■ユナの冒険




―テリーことを他の誰よりも理解している、そう思っていた.・・でも、本当は、何も知らなかった.



―大陸横断船「ファントム」

テリーとユナたちは、まだ見ぬ大陸を目指し船に乗りこんだ.
船内で食事をとっていた.
丸いテーブルを囲んでの食事、ふとユナは、正面にいるテリーの胸元に瞳を止めた.
エメラルドに輝くその石に、ユナは引き込まれそうになる.

「テリ―、その石どうしたんだ?やけに大事そうに胸元にしまっているみたいだけど」

「・・・」

 無言でその石を服の中にしまう.

「もしかして、女からもらったとか?」

「おまえには関係ない」

 そう答えて、黙々と食べつづけている.

「貴様ぁーっっ!!ユナ様に対してなんという態度!!」

 ピエールは立ちあがる.周りの人々の注目が、一斉にピエールに集まる.

「うるさい、静かに食事もできないのか」

 テリーは冷静だ.

「何ィー!!」

「ピエールやめろ.俺が悪いのだから.テリ―、・・・ゴメン」

「しかしっ・・」

 ピエールはまだ何か言いたそうである.

「・・・」

 返事をせずに黙々と食べつづけるテリー.

ユナは知っていた.夜な夜なテリ―がその石を月にかざして眺めているのを.
その時のテリーの瞳が、哀しげなことも.

「ユナさまーどうしたの?具合が悪いの?」

 ホイミンの声で我に返る.

「えっ、べ、別に・・・.」

「何ぃーっっ、具合が悪いですと〜ぉ、私めがホイミをかけましょう!!ホイミ」

 ―しかし何もおこらなかった.

「落ち着けよ・・」

 メッキーに諌められるが、ピエールはまだ騒いでいる.不意にテリーが立ちあがる.

「テリーどこに行くんだよ?」

「食べ終わったから部屋に戻るだけだ.」

 顔を見ずに淡々と答え、テリーは部屋に戻った.







―大丈夫、また必ず会えるから、これはその証.
そういってあの人は優しく抱きしめながら言った.



 ユナも食事を終え、部屋に戻った.
ユナは部屋の前で立ち止まり、テリーがいる隣の部屋のドアをじっと見つめていた.
不意にドアが開く、テリーだと思ったが予想に反してホイミンだった.

「あ、ユナさまー.テリーさんに用事?でも部屋にいないよー」

「え・・・.」



―甲板
部屋に戻るといっておきながら、テリーは甲板にいた.
見上げると、晴れた空に星が瞬き、月が優しい光に満ちている.

テリーは胸元から石を取り出し、月にかざす.
月の光を浴びた石は輝き始めた.そして、思い出す.
あの人が自分に言った最後の言葉・・・.だが、どこにもいない.

―なぜあなたはどこにもいない.

テリーは四つの可能性を考えていた.
一つ目は、まだ知らぬ村や町で幸せに暮らしている場合.
二つ目は自分と同様旅をしている場合.
後の二つは・・・
―考えたくもない.
石をまた胸元にしまい、夜風に身を任した.



ユナは、テリーを探した.

―何故?

わからない.これといった用事があるわけではない.
だが、探した.
甲板で、見つけた.しかし、それはユナの知らないテリーだった.ユナはただ立ち尽くすだけだった.



翌朝船は、大陸についた.ユナ達は船を下りて町を目指した.











―もう、2度とこの町に戻ることはないだろう・・・
少年は、振り返ることなくその町をあとにした.



―船を下り、町を目指す

「お〜い、メッキーどうだった〜?」

 北の空から飛んで戻ってくるメッキーにユナは尋ねる.

「まだ町までは大分あります.明日の午後にはたどり着けるのでは?」

 メッキ―はそう言いながら下降してきた.

「だってさ、テリー、やっぱり今日は野宿だな.」

 テリーに同意を求めるユナ.

「・・・」

「テリ―?」

「・・ああ、そうだな・・・」

 うわのそらで答えるテリー.ユナは不思議に思っていた.

―どうしたんだろ、テリ―.この大陸に来てから、なんか変だなぁ・・.

