心の裡を曝け出す

(表小説 「凍れる街」くらい)


 さむい。おなかすいた。おなかすいた。さむい。おなかすいた。

「おなかすいた・・・さむい・・・」

 頭の中でぐるぐるそんな事ばかり考えていたせいか、うっかり言葉が口から漏れてしまった。
文句が大嫌いな一緒に旅している剣士は、眉をつり上がらせて振り向いた。

「嫌ならさっさと港へもどれば良い。それが嫌なら、だまってオレについてこい」

 容赦無い言葉と北風が体を突き刺していく。
ユナはぶるっと身をすぼめると、ぎゅっと口を結んで歩き出した。


辺りが暗くなってきたのは、雲が更に分厚くなったワケじゃ無さそうだ。
空は雪雲に覆われていて時間の感覚は無かったが どうやら日が暮れてきたらしい。
暗くなるにつれて、徐々に気温も低くなる。

港で要り様な物は調達してきたはずだけど
さすがにこんな中、外で野宿するなんて命に関わるんじゃないか??

不安はどんどん増していったが
先ほどの事もあってか、黙ってテリーに付いていくしかなかった。

今度こそ、本当に怒りそうだし・・・。怒ると次の日まで機嫌悪いからな〜・・・。
外見は大人びてるクセに、内面は子供なんだよな〜テリーって。

突然、少し前を歩いていたテリーが振り返った。

心の中を見透かされたのかとぎょっとしたが、どうやらそうではないらしい。

「山小屋だ。さっさと来い」

 その言葉に慌てて辺りを見回すと、木々に埋もれて、確かにそれらしきものが見えてくる。
疲労と寒さから解放されるかもしれないという思いから、ユナは飛ぶように駆けていった。




「うわあ、すっげ〜!!ちゃんとした山小屋だ〜!!窓もちゃんとしてるし、中も暖かいし暖炉もある!すっげ〜〜!!」

 山小屋は思ったより寒さをしのげる作りになっていて、暖炉と、部屋の隅には蒔きも積まれてあった。
軽く10人は眠れそうな寝床に、テリーとユナは腰を下ろした。

「昔、魔物が少なかった頃はここを通る旅人や馬車も多かったと聞く。その名残だろ。
ここの他にも、マウントスノーへ続く道にいくつか山小屋はあるらしいからな」

「なんだ、山小屋があるって知ってたのか?じゃあ教えてくれればいいのにさ、野宿かと思って心配した〜」

「だから、さっさと歩けと言っただろ?」

 知っていた。という意味の言葉を返す。テリーは部屋の隅にあった薪を暖炉に入れて

「お前は暖炉に火を入れてろ。オレは小屋の周りを見てくる」

「うん、分かった」

 テリーは早々にマントを羽織って小屋から出て行った。
ユナはメラで薪に火を付けると、みるみる暖炉に明るい光がともっていく。
特殊な術が施されていたのか、薪は時化っていなかったらしい。

