■ ミレーユの救い ―会いたい、テリーに会いたい. 「今日は野宿だな.」 ウィルは言った. 「えぇ〜、どっかの町にルーラしようよぉ〜」 バーバラがすぐに答えた. 「しかし、この大陸は始めてですから、ここに戻ってくるのに少し手間になりますよ.」 「そうそう、それにいいじゃねぇか、馬車に食料はあるし、さっき通った森に湖もあったしよ.」 チャモロとハッサンはウィルに同意の様子だ. 「ミレーユとユナはどう?」 ウィルに尋ねられる二人. 「そうね、たまには良いかもしれないわ.」 「ああ、オレも別に良いよ」 ミレーユ、ユナも同意した. 「決定だね.じゃあ俺は薪を拾いに行くよ.」 「ウィルが行くならあたしも拾いに行く〜」 バーバラの機嫌は簡単に直っているようだ. 「なら俺は水を汲みに言ってくるぜ.」 「では私は、山菜を採りに行きましょう」 「じゃあ、私とユナちゃんが料理をするわ.」 ハッサン、チャモロと続き、ミレーユがいった. その瞬間四人にライディンが落ちた. !、!、!、!、!? ライディンが落ちて、アストロンをかけられたかの如く四人は固まった. (ユ、ユナが・・ユナがりょ、料理を・・) ハッサンから汗が一筋滴り落ちた. (た、食べ物を、粗末にしては・・・) チャモロも青ざめている. (ミレーユと一緒に作るから、だ、大丈夫じゃないかな・・) (中和されるの?) ウィルも、バーバラも深刻そうな顔をして、無言の会話を繰り広げた. そんな四人をよそに、ミレーユとユナは準備をしている. 四人はそれぞれ森に向かった. そんな四人の心配をよそに料理は着々と作られ、ついに完成した. 四人は肉料理を口に運んだ. 先程の不安を吹き飛ばすほどの絶品!! 四人は安心した. 続いてスープ、これもなかなかの味だった. 「ユナちゃんと一緒に作ったのよ、どう?」 その言葉を聞いて、四人は同時に思った. (本当に、中和されているよ) そして、チャモロが採ってきた山菜. ―次の瞬間、皆固まった. 「こ、これは、誰が作ったの?」 バーバラは、声が震えている. 「ああ、それオレが作ったんだぁ〜」 ユナは得意げに答える. ・・・・・・ 四人はあまりにも得意げにユナが言うのに押されて、残しづらくなり、なんとかすべて食べきった. そんな中、ユナの料理をミレーユは平然と食べていた. 「少し、香料が効きすぎてるかしら」 「そうかなぁ?」 平然と食べているミレーユに、四人は改めてミレーユが不思議に思えてきた. 口直しに木の実がでたので、四人は安心した. ―テリーに会えない、会う資格がないの ユナは眠れなかった.目を閉じるといつも浮かんでくる、 ―あの光景. 特にミレーユと出会ってから頻繁に見るようになった. ―あのとき、何も出来なかった自分を. 隣でバーバラはスースー、と寝息を立てている.ミレーユはいないようだ. 涼んでいるのかな、と思った. ユナはバーバラを起こさないようにそっと馬車を降りた. 月は、明るすぎるほど輝いていた. ユナの視線の先に、ミレーユはいた.その横顔はあまりにも美しかった. 何かをかざしているように見えた.そのときユナは、その姿がダブって見えた. ―テリーが、切なそうな面持ちで、エメラルドの石をかざしている姿 ミレーユがかざしているのはアメジストの石. その姿を見て胸が痛んだ. 自分がやった取り返しのつかない行動. 何故そうしたのか分らない. ユナは前に進めないままだった. 「ユナちゃん、眠れないの?」 ミレーユは微笑み、優しく声をかける. そんなミレーユを見るたびに、ユナは心が痛むのであった. 「うん、ミレーユさんも?」 ミレーユはうなずいた. ユナは心に誓っていたことがある. ―ミレーユさんを捜そう!!そして・・・ だがまだ果たしていないのである. 「ミレーユさん!!あっあのっ」 「何、ユナちゃん」 ミレーユはユナの目を見る.ユナは言い出しづらくなった. 「あ、ま、また、料理を教えてほしいんだ.上手くなりたいから.」 「テリーのために?」 ミレーユは微笑みながらいった. 「なっ、ちっ、ち、違います!!だっ誰が、あんな奴のために!!じ、自分のためです!!」 うろたえるユナ、ミレーユはクスクスと笑っている. 「ユナちゃん、本当は何か、私に言いたいことがあるんじゃない?」 いきなり言われて、ユナは戸惑う. 「私がテリ―の姉だと確認してから、いえ、モンストルで出会った頃から、 何か言いたいことがあったんじゃない?」 ミレーユに顔を覗きこまれる.ユナは何も言えなかった. ミレーユに出会ってから、あのときの誓いを果たそうと何度も思ったが、言えないでいたのであった. だが、このままずっとこの気持ちを引きずったままで良いのか、 ―ユナは、前に進めないのであった. 「お、オレ、ミレーユさん・・謝らなきゃいけない事が、あるんだ.」 ユナは、前に進もうと決めた. ―わからない、何もかもがわからなくなって来た・・ 「オレ、テリーと旅をしていたときガンディーノに行ったんだ. そのとき、夢・・・だったのか、よくわからないけど、過去に行ったんだ.