テリーは違和感を感じていた.この地に立ってから.

―違和感?

違う.なんと言うのか、前にもこの地に来た事があるような・・懐かしさ?
そう云うものを感じているのであった.

「・・リー、テリ―!!」

 はっと我に返る.目の前にはユナがいる.

「どうしたんだよテリ―?なんか変だよ?」

「何でもない」

「何でもなくないだろ?船下りてからずっとボ〜っとして.」

 テリーは黙っている.

「貴様〜ッ!!ユナ様のこのお優しいお心遣いを無下にするのか〜ッ!!」

 テリーは無視して森のほうに入っていった.

「こらー話を聞け―ッ!!」

 ピエールはまだ怒っている.
ユナは、森へ進んで行くテリーの後姿をじっと見つめていた.




 次の日、ユナ達は町を目指し再び歩き出した.町に着いたのは昼過ぎであった.
テリーはその町を見た瞬間、急に方向を変え、来た道を戻ろうとした.

「テリ―、どこ行くんだよ!!せっかく町に着いたのに!!」

「・・・」

 テリーは返事もせずに歩き出した.

「オイっテリー!!町に入らないのかよっ!!」

 テリーを必死に呼び止めるユナ.

「うるさい、俺の勝手だ.」

 そう言い放つ.

「・・.でも、なんでっ!!」

 返事をしないテリ―

「わかったよ、俺達だけで行くからな.」

 ユナは諦めて、メッキ―達と5人(?)で町の中へ入っていった.







―この娘は魔女だ!!わが夫をたぶらかす魔女だ!!捕らえて牢屋に入れておけっっ!!


「ようこそ、ガンディーノ城下町へ.」

 町へ入ると、明るい声で歓迎された.

「あら、あなたは旅のお方?」

「ええまぁ・・.」

 ユナは答えた.

「すごいわ〜、女の子なのに旅をしているなんて、それにお供にモンスターを連れているなんて、憧れるなぁ〜.」

「そ、そうかな〜」

 気軽に話し掛ける町の娘にユナは好感を待った.彼女の長い髪がさらりと揺れる.

「お嬢さん初めまして、ピエールと申します.以後お見知りおきを」

 紳士的な挨拶のピエール、他の仲間たちは呆れていた.

「いい町ですね〜」

 ユナはお世辞ぬきでいった.

「ええ、今の王様がすばらしい方だからなの.前王と違って・・・あ、王様に会いにいってきたらどうかしら?」

 哀しげな表情も見せたがすぐに笑顔を取り戻して彼女は言う.

「会って・・いいんですか?」

「もちろんよ.王様は旅人大歓迎なの.」




―城内

「ほぉ、そなたたちは旅人でいるのか、女性が、しかもモンスターを引き連れているとは、なかなかなことだなぁ」

 王様はたいそう感心していた.

「どれ、そなた達の旅の話をしてはくれまいか?私も、公務で多くの町に行っているが世界は広い.
そこで旅に方々から村や町の様子を聞いて、わがガンディーノがより良い町となるための参考にしているのだ.」

 ユナは事細かに、今まで訪れた村や町について語った.

「フム、なるほど、そんな町もあるのか、一度訪れたいものだ.」

 王様はかなりご満悦のようだった.

「・・・つかぬ事を聞くが、そなた達の訪れた町や村に、
金髪の、エメラルドの瞳をした少女を見かけなかったかね」

「少女?」

 ユナは聞き返す.

「性格には女性ですな、もう18〜19くらいでしょう.」

 大臣が答える.

「・・いなかったかと思います・・が.」

 ユナはメッキ―達のほうを見たが首を横に振っている.

「そう・・か.」

「どう云う関係何すか、その女と」

 メッキ―が突っ込んだ質問をする.

「メッキ―、失礼だろ.王様、とんだご無礼を」

 曇った表情で

「償うべき、存在・・であろうか」

 とだけ答える.

「王様、それはっ」

「良いのだ、大臣よ.過去の罪を隠していて、より良い政治が行えるのか?」

「しかし・・」

「これは、前王の治世の時のことだ―」

 そういって王は語り始めた.