寒さから解放されて ふっと安心すると、今度は空腹が襲ってきた。

「おなかすいた・・・」





 吹雪いてきた外から、ようやくテリーが帰ってくる。
てっきり暖を取っていると思っていたが、ユナは一番寒いはずの窓の側につったって外を眺めていた。

「あっ、テリー・・・おかえり・・・。吹雪いてきたみたいだけど・・・大丈夫だった・・・?」

「ああ、吹雪いてきたのが好都合かもしれないな。魔物の気配もない。向こうも巣に引っ込んでるようだ」

 そっか・・・。小さな声でそう返すと、また窓を見つめる。

「・・・・・・・・・?」

 窓の外になにかあるのか?
不審に思い、後ろから近付いて窓を覗くと、

「・・・・・・っ!!!!」

 ものすごい勢いでユナが横へ飛び退いた。

「・・・・・・?」

 窓を見るが別段珍しいものは無い。むしろ、外気との気温差で白く曇っているだけだった。
そして今度は思い切り横に飛んだユナへ目を向ける。

「どうしたんだ?」

 そして一応の言葉をかけると、相手はブンブン首を振って

「いやっ、なっなんでも、ない!」

 赤い顔で返すのはいつもの事だったが、今日はいつもと勝手が違う気がして
テリーはもう一歩ユナに近付いた。

「だっ、だから何でもない、から!大丈夫だから!」

 明らかにおかしい言動。ユナは一人でうんうん頷くと、隣の窓へ移動してまた外を眺めた。

「・・・・・・・・・?」

 テリーは少し怪訝に思うも
放っておいたら元に戻るだろう。と考え、暖を取ろうと火の近くへ寄る。
大分暖かくなった所で、ユナが声をかけた。

「そうだ、テリーおなか空いたろ?これ・・・スラリンから食べられるキノコって聞いたから
採ってきたんだけど・・・」

「・・・?」

「オレ、我慢出来なくてさっき食べちゃったんだけど。甘くておいしかったよ」

「・・・・・・っ!!!」

 それは、思い出したくもない記憶に出てくる忌まわしい物体。
もう二度と見ないだろうと思っていただけに、目を丸くして仰け反る。

「どっどうしたんだ?えっ、もしかして毒キノコだった!?」

 テリーの動揺っぷりにぎょっとして、手に持っていたキノコを見つめた。
ほのかなピンクがかったキノコは、ふわふわとした甘い匂いを漂わせている。
テリーは自分を落ち着けるように咳払いして、

「いや・・・毒ってわけじゃないんだが・・・」

 場合によっては毒よりやっかいなものかもしれない・・・。
さすがにそれは口には出さず、息を飲んでユナに尋ねた。

「お前・・・そのキノコどれぐらい食べた?」

「えっ、どれぐらいって・・・これと同じくらいだけど・・・」

 毒じゃないと聞いて少し安心したのかユナが答える。
ユナの手に持っているのは片手で掴んでちょうどいいぐらいのキノコが一本。
テリーの知っている標準サイズだったが・・・。

テリーは息を吐いて頭を抱えた。

「お前・・・体は何ともないか?」

「えっ・・・そう言えば・・・さっきからなんか体が熱い・・・けど・・・」

「・・・・・・」

 もしかしたら窓に寄っていたのはそのせいか?

「他におかしな所は?」

「今の所は無い・・・と思うけど・・・なあ、このキノコ、やばいもんだったの?」

 不安げに尋ねる。

「・・・・・・」

 暖炉で炙ったのか、甘い匂いが微かに漂ってきた。
俗に良い匂いなんだろうが、テリーにとってはあの時の事を思い出す、嫌な匂いでしか無い。
気が変になりそうだ。

テリーはユナの持っていたキノコを受け取ると、ドアを空け、外に放り投げた。

「・・・裏じゃ一本5000〜10000Gくらいで取引されてるみたいだがな。その取引所のサンマリーノ
まで行ってる間に腐るだろうから。持ってても仕方ないだろ」

「いっ!いちまん!?」

「馬鹿な金持ちの道楽さ」

 冷めた瞳でテリーはユナを見つめた。その瞳に射貫かれたかのように、ユナは体が痺れて
その場にへたり込む。

「・・・大丈夫か?」

「はっ!!あっ!!うっ!!ちょ、ちょっと大丈夫じゃない、・・・かも・・・!」

 奇声をあげてユナはテリーに背を向ける。
そしてしばらくして落ち着いたのか、ユナはゆっくりと立ち上がって

「いっいちまんって・・・オレが食べたキノコ、一体どんなもんだったの・・・?」

「・・・それ・・・は・・・・・・」

 テリーはその問いに言葉を濁した。ユナは両手を振って

「ごっごめん!言いたくないなら・・・いい・・・!」

 気を遣っての返答だったが、ユナも迫り来る体の異変に恐怖を感じて言葉の先を拒んだ。
迫り来る異変。
体中がたまらなく熱い。心臓がなぜか早く打ち出す。テリーを見つめると体が痺れて、立ち上がる事も出来ない。
両肩をぎゅっと抱いてテリーを見上げた。

