■ バレンタイン 「ユナっ、作ろっ!!」 部屋中にバーバラの声が響いた. ユナをはじめ、ウィル、ハッサン、チャモロまでがバーバラのほうへ振り向く. 「作るって何を?」 ユナはバーバラをまっすぐに見ていった. 「何って決まっているじゃない!!」 ユナにはバーバラの意図していることが読めなかった. 視線を卓上のゲーム、スライム積みに戻し、またひとつスライムを積んだ. バーバラはユナに近づき、耳打ちをする. 「チョコ作りよ.チョ・コ・づ・く・り.」 ―? 何で?という表情をして見せた. 「も〜、今日を何の日だと思っているのよ!!バレンタインよ!!バ・レ・ン・タ・イ・ン.」 「ばれんたいん?・・・何ソレ?」 「バレンタインデーを知らないのっっ!!乙女の常識よっっ.」 驚いた表情でバーバラは言い、ふっとため息をつきながら続けた. 「乙女が、愛しい人に告白する日よっっ.」 ―!! その言葉でユナの体の中に電撃が走った. 「・・お・・乙女が、い、愛しい人に、こ、こ、告白する日・・・.」 ちらりとテリーのほうを見る.テリーは静かに本を読んでいた. 「そうよ、だから作ろうって言っているんじゃない.」 ―告白、テリーに、言いたくてもいえずにいたこと・・これを逃せば・・・. 「作る!!」 ユナは立ち上がった. 「そういうわけで、男性陣は、厨房に立ち入り禁止だから〜.」 そういってバーバラは戸を閉めた。 「そうか、今日は、バレンタインか・・」 ウィルは呟いた.そして毎年ターニアから貰っていたのを思い出していた. 「やばいんじゃねぇ?」 不意にハッサンが呟いた. 「何がですか?」 チャモロが訊ねる.ウィルもハッサンの意図することが読めなかった. 「あの、バーバラとユナが作っているんだろう?」 「そうですけど・・・それが・・どうか・・・あ.」 チャモロは、ハッサンの意図することが読めたらしい. ウィルはまだ怪訝な顔をしている. 「思い出してみろよ、あいつらが作った夕飯を・・・.」 ―夕食・・・ ウィルはやっとわかった. 「あ、でも、ほら、その・・チョコだし、お菓子だから・・・その・・大丈夫じゃないかな?」 根拠はどこにもないが、フォローにまわるウィル. 「それにミレーユも手伝っているだろうし・・・.」 そういった次の瞬間、ウィルたちは息を呑んだ. 「え〜と、まず刻んだチョコを湯せんで溶かすのか・・」 ユナは湯を沸かそうとした. 「何やっているのよユナ?」 「え、だってチョコを溶かさないと・・本にも書いてあるし・・.」 「そ〜んなことしなくても、一発で溶かせるわよ!!」 バーバラは自信満々に言ったが、ユナは見当がつかない.が、いやな予感がした. 「ギラッッ!!」 ユナは固まった. ―バ、バーバラさん、今・・ 「ほーら簡単に溶けたでしょう?」 確かにチョコは溶けているが、しかしチョコはぐつぐつと泡を立てて煮えたぎってい て、ボウルも赤くなっていた. 「・・・どうやってこのボウルを持つの?」 「ん〜、ちょっとやりすぎちゃったかな?大丈夫だって、水でボウルを冷やせば・・・」 ジュワッッ!! 水は一瞬で蒸発してしまった. 「・・・・・・」 二人とも言葉を失った. ―な、な・・・何故そこにいるんですかミレーユさんっっ!! ウィルたちは言葉を失った.てっきりミレーユも作っているものと思い込んでいたのだ. しかしミレーユは悠々と本を読んでいるのであった. ―と、いうことは・・今、チョコを作っているのは・・・ ハッサンから汗が滴り落ちる. ―バ、バーバラさんと、ユナさんで・・・ チャモロも声が震えている. ―やばくねーか、しかもさっき、ジュワッて音がしたよな・・・。 ・・・・・・・・・ 3人はミレーユを見つめながら心の会話を繰り広げた. 「何、何か言いたそうね?3人とも」 ミレーユは本に視線を残したまま言った. 