―少女は月を見ていた.
何処へいようともその輝きは変わることはない月―牢屋の中でも
月に石をかざした.アメジストに輝く石を.
そして月に祈った.



王は語り始めた.

「前王は徴収に16歳以上の男性は城兵に、女性は召使として城内で働き自らに尽くすように命じたのだ.
特に召使のほうはギンドロ組みと手を組み、売られてきた娘も城につかわしていた.
その娘もまた、ギンドロ組に売られた娘で、まだ12歳くらいの少女だった.いざギンドロ組が前王に
献上しようとしたとき、王妃が通りかかったのだ.王妃はその少女の美しさを嫉み、魔女と言いがかりをつけた.
そしてその少女を王に会わせることなく牢屋に入れた.
それから1年ほど経ったある日、その少女は城の兵や召使の助けを得て脱走したのだ.
私が王位に着いたのはそれから二年後・・.ギンドロ組も取締りをはじめ、私は奴隷制度を廃止した.
私はその少女に謝罪したいのだ、過去の、前の王の過を・・.」

「そうだったのですか・・・.王様、もし、見つかったら、私はすぐに連絡します!!」

 ユナは見つかって欲しいと心から願った.

「ありがとう、旅のお方たちよ」



 城を出て、ユナはテリ―の様子がなんとなく気になった.

「メッキ―、悪いけど、テリーを探して様子を見てきて欲しいんだ.あと、明日の朝出発するって伝えてくれないか?」

「分りました、ユナ様」

 言うが早いかメッキ―は夕焼けの空を羽ばたいた.

「あれ、ピエールは?」

 ユナは辺りを見まわしながらホイミンに尋ねる.

「お城でたら、もうダッシュで教会に行きました.」

「教会?」

「あら、さっきの旅人さん、どうだった王様?いい方でしょう?」

「ハイ、とても・・あの、あそこのお屋敷って誰が住んでいるんですか?まさか、ギンドロ組って奴らですか?」

 ユナはこの町に来てからずっと気になっていた.

「・・・ええそうよ―と云うことは王様から聞いたの?ある少女の話.」

「ええ・・まぁ・・.」

「その娘はね、あの家の娘なの.娘っていっても養女なんだけど・・弟もいたわ.」

「養女!!それに弟」

「貧しくて、仕方なく娘さんを売ってしまったそうよ.それ以来ずっと慙愧の念に駆られていて、
寝こんでいるらしいの.弟君も、家を出たままらしいの.」

 ユナは何も云えなくなった.不意に重い雰囲気が漂う.

「ユナ様!!お待たせしました!!」

 ピエールの爽やかな声が、重い雰囲気を吹き飛ばした.

「え?」

 ユナはその声を聞くまでピエールの存在を忘れていた.

「さ、さ、もうじき日も暮れる.宿屋に参りましょう.おっとお嬢さん、また明日・・・.」

 ピエールに連れられ宿屋に向かう.

テリ―からの伝言を引っさげてメッキ―が戻ってきた.
―明日の朝9時に町の外に来い、遅れたら置いていく.
ユナは、晴れた空を見上げて呟いた.

「金髪の少女と、弟・・か.」




「・・・キー、ピキー」

「・・なんだよ、スラリン・・・あーっっ!」

 時計はもうすぐ10時を指そうとしている.

「やばい!!寝坊した!!」

 テリーは待ってなどくれないだろう、それどころかピエールたちの姿も無い.
急いで支度をして、宿屋を出た.不意に青い影が、建物の陰に隠れた.

―なんだよ、テリ―置いていくって言っていたのに、待っててくれたんだ.

ユナは嬉しくなった.

「テリ―」

 人影に声をかけ覗いた.
しかしそこにいたのは・・・.







―そこにいたのは、屈託無い笑顔で笑う、あなたでした.



 ユナは驚いた、そこにいたのはテリ―ではなかった、―そこにいたのは少年だった.

「誰だよオマエ、何でおれの名前を知っているんだ?」

 青い服、アメジストの瞳、そして銀髪、それは、

―それは紛れも無く少年時代のテリーであった.