「あ、の、オレ、外に出よう、かな・・・」

「・・・バカ。この吹雪だ。さすがに凍死するぞ」

「一晩ぐらいなら大丈夫だよ。体もすごい熱いし、毛布だって持ってきたしさ。それに・・・」

 テリーと目が合って言い淀んだ。気付いたテリーが言葉を付け足す。

「それに・・・オレが居るからか・・・?」

「・・・・・・っ」

 思って居た事を言い当てられて戸惑うユナに更に追い打ちを掛けた。

「言っておくが、その熱は更に激しくなる。それに体が熱いと感じるのは錯覚だ。
お前が食べたキノコは人の頭を混乱させる、幻惑茸の一種だからな」

 仕方無く、テリーは記憶の扉を開けた。

「金持ちの道楽って言っただろ?奴らの道楽なんてたかが知れてる。
お前ももう気付いてると思うが・・・そのキノコは・・・」

 ユナの心臓が早く激しく打ち出す。体が何かを激しく欲しているのに気付いた。

「人の性欲を増長させるんだ。それも、かなり」

「・・・・・・・・・っ!」

「寒い地方に生えるっていうのは本当だったんだな。生物の繁殖を助長するためか?」

 テリーは冷静に喋ってはいたが、内心そうではなかった。
昔、あのキノコを口にした事が思い出される。
好色家に世話になっていた頃、ノリ気のしない時にあのキノコを食わせられていた。
あのキノコを食べると、気色悪い好色家とですら、やりたくて仕方が無くなる。
生殖という本能を助長するのか、誰かを抱きたくてたまらなくなるんだ。

「・・・・・・」

 聞いていたユナの瞳が潤んでくる。押し寄せる何かを振り払うようにユナは頭を振って

「あ、あのさ、このキノコの効果、どれぐらいで切れるもん、なのかな・・・?」

 口から飛び出してきそうな程激しい心臓の音が体中に鳴り響く。
その音は声すらマトモに発する事を許してくれない。

「・・・高値で取引されてると言っただろう・・・。それはその行為を楽しむための金だ。
効果が切れるまで何もしないバカなんて居ない。逆にやってしまえば、効果が切れるというのは
間違い無く分かってる」

 ・・・テリーは言ってしまった言葉に舌打ちした。

「そ、そっか・・・ハハ・・・とんでもないもん食べちゃったんだな・・・ハハ・・・ハ・・・」

「・・・・・・」

「さ、さすがに一晩我慢すれば・・・大丈夫だろ・・・?とりあえず・・・明日の朝まで待ってみるよ」

 苦しそうに背を向ける。その背に手を伸ばそうとしてすんでの所で押しとどめた。

オレがこいつを抱けば、済む話だ。
こいつの気持ちは、もう知ってる--------・・・。オレがこいつを抱けば良い・・・・・・。

テリーは息を飲んでぎゅっと拳を結んだ。

だが、こいつを抱けば後に引けない事も知ってる。認めたくないその理由も。
何とも思っていない女なら、いくらでも抱けるのに。今までそうしてこれたのに。
ユナに触れる事だけは、オレの中の何かが頑なに拒んでいた。