不意に突っ込まれて3人は慌てふためいた. 「え、あ、ミ、ミレーユはバーバラたちと作らないのかなぁ〜って」 ウィルはしどろもどろに言った. 「何を?」 ―何をって、ミレーユさん 3人は戸惑った. 「・・ああ、バレンタインのチョコ?」 「え、あ、うん・・.」 ミレーユは溜息をついて微笑んだ. 「ガンディーノには女性が男性にチョコをあげるって言う風習がないのよ・・・ どちらかというと、男性が女性にプレゼントを送るのよ、 リングとか・・ピアスとかをね.」 そういって、ミレーユはテリーのほうをちらりと一瞥した. 「はぁ〜なるほど」 3人は声をそろえた. 「ライフコッドはどうだったの?ウィル?」 「あぁ、女の子が男にチョコをあげてたけど・・」 「サンマリーノは?ハッサン?」 「そんなモンに縁がなかったからしらねーよ.」 「ゲントの村は?チャモロ?」 「あ、ハイ.そういえば私の村にも、チョコをあげるという風習はありませんでしたね. その代わりヴァレンティヌス様に祈りを夜通しで捧げていました. どうです皆さんも今晩?」 チャモロは顔を見回して逆に訊ねた. 「すばらしいです!!チャモロ殿!!私はご一緒してもよろしいでしょうか!!」 どこから湧いてきたのかピエールが感激した様子で割って入った. 「ええ構いま・・」 ガシャガッシャーン!! 厨房からの派手な音がチャモロの言葉を遮った. 「だ、大丈夫!?」 ウィルは厨房を開けようとしたが、 「男性立ち入り禁止ーっっ!!」 バーバラがすぐさま答えた. また3人は不安になった.そして訴えるような目でミレーユを見つめた. ミレーユはそれを察してか、ふっと溜息をついて立ち上がり言った. 「それじゃあ、手伝いに行きますか・・・.」 そのまま厨房に入っていった. ミレーユが厨房に入ってから一時間ほどが過ぎた. 「これがハッサンので、これがチャモロ、これが・・・・・そしてこれがウィル!!」 「・・・スラリンの、メッキーの、・・・・これが・・テリーの・・.」 バーバラとユナは確認しながらチョコを型に注いだ. 「あ〜早く出来上がらないかなぁ〜、ね〜ミレ〜ユ、ヒャドかけてよ〜、待てないよ〜.」 くすりと笑ってミレーユは言った. 「じっくり作ったほうが想いが伝わるでしょう?」 「それもそうよね.」 バーバラは簡単に納得した. ―数時間後 「でっきた〜!!」 声とともに厨房の扉が開いた. バーバラはスラリンたちのところへ歩み寄り、それぞれにチョコを渡した. ―もちろんテリーにも. ユナはウィルたちのほうに近づき、それぞれに渡した. 「あ、ありがとう」 「オウ、サンキュー」 「あ、恐縮です.」 それぞれがお礼の言葉を述べた. 今度はバーバラがハッサンたちのほうへ近づき、ユナはスラリンたちの方へ向かった. 「はい、ハッサン、チャモロ.・・・義理だけどね!」 「オウ」 「あ、恐縮です.」 「ウィル、こっち来て!!」 ハッサンたちが礼を述べると同時にウィルの手を取り、部屋の外へ出て行った. 「ユナ様ありがと〜」 「アリガトウございますユナ様」 「ピキー、ピキッ」 スラリンたちはユナに礼を述べた. ユナはちらりと視線をテリーへと移した、いやテリーが居た場所に移した. ―あれ?いない・・・ とっさにミレーユのほうを見た. ミレーユはドアのほうに顔を向け、そして、ユナを見て微笑んだ. ウィルはバーバラに連れられるがままテラスに出た. そしてバーバラはウィルの方に向き直し、 「はいっっ」 とびきりの笑顔で渡した. ウィルは驚き、戸惑い、顔を赤らめながら受け取った. 「あ、ありが・・」 ウィルがお礼を言い終わらないうちにバーバラは、ウィルの頬にキスをした. 「バ、バーバラ!!」 「大好きだよ!!ウィル!!」 そういってくるりと振り向き、部屋へ入っていこうとした. 「待って!!」 そういってウィルは、バーバラを後ろから抱きとめた. 