 ユナは混乱した.どうして少年の頃のテリーが目の前にいるのか、
―これは夢?夢なのか?
それに、テリーの胸元にはアメジストの石がぶら下がっている.
―あれ?あのときテリーが持っていたのは・・・.

「見つけたテリー、こんなところにいたのね.」

 この声で、ユナは思考を遮られた。振り返るとそこにいたのは少女であった.

―何処かで見たような・・・?

長くつややかな金髪に、整った顔立ち、エメラルドの瞳・・
いつだったかイミルと見た、テリーの精神の世界の―ミレーユと云う女性.

「だめじゃないの、お父様の言いつけ通り、本を読まなくちゃ.」

「だってー、つまんないよ、あんな本.本読んでいるよりコイツと遊ぶほうが楽しいし、
ねーさんだってどっかいっていただろ?」

 ゛コイツ"とはテリ―が抱えている、小さなドラゴンのことだった.

「私は、町外れのおばば様のところに行っていたの.ほら、この水晶玉を頂きに.」

 ユナは、この少女の胸元にある、エメラルドの石に気が付いた.
―あ、テリーが持っていた石だ.でもなぜ・・?

「あの、この子が何か失礼なことでも?」

 少女の声で、我に返るユナ.

「あ、イヤ・・」

「テリ―、女性には優しくっていつも云っているでしょう?」

「何もやってないよ.それにコイツ女じゃないだろ」

「!?」

「テリ―っ!! 本当にごめんなさい、テリ―、何てこと云うの?」

 言われた瞬間はムッときたが、何故か憎めない.それにしてもユナは感心してしまった.
11〜12歳ほどの少女とは思えないほど振る舞いである.

「あ、オマエ、スライムを連れているのか?」

 テリーの視線はスラリンに向けられている.

「ああ、そうだけど.」

「いいだろー、おれはドラゴンだぞー」

 笑顔でドラゴンをユナに見せるテリー.
不意に少女のミレーユさんが何かを思い出したかのように立ち去ろうとした.

「ねーさん、何処に行くんだよ〜」

「木の実を採りに森へ行くのよ.」

「オレも行く!!」

「いいわよ、一人で行くから.」

「何言ってんだよ!!ね―さんはオレが守るっていただろ」

 不意にユナの胸にチクリときた.
―俺が守る

 ユナの同様をよそに二人は去っていった.
不意に風が吹いた.ユナは鳥肌が立った.
―こんな暖かい日に?







―幻の大地をめぐる運命の始まりはいつからだったのだろう



ユナはしばらくボーっと立っていた

―金髪で、エメラルドの瞳をした少女を見かけなかったかね?
―弟君も、家を出てしまったの.

不意に、昨日聞いたことが思い出される.

―え、まってよ、どういうことだよ、王様達が言っていた少女と弟って・・・

ユナの心臓の鼓動が大きく響く.

―少女のミレーユさんと、テリーのことなのか?

周りを見渡しても、特にそんな子供はいない.
じゃあ、テリーがあのとき町に入りたがらなかったのって・・.

―でも、二人はまだここにいる.
まだミレーユさんはギンドロ組に連れて行かれていない.今なら・・まだ・・.

ユナはためらった.

―過去を変えてしまっていいのか?それに、テリーが旅に出なかったら、
・・・・でなかったらおれと会うことなんてな・・・い.
いやだっっ!!それだけはイヤだ.

しかし―瞳を閉じるとあの光景が浮かんでくる.

―どうすればいいんだよっ.
悩み苦しむユナの後ろを、屈強な男たち数人が通っていった.

―運命の歯車は、回りだし始めた・・・.







―少年は泣いた.姉を守ることのできなかった自分.
最後に見た姉の美しい瞳、やさしい表情、後姿.そして少年は誓った.



「よお、ジーさん、約束の期日だ、娘をもらおうか.」

 屈強な男たちがドアを空けるなり言った.

「む、娘は・・」

 言葉を濁す老人、そのときドアが開く、そこにいたのはミレーユだった.

「お、そこにいたのか、ほぉ、さすがに上玉だな、こりゃあ王もさぞかし喜ぶな.」

「・・?」

 ミレーユは何がなんだかわからない様子である.