「・・・街に戻るか・・・」

「・・・・・・っ?」

「街に戻れば男が居る。そいつらに頼めばすぐに・・・」

「冗談言わないでくれよ・・・っ!!そんな事、死んだって、するもん、か・・・っ!」

「じゃあどうするつもりだ?そんな体で明日の朝までなんて耐えられるのか?」

「耐えるよっ!耐えなきゃ仕方無いだろ!」

 床に体を預けて背を丸める。

 小刻みに体が震えている。オレも、昔、好色家を抱くのが嫌で必死に迫り来る欲情に耐えた。
だが、キノコの効力は予想以上に強力で1時間と持たなかった。

「・・・・・・」

 テリーは息をついて立ち上がった。その手にコートと毛布を持って

「外で寝る。オレが居るよりは我慢出来るだろ?」

「・・・・・・何言ってるんだよ!自分から凍死するって言ったくせに!」

「お前の場合はな。オレだったら毛布さえあればなんとかなる」

「バカ言わないでくれよ!だったらオレが出るよ・・・っ!」

「・・・・・・っ!」

 テリーはユナの手を引き留めた。
ユナはそれだけで飛び上がって、うっかり尻餅をついた。

「オレとお前じゃ鍛え方が違うんだ。お前だと本当に凍死するぞ」

「・・・・・・」

 テリーの言葉は全て正しく聞こえる。渋々頷くと、出て行こうとするテリーを引き留めた。

「オレは大丈夫だからさ・・・頼むから外には、出ないで・・・」

「ただでさえ足手まといなんだからさ、これ以上迷惑かけたくないよ・・・。
吹雪の中眠るなんて、んなの無理に決まってるじゃないか…っ!」

「・・・・・・」

「頼むから・・・オレなら、大丈夫だから・・・・・・」

 そう言ってユナはよろよろとドアの所まで歩み寄ると、そのままへたり込んだ。

「・・・な・・・?」

 精一杯の作り笑い。

「こんな所までやっかいごと持ち込むなんて。本当に足手まといだな」

 皮肉。心底から出た皮肉では無い。そうでも言わないと、自分もなにかの渦に巻き込まれそうだった。
ユナに触れるなという警鐘は何処か遠くで聞こえる。

テリーはなるべく離れた部屋の端に横になった。





 あれから、2時間程たっただろうか。
テリーはユナの事が気になって眠れずに居た。昔のオレは1時間で発狂しそうになったんだ
2時間もあれをやり過ごしているなんて、どれだけ我慢しているのかしれない。

「・・・ユナ・・・」

 居たたまれなくなって、テリーは遂に口を開いた。

「眠れないだろ・・・?眠れるはずがない・・・」

「・・・・・・」

 ユナは答えなかった。オレに心配掛けさせまいとしているのか--------。
いつからこいつはこんなにいじらしくなったんだ・・・
いつからこいつはこんな風になったんだ・・・・・・。

寝言で聞いた告白、サンマリーノでの出来事や定期船で悪夢を見た時を思い出す。

「・・・・・・・・・」

 固く結んだ拳をゆっくりと開いた。

「・・・・・・オレなら、いいか?」

 立ち上がって、そっとユナに近寄る。

「オレになら、抱かれても大丈夫か?」

「・・・・・・・・・っ!」

「街の男がダメでも、オレならまだマシだろ・・・」

「ちょっ!まっ、待てよ・・・!そ、そんな、う、うそ・・・だろ・・・っ!」

「一晩我慢するなんて無理に決まってる。こうするより他ないだろ」

「だ、だって・・・テリー・・・だって、こんな・・・オレと・・・そんな事・・・む、無理だろ・・・!」

「・・・・・嫌か・・・?」

「・・・っ!や・・・オレ・・・は・・・別に・・・・・・!それに・・・オレより・・・」

 視線が泳ぐ。

「オレよりテリーが・・・」

 ぎゅっと胸が締め付けられた。心臓が滝壺に堕ちる濁流のように脈打っている。

「・・・・・・オレは構わない・・・」

「・・・・・・っ!」

「今夜だけだ・・・」

「・・・・・・今夜だけ・・・?」

 テリーはゆっくりと頷いた。

「夢だと、思えばいい・・・」

「・・・・・・」

 いじらしく耐えるユナを目の当たりにして、ユナに触れないのは自分のエゴでは無いかと思えた。
今、ユナを介抱出来るのは自分しか居ない。
ユナも心の奥でそう望んでいる。
そして自分も心の奥でそう望んでいる。