テリーとミレーユさんの過去に・・」 「ガンディーノ・・」 ミレーユはその言葉に反応した.そして哀しげな顔をした. 思い出しているのだろうというのが見て取れた. 「オレが見た過去は・・・ミレーユさんがギンドロ組に連れて行かれる、その日だったんだ」 ユナはうつむいたまま話し続ける. 「オレはミレーユさんが連れて行かれるその瞬間を目の当たりにした・・・ けれど、・・オレは何も出来なかった、・・・動けなかった.・・・・オレ・・は」 涙が溢れてくる.堪えようとしても止まらない. 「オレは・・立ち向かおうとするテリーしか止められなかった・・・.オレ・・はミレーユさんを・・・」 短い沈黙.だがユナには長く感じられた.ミレーユはどう思っているのだろう. 反応が怖い. 「・・・ありがとう」 ―!? その言葉にユナは顔を上げてミレーユの方をじっと見つめた. ミレーユは微笑んでいた. ―何が正しいかなんてわからないわ、それに答えはひとつじゃない. ミレーユは微笑んだ.哀しげに.そして瞳を閉じた. 「・・・たとえユナちゃんが、そのとき私を助けても、多分私はあのお城へ、 あの地下牢へ行く運命だったと思うの.またギンドロ組に売られていたかもしれないし、 お城に出仕しに行ったかもしれない・・それに・・」 ミレーユは話をやめて、懐からオカリナのようなものを出し、吹いた. その音色は、暖かく、深みがあった. 「この笛がなかったら、ムドーの城まで、無事に辿り着けなかったと思うの. それに、夢からも抜け出せなかった. ・・・この笛はね、ガンディーノの地下牢である老人からいただいたものなの・・.」 ユナは、じっと聞いていた. 「今思うと、これが運命の始まりなのかしら、私達の戦いの・・」 「運命の・・始まり・・」 ユナはその言葉を反芻した. 短い間ができる. 「でも・・オレ・・はミレーユさんをっ!! ・・なんでミレーユさんが・・ありがとうなんて言うんだよ!!」 「・・・・ユナちゃんが、テリーを守ってくれたから、だから、お礼を言うの.」 ミレーユは瞳を閉じた. 「・・・あのときの私は、・・何も出来なかった.テリーが傷ついていく様を ただただ泣き叫んで見ているしかなかった・・.だから、ユナちゃんがテリ―を引き止めてくれたなら、 そのときの私は、テリーの傷ついていく様子を見なくてすんだんじゃないかしら・・.」 ユナは、はっとなった. 「・・・オレがテリ―を引き止めたのは・・」 ―そう、あの光景をもう二度と見たくなかったから・・・. 「それに、何が正しいのかなんてわからないわ.答えはひとつじゃないから・・.」 優しく微笑むミレーユ。 ―何が正しいかわからない. ユナはずっとあの゛夢"を見て以来、自分の行動に慙愧の念を感じていた. 思い悩み、テリーの側にいられないとまで考えていた. ―答えはひとつじゃない 「・・でも、何でオレが・・あの日の・・過去にいたのか、その答えも・・まだ見つからない. まだっ!!見つからないんだっ!!」 大粒の涙がユナの瞳からいくつもこぼれた. 「ユナちゃん・・・」 溢れ出す涙をこらえようとするユナ.だが、頭の中で、あのときの光景が思い出される. ミレーユは瞳を閉じた. 突然、ミレーユは、なにか気がついたのであろうか笑みを漏らした. 「わかった、わかったわ、ユナちゃんが過去を見た理由が・・」 「え・・?」 ユナはじっとミレーユを見つめた 「幻の大地の影響・・.」 ユナはミレーユの意図するのことが読めない. 「幻の大地は、誰かの強い意思や願いが具現化された世界だと思うの・・・.だから ユナちゃんが見た夢の世界は・・私が願ったのかもしれないわ・・・.テリーを救って欲しいって.」 その言葉にユナは、何か、言葉に出来ない何かから解き放たれたような気がした. 風が清々しく感じた. 「ミレーユさん、オレ、ミレーユさんに言ってよかったよ・・・. 答えはまだ・・見つかってないけど、オレ・・吹っ切れた気がする・・」 「そう・・」 ミレーユは微笑んだ.その微笑みは、あのときの、ユナが見たことのなかった、あの テリーの微笑みと重なって見えた. ―テリーに、会いたい 「う〜っす」 ハッサンが半ば寝ている声で言った. 「おはよ〜ハッサン」 「オハヨ〜」 「オハヨ〜ございます」 ウィル、バーバラ、チャモロも寝ぼけ眼だ. 「おそーい、もう朝食できてるぞ」 ユナは、爽やかな声で四人に話しかけた. そのときの四人は、顔を洗ったものの、 起き抜けであったため、頭が働いていなかった. 目の前に用意された、山菜スープを口に運んだ. ―!! 四人は目がさめた. 「どうだ、スープ.オレが作ったんだ〜」 ハッスルな声のユナ. 四人はなにも言わず、ただ食べつづけるだけだった. そんな四人をよそに、ピエールは何倍もお代わりをして一言. 「いや〜、ユナさまのスープを私は一生食べ続けたいものです.」 朝食も済ませ、また一行は旅へ出た・・・. |