「さぁ、お嬢ちゃんさっさと用意しな.」

「・・?用意?」

「ん?なんだぁ、ジーさんいって無かったのかよ.まぁ、言いたくても言えないか.
―お嬢ちゃん、あんたは俺達ギンドロ組に売られたんだよ、そのジーさんからな!!」

「売られ・・た?」

 ミレーユは老人の顔を見る.

「許してくれ、許してくれ・・」

 老人はうつむいたまま言う、老女も泣いている.

「そうだ、さぁお嬢ちゃん、身の回りのものを整理しときな」

「・・・わかりました.」

 ミレーユはすべてを納得した面持ちで答える.



「ただいま」

 テリーが帰ってきた.家に入ったとたん見知らぬ男たちがいる.
テリーは不安になった.自分の部屋に入るとミレーユが自分のものをかばんに入れている.

「何やってんだよ、ねーさん.どこかいくのか?」

 ミレーユは答えずにテリーの顔を見て抱きしめた.
ミレーユが泣いているのが分った.

「ね―さん?」

 ミレーユは離して自分の胸にかかっている石を取外してテリーにつけた.

「大丈夫、また会えるから.これはその証・・・」

 テリ―には何のことだかよく分らない.

「交換するの?」

 そう言って自分にかかっているアメジストの石をミレーユに差し出した.

「お嬢ちゃん、用意はできたか」

 男が入ってくる.テリーはただ事で無いということが分った.
いきなりミレーユの腕を乱暴に引っ張った.

「ねーさんに何するんだ!!」

 テリ―は男につかみかかリ、二の腕をかんだ.

「っ!!このガキ!!」

 男は腕を勢いよく振る.テリーは腕から外れて壁に激突した.

「テリ―っ!!」

「さ、行くぞ」

 男たちはミレーユを引っ張り外へ出た.
老人たちは止めることもできずただ泣いて許しを請うだけだった.







―幸せになる権利は誰だってあるんだ.どうして・・・.



 悩み苦しむユナの後ろを、屈強な男と少女が通ろうとしている.
ユナはふと後ろを向く、そこにいたのは・・
紛れも無く少女のミレーユと、ギンドロ組の連中だった.
ユナは呼び止めようとするが声が出ず、止めようにも、足が動かなかった.

―どうして?何で動けないんだ?

心の中での葛藤が渦巻いているのだ.そうしている間にも4人は屋敷に入ろうとしている.

―おれがしなくちゃならないのは!!

「待てっっ!!」

 男とミレーユは振り返る.声の主のほうを・・.

 ―テリーだった.

「ねーさんを返せ!!」

「テリ―、帰りなさい!!」

 ミレーユは叫んだ.テリーの手には立派な刀身の剣が握られていた.

「さっきのガキか・・、ねーさんの言うとおりだぜ?俺はガキだからって手加減しねぇ.
まぁ、今ならまだ、見逃してやるがな・・.」

 腕をポキポキ鳴らせる男.しかしテリーは屈しない.
今にも男に飛びかかろうとするテリー、ユナはあの光景を思い出す.

―テリーの精神の世界、傷ついたテリーの姿・・その光景は目を背けたくなるほどの・・.

―またあの光景を見るのか、俺は何もしないで見ているだけなのか?

―いやだ!!

「やめろっっ!!テリ―!!」

 ユナは剣を握ったテリーの腕を押さえつけた.

「何するんだっ!!放せっ!!邪魔するな男女!!」

 ユナは放さない.

「オマエがっ、適う相手だと思っているのか!!」

「何ィ!!」

「その野郎のいうとおりだぜ?ボウズ.」

 余裕の笑みを浮かべる男.

「この男と戦っても、おまえじゃ無駄死にするだけだっっ!!
そんなのミレーユさんが望むことかよっっ!!」

「テリ―、お願い、やめて.」

 哀しげな顔のミレーユ.

「うるさいっっ!!オレ以外誰がね―さんを守るんだよっっ!!」

 男に飛びかかろうとするテリー、ユナは必死に押さえる.
男たちはそんなテリーを無視して屋敷に入っていった.