とっくに気付いていた。

「テリー・・・」

 じわりとユナの目に涙が浮かぶ。

「ごめ・・・ありが・・・とう・・・」

 ありがとう というユナの言葉が何故か心に刺さる。テリーはこんな時でさえ、優しい言葉をかけられなかった。

「バカ、仕方無いだろ・・・」

 ユナは、うん。と小さく頷く。

2時間耐えたんだ。じらすのは可哀相だ。
テリーは素早くユナの衣服全てを脱がせた。

きつく巻かれたサラシをナイフで切ると、押し込まれていた胸が弾ける。

「・・・・・・・・・っ!」

 サラシのせいで気付かなかったのか、予想より大きな胸に動きが止まってしまった。
ユナは、恥ずかしそうにぎゅっと目を伏せている。
テリーは暖炉の炎に照らされた豊満な体から目が離せなかった。下部がますます熱を帯びて硬くなる。

「・・・テリー・・・・・・」

 ずっと見つめてしまっていたのか、ユナが耐えきれなくなって恥ずかしそうに口を開く。

「ああ・・・」

 予想通り、ユナの秘所からは愛液があふれだしている。勿論、テリーのモノも随分前から興奮しきっていた。
テリーは息を飲んで、ゆっくりとユナの中へ侵入した。

「・・・うっ!…あっ!」

 待ち望んでいたモノが来て、中は熱い熱を帯びてくる。

「ふ・・・うっ・・・」

 愛液はますます溢れ、どんどんテリーのモノを飲み込んでいく。

「・・・こん・・・な・・・ぁっ!・・・ふっ・・・うっ・・・!」

 テリーは前からユナを抱きかかえるように挿入した。そして豊満な胸に顔を埋めて何度も突き上げる。
痺れるような快感がどちらの体にも突き抜けていく。

「うっ・・・ふっ・・・うっ・・・!・・・っ・・・!」

 キノコを食べて性行為をする気持ちよさはいつもの比じゃないのに
ユナは声を我慢しているように感じて、テリーは顔を見つめた。

「・・・・・・っ」

 ユナは目をぎゅっと閉じて、唇を噛みしめて快感に耐えているようだった。

「・・・やっぱり・・・嫌・・・か・・・?」

 性欲が一瞬引いたのをキッカケにテリーが問いかける。ユナは目を閉じたまま顔を振って

「・・・嫌じゃない!・・・嫌じゃないけど・・・恥ずかしくて・・・・・・っ・・・ごめん・・・目開けられない・・・」

 良く見ると真っ赤に赤面して顔を背けた。
こんな時でもいつも通りのユナ。テリーは唇を緩ませて、再びゆっくりと中へ侵入した。

「・・・・・・っ!」

「ユナ・・・」

「・・・・・・っ」

 名前を呼ぶとユナの体中が反応しているのが分かる。膣はぎゅっと締まって、テリーのモノを放すまいと食い込む。

「・・・せめて声は我慢するな・・・辛いだけだぞ・・・」

「・・・で・・・でも・・・」

 テリーのモノがぎゅっと奥まで入ってきた。

「・・・っ!」

 同じ体位で前から抱きしめられ、下から突き上げられる。

「あっ・・・んん・・・あっ・・・ひゃ・・・ぁっ・・・!」

 声を我慢しようとしても無理だった。感じた事のない気持ちよさが押し寄せる。
肌を伝わって直に感じるテリーの体温に声、唇。

「ユナ・・・」

 そっと目を開けた瞬間、アメジストと目が、会う。

「・・・・・・っ!ぅあっ・・・・・・んんあっ・・・テ・・・テリー・・・っ」

 艶っぽいその声と紅潮した表情で名を呼ばれ、心臓がこれ以上ないほど高鳴った。

「・・・ああ・・・」

 それでもテリーは平静を装って行為を繰り返す。
ユナはタガが外れたのか、目を閉じるのをやめ自分の名を呼んでくれる。