「ウィ、ウィル・・?」 今度はバーバラの頬が赤く染まる.後ろから感じるウィルのぬくもり・・・. 「お、俺も・・・・」 ユナは部屋を出て、テリーを探す. どこに行ってしまったかは分からないが、なんとなく、足の赴くままに、探し回った. ふと窓の外をのぞくと、テリーは居た.どうやら外へ出たらしい. ユナは猛ダッシュで外へ出た. 「テ・・・」 テリーに声を掛けようとするが、そこに居たのはユナの知らないテリー. ―テリーはエメラルドに輝く石をかざしていた. テリーはミレーユと再会を果たしてからも、ずっと石を月にかざしているのだ.皆の知らぬところで. ユナは唇をきゅっと結びテリーに近づいた. 「テリー・・・.」 テリーはその声に反応し、すぐに石をしまって、ユナのほうに向き直った. 「あの、これ・・・その・・.」 そっとチョコを差し出した. 「・・・お前でも作るんだな、こういうもの・・.」 周りの静かな様子に、テリーの低い声が一際ユナには響いて聞こえる. 「え・・・ああ、う・・ん」 テリーは視線をはずし溜息をついた. 「・・・甘いものは苦手なんだよな・・・」 聞こえるか聞こえないかの小さな声. 「え・・あ、ご、ゴメン」 ユナは戸惑った顔をした. 「・・・いいよ、とりあえずもらっとくから」 そういって受け取り、ドアのほうへ向かった. 「あ、テリー、まっ・・・」 ユナが引きとめようと声を掛けると同時くらいに、テリーが立ち止まり、ユナのほうに振り返った. そして何かを投げた. 「・・・やるよ」 そういってドアを開け、中に入っていった. テリーが投げたのは、小さな箱だった. あまりにも突然だったので、ユナはテリーを引き止められずに、その箱をじっと見つめた. ―な、何が入っているんだ? ユナは恐る恐る開けてみた. ―ピアスだった. ユナの瞳と同じ、イエローブラウンの石のピアス・・. ―テリーが・・・オレに・・ 感激のあまり、声も出ない.いや、言葉にできないほどの嬉しさが込み上げてきた. 「ちゃんと用意してあったのね.」 聴き慣れたやさしい声.姉さんの声. 「・・別に、小銭が邪魔だったから・・ただそれだけだ.」 視線を床に落として答える. 「そういうことにしておいてあげるわ.」 くすくす笑いながらミレーユは言った. 「あ、そうだ.はい、これ.」 手渡されたのは、ほんの一口程度のチョコだった. 「最愛の “弟” へ・・」 そういってミレーユは皆の居るところへ戻った. その夜、チャモロとピエールは12時の鐘がなるまで、祈りを捧げていた. ―ピエール、これオレの・・本当の気持ち・・・ ―ユ、ユナ様!!こっこれは!! ―オレは、テリーよりも、ピエールのことが・・・・・・ ・・・・・・・・・ 「ユナ様!!おはようございます!!ユナ様.チョコ有難うございます.我が心は、永遠に貴女に・・・.」 そうさわやかにピエールは言いいユナを通り過ぎた. 「・・チョコ・・・?」 ユナは怪訝な顔で、ピエールの後姿を見ていた. 「な〜にそんなところで突っ立っているのよ?ユナぁ?」 バーバラが後ろから声を掛けた. 「あ、おはよう、バーバラ.・・・うん、オレ・・ピエールに、・・・ピエールにチョコあげたかなぁ?」 「あ、あたし、あげてない.ピエールの分だけすっかり忘れてた・・・.」 「だよな・・・.オレも忘れてたけど・・・有難うって?」 ―ますますわけが分からない といった表情をするユナの耳元には、イエローブラウンに輝く石が、朝の光を受け輝いていた. (NAEさんからのコメント) >>終わりました. というわけで答えは、テリーが(ピアス)をユナに(贈る)、ピエールが(夢の中) で(ユナからチョコをもらう)です. すごく私なりのいっぱいいっぱいなテリユナでした. 夢オチかよ!!・・・幻の大地・・ということで・・. 3万記念 NAE |