「放せよっっ」

 まだ立ち向かおうとするテリーにユナはカッとなった.

「おまえはまだ弱いんだよっっ!!」

 テリーはその言葉で勢いがおさっまった.
手を放し、ユナは言ってからしまったと思った.

「・・・テリ―」

「おまえなんかに、何がわかるんだよ・・・.」

 うつむいたままで、震えるテリーの声、地面に一粒の涙がこぼれ落ちた.

「ねーさんは、オレの、オレの・・・」

 もう一粒の涙がテリ―の胸元に輝く石に落ちた.それはエメラルドに輝いていた・・.

―あのときの・・・、テリーが持っていた・・.

テリーは無言で家に戻った.ユナはそんなテリーの後姿を逸らすことなくずっと見つめていた.







―本当にこれでよかったのか?
どうしておれはここにいるんだろう?



 ユナはただぼうっと立っているだけだった.
テリーが視界から消えても.
不意に涙がこぼれる.

―本当にこれで・・・

「ピキィィ」

 スラリンはユナを慰めようと必死だ.無意識のうちに足は宿屋に赴いていた.

―テリーにどうやって顔向けできるんだよっ!!

ユナはベッドに倒れこんだ.そしてそのままユナは眠りについた・・.




「・・い、オイっっ、ユナッ、起きろっ!!」

「・・ん・・誰?・・・・・!!」

 ユナは勢いよく起き上がった.

「やっと起きたか.」

 テリ―の呆れた声.

「%$×#&!!」

「寝ぼけているのか.」

 ユナは驚きのあまり何を言っているのか分らない.テリーはいたって冷静だ.

「なっ、何でテリーがヒトの部屋の中に入っているんだ!!」

 やっとのことで言葉になる.
テリーに顔向けできないはずが、今こうして目の前にいるのだ.

「・・・何時だと思っているんだ?」

「え・・」

 時計は10時を指そうとしていた.

「さっさと用意して来い.」

 テリーは部屋を出る.少し腹を立てている様子だった.
ユナは急いで用意をして宿屋を出て、町の外へ出た.
ピエールたちも同時に出てきた.どうやら皆で寝坊らしい.
ユナが来たと同時にテリーは歩き出した.

テリーの後姿・・昨日の少年テリーの姿とだぶってしまう.

―ミレーユさんを探そう!!そして・・

ユナはテリーの後姿を見てそう決意した.



「なぁ、テリ―」

 少し歩いてからユナはテリーに話しかけるが返事が無い.ユナは気にせずに、

「ミレーユさんに、会えるといいな」

 ユナが突然ミレーユの事を言い出したのにテリーは驚いたが、
すぐに、ユナのほうに振り向いて、

「・・ああ」

 ユナが見たことも無いような、微笑みを浮かべ答えた.




皮肉にもミレーユに先に出会えたのはテリ―ではなかった.

―あれ・・・・この人もしかして・・


―おねーさん、名前はなんて言うの?

―ミレーユだけど、誰かに似ているの?




管理人:コメント
NAEさんから一万ヒット記念に頂きましたSSです!
本当に有り難うございました!!NAEさんは有難くも私のDQ6設定を使ってSSやNAEさん的エピソードを書いて
頂けていたのですが(ワーンTT本当にいつも凄く嬉しいのですよ!!)
その中でも、このSSは自分的にスッゴク好きです!イチマンヒット記念と言う事でお言葉に甘えさせて頂いて
サイトの方に掲載してしまいましたw(ウヲヲTTしかも挿絵まで描いてしまいましたTT
イメージに合わなかったらスイマセンTT)

最終章が凄く好きです。
これからどうなるんだろう…!?と言う神秘的な謎めいた雰囲気を出してる
一章も好きですが…最後のなんだかんだで待っててくれたテリーと
最上級の微笑みとユナの決意と最後の二人の会話で締められてる所なんかも
凄く印象的です。

続きのようなSSも有るようなので楽しみです、
またお言葉に甘えて掲載させて頂くと思います。
NAEさん、素敵な小説有り難うございました!