「テリー・・・オレ・・・オレ・・・あっ・・・んっんん・・・っ!やっああっふ・・・ぁっ!!」

 喘ぐ声はますますテリーを興奮させる。
見上げると慌てて顔を背ける。それでも気持ちよさに耐えられないのか、恥ずかしいながらも声を上げてくれた。

「あっはっ・・・うっ・・・テリー・・・!」

「あっ・・・あぁっ・・・ユナ・・・っ!!」

 強い締め付けは驚くほど早くテリーを絶頂へと導いた。
テリーは慌てて引き抜くと、白濁液が勢いよく飛び散る。

「ハァ・・・ッ・・・ハァ・・・ッ・・・」

 久々の感覚。ある程度たまったものは吐き出せたが、キノコの効果はこんなものじゃ切れない。
なにより自分もまだ、行為を止める気にはなれない。

「・・・テリー・・・」

「ああ・・・分かってる・・・」

 テリーは額の汗をぬぐって、外衣をシーツ代わりにユナを寝かせた。
そして、覆い被さるよう正常位から中へと挿入する。

「ん・・・っ!」

 先ほどの体位より良くユナの顔が見える。やっぱり顔を背けて、快感に堪え忍んでいるようだった。

「ユナ・・・・・・」

 じっと見つめると、ゆっくり目を開いたユナと目が合う。向こうは涙ぐんで

「テリー・・・テリ・・・ご・・・め・・・・・・ごめん・・・」

 そう繰り返す。その言葉が胸に響いて、テリーの感情を揺さぶった。
あれだけこの行為を拒んでいた理性が崩壊する。

「バ・・・カ・・・謝る・・・な・・・!」

 ユナが返すより前に、テリーはユナに口づけた。

「――――っ!」

 キスはしないと決めていたが、そんな事を考える余裕は今のテリーには無い。

「ん・・・んん・・・っ!」

 むりやり口を開かせ強引に舌を入れる。
ユナは、戸惑いながらもゆっくり舌を絡ませてくれた。

「ん・・・ぅっ・・・んん・・・!」

 テリーは腰を動かしながら、ユナの口内を貪った。

「ふっ・・・うっんん・・・うっ・・・んん・・・っ!」

 喘ぐ声の代わりに激しい舌戦。そこら中に広がるいやらしい音、快感、キス。
テリーはまたも予想外に早い絶頂を感じて 腰を引いた。

「・・・・・・くっ・・・」

 そして一瞬遅れて 白濁液が飛び出す。

「・・・わ・・・るい・・・ユナ・・・また・・・」

「・・・・・・え・・・・・・ん・・・うんん・・・・・・大丈・・・夫・・・」

 とろけるような瞳で返す。濡れた唇とその表情。
テリーは我慢出来ずもう一度、ユナにキスをした。

「・・・テ・・・リィ・・・」

 ようやくユナはその行為を理解したのか、涙ぐんでそのキスを受け入れる。
それからテリーはユナと同じように床に体を預け 横から沿うような体位で突き上げた。

「ひゃっ!あっ!」

 違う角度で入る行為はまた違った快感で、ユナはたまらず声を上げた。

「んっふぁっ!んあああっ!」

「う・・・く・・・ユナ・・・っ!ユ・・・ナッ・・・・・・!!」

 たまらないのはテリーも同じで、声を上げる。

「や・・・あっ・・・んんん・・・うっ・・・んん・・・テリ・・・ッ・・・やああっ!」

 テリーは横からユナの足を持ち上げ、更に奥まで突き上げた。





「あんんっ!あっ!あっ!テリィッ・・・オレ・・・ッ・・・オ・・・レ・・・っ!!あああっ!」

 ユナの口調そのままで、激しく声を上げる姿に益々欲情する。
艶めかしい声も美しい肢体も揺れる大きな胸も
こんな時でも男っぽい口調であえぐ所もたまらない--------------

「あんっ!あっあっ・・・!!テリー・・・っ!!ふ・・・あっ!!ん・・・く・・・あっ!」

「ユナ・・・っ!ユ・・・ナッ・・・!」

「あっふっ・・・うっ・・・あああっ!テリーーッ!オレ・・・なん・・・かっ!」

「ああ、ああ・・・分かってる・・・オレ・・・も・・・も・・・う・・・」

 ドクン!
間一髪抜いたモノから液が飛び散る。同時にユナもイったのかビクリと体が反応して、力が抜けたかの
ようにへたりと床に体を預けた。

「う・・・んっ・・・んうぅ・・・・・・っ」

「・・・ユナ・・・大丈夫・・・・・・か・・・?」

「・・・ぅん・・・・・・」

 ちらりと、テリーは床に目を向ける。3度も出してしまった自分。
それは多分、そういう気分だからだったとか、最近出していなかったとか・・・それだけのせいじゃない。
もう既に理由は分かっている。

「・・・は・・・ぁ・・・」

 ユナは、ゆっくりと恥ずかしそうに目を開けた。欲求から解放されたテリーはようやく、ユナの体を見つめる。
一人旅が長かったせいか、体中の至る所に傷はついていたが気になるほどじゃない。
それよりも、衣服に隠れて普段からは想像出来ない大きな胸や、細い腰や、白い肌、女性らしいラインを持つ体に
テリーは釘付けになってしまっていた。

「・・・ぅあっ・・・!の・・・!」

 ユナの恥ずかしそうな言葉をキッカケに我に返ると、慌ててマントを羽織らせてやった。

「・・・もう大丈夫だ。一回イけばキノコの効力は切れるはずだ」

 ゴホンと咳払いして、テリーは自分の白濁液と一緒に塗れたユナの愛液に目をやった。
途端にさっきの映像が蘇って顔を背けた。

「あ・・・・・・の・・・・・・」

 下に引いていた外衣で全身を覆って、ユナは上半身を起こした。

「あの・・・さ・・・テリ・・・・・・」

「もう二度と」

「・・・・・・っ」

「もう二度と、こんなやっかいごとを、持ち込むなよ」

 テリーは突き放すようにそう言うと、小屋に備え付けられていたタオルで飛び散った液を処理する。
タオルを扉から外に放り投げると、そのままユナの方を見る事もなく、ユナから離れて横になった。

「・・・・・・うん・・・」

 小さく、寂しそうなユナの声だけが響く。
それから服を着て、同じように毛布にくるまって横になる音。

先ほどの熱い抱擁が嘘のように小屋内は静まりかえった。
暖炉の木々が燃える音だけが虚しく響く。

『テリー…』

 濡れた瞳と声が蘇ってきて、テリーは唇を噛みしめた。

『ん・・・うぅ・・・あっんんっ!あっ!ああっ!』

 艶めかしいユナの映像は色あせることなくリアルに再生される。
3度満足したというのに、胸は熱く駆り立てられ、下部に熱を帯びる。
キスも、喘ぐ声も、紅潮した表情も、体の熱も、快感も、脳裏に焼き付いて離れない。

今夜だけだ。今夜だけの過ちだ。オレはこんな事望んじゃいない-------・・・。

テリーは何かから必死に抗うように、心の中で呟いた。





 朝。起きるとユナは既に支度を済ませて、吹雪の収まった雪原に出て背伸びをしていた。
小屋から出てきたテリーに気付くと、一瞬ぎこちない顔をして

「おっ…おはよ!」

 と一応の挨拶を返した。

「ああ」

 テリーは動じることもなくいつも通り素っ気なく返して、さっさと身支度を済ませる。

「今日も昨日と同じペースで歩かないと野宿になる。さっさと出発するぞ」

「う、うん・・・!」


 二人は心のずっと奥底に仕舞うことにした。
昨夜の、初めて味わった甘い夜の事を―――――――。