―24日 ―来てしまった 粉雪が降り注ぐ山奥の村に1人の少女が立っていた. 雪とイルミネイションに覆われた村、マウントスノー. 「いや、ここに来たのは、最後の村だからで・・・」 少女は頬を紅く染めながら独りごちる. 「決してアイツに逢いたかったわけではなくて・・.」 自分自身に言い訳する。 いつでも、マウントスノーには行けたのだ、だが、あえてそうしなかった。 ―逢いたかったから? 違う、ホワイトクリスマスを楽しむために、ここを最後にしたのだ。 そう、だからであって― ちらりちらりと雪がふる中ユナはあたり一面の銀世界とイルミネーションを眺めた。 冷たい風が、ユナの短い髪をなでる。 家の中から子供たちが出てきたのだろうかはしゃいでた。 スノーマンを作ったり、雪を投げ合って・・・。 頬を紅く染め、白い息を吐きながらユナは、村の真ん中にあるモミの木を眺めた。 雪と光で覆われた木は、いっそう綺麗であった。 あたりは真っ暗になった。 ユナは不意に視線を先も見えぬ暗闇へと移した。 影が見えた。 段々近づいてくる。 それと同時に雪も強くなってきた。 ・・・青い。 「テリーっっ!!」 ユナは思わず叫んだ。 まわりではしゃいでいた子供たちは一瞬動きをとめユナを見たが、すぐにまた遊び始めた。 当の影には声は届かなかったようだ。 段々近づいてくるごとに、胸の鼓動が高鳴ってくる。 あれは、間違いなくテリーだ。 「テリーっ!!」 もう一度その影を呼ぶ。 そう遠く離れてはいない。 いつのまにか強くなった吹きすさぶ雪が邪魔をしているのだった。 ―なんて雪だ・・・. 帽子を飛ばされぬよう押さえながら、村のほうに歩く。 ―どうやら、麓のほうまで下りなければ、キメラの翼も使えな・・ ―りーっっ!! 吹雪の中微かに聞こえた、聞き慣れた声。 誰だ・・。 ―テリーっっ!! アメジストの瞳を凝らしながら、村の真ん中に聳え立つ木を見る。 村に近づいていくと、吹雪は和らいでいた。 そこには・・ ―ユ・・・ナ テリーは白銀の世界に包まれた村に目を凝らした。 そこに居たのはまぎれも無くユナであった。 ―な、な・・んでアイツがここに・・? テリーは、白い道を歩きながら呟いた。 テリーが、こちらを向いているような気がした。 もう一度呼ぼうとしたその時、 「ユゥゥゥナさまぁああああああ!!」 雪をかき消してしまわんばかりの大声を張り上げものすごい勢いで近づいてくる影があった。 ピエールである。 「ピっっ!!」 声のほうに振り向いたユナがその名を呼び終わる前に、ピエールはユナの前に現れた。 「ユナ様、風邪をお引きになりますよ。」 ピエールは主の前で跪きながら、言った。 ユナはあまりにも突然のことで戸惑いを隠せなかった。 「な、何で、ピエールがここにいるんだ?スラリンたちと闘技場の会に言ったんじゃなかったのか? それにどうしてここと分ったんだよ。」 ピエールは主の顔を見上げた。 「私は、ユナ様のいるところならば、たとえ天空であろうと、海底であろうと見つけてみせます。 ユナ様がお1人で旅をなさると聞いて、ここは私がお守りせねばならないと思いいつも傍に控えていました。」 「た、旅って・・・ほどでもな・・・!!」 ユナは思い出したかのように振り返った。 ―いない。 「?・・ユナ様?」 ―テリー・・・ ―もうこの村を去ってしまったのだろうか? ・・・・・ 「ユナ様、ここは冷えます。とりあえず宿屋に入りましょう。今夜は予約を取ってあります。 この白銀の世界を楽しみながら、ゆっくりディナーにしませんか。」 言葉を遮ったユナの様子を戸惑ったピエールだったが、すぐに持ち直した。 「ああ・・」 上の空でユナは返事をする。 その時さっきまで雪遊びをしていた子供たちが近づいてきた。 「おねーちゃん!!ハイ、これ。」 子供たちの声で我に返ったユナは、子供たちのほうに視線を移した。 「エ・・・?」 差し出されたのは一枚の二つ折りの白いカードであった。 ユナは宛名の記されていないそれを受け取りじっと見つめながら言った。 「・・・ありがとう」 ―カード・・この村に知り合いなんて・・・ 「お家に帰ろっか。」 子供たちの中の1人がそういった。 「「ウン」」 子供たちは家路に着こうとした。 「ちょっとまって!こ、これ誰が・・・?」 不意にユナが訊ねた。 「凄くカッコ良くて、紫色の綺麗な瞳をした、おにいちゃん!!」 「銀色の髪だったよね、暗くても分っちゃった。」 「オレ、なれるなら絶対あんな剣士になりたい!!」 「お前じゃ無理だよ!!」 子供たちが口々に、カードの差出人について語る。 ―紫色の瞳 ―銀色の髪 ―剣士 ・・・・ ―まさかっ!! ユナはカードの中を確認した。 Have a Special Day 記されているのはこれだけであったが、すぐに分った。 これが誰の字であるかということも。 「「おねえちゃん、HAPPY Christmas!!」」 子供たちはユナにそういって、両親の待つ家へ帰っていった。 「っ!!」 ユナは感極まったようになり、ぎゅっとカードを胸に抱えた。 「ユナ様、そろそろ・・・」 ピエールはカードを大切に抱えるユナの手をとり、宿屋にエスコートした。 ディナー中ユナはずっと窓の外の白銀の世界を眺めていた。 そして時折、カードがしまってある左胸に手を当てた。 ピエールは感極まっていた。 今、自分の目の前には身としき主がいて、 その主を紳士らしく―手を握って(←重要)―エスコートをし、食事をしているのだ。 ―わが人生に一片の悔いなし!! そう世界の中心で叫ばずに入られない衝動であった。 ○蛇足 ―スライム闘技場 「騎士道スライムのピエールはどうしたんだ?」 パーティーを楽しんでいるホイミンたちに主催者であるルーキーが尋ねた。 「あ、マスターのルーキーさん!!久しぶりです〜。」 「ピキー!!」 「どうも、オレまで参加させてくれてありがとうゴザイマス.」 ホイミンたちはルーキーに挨拶をした。 「癒しのホイミン、プルプルキングのスラリン、久々だな。 それとメッキーさん今日はわざわざお越しいただいて、主催者として、心より感謝しますよ。 入り口が、スライム型だから大変でしたでしょう?」 ルーキーはメッキーに深々とお辞儀をした。 「いやいや、ご心配には及びません。そうそうピエールなら、今日ここに来ていませんよ。」 ルーキーの丁寧な挨拶に戸惑いながら、メッキーは答えた。 「来ていない?」 ルーキーはホイミンのほうに顔を向けた。 「ん〜とね、ピエール、愛に生きる戦士として、ご主人様にお使えするんだ〜とかいっていましたよ〜。 称号もこれからは、『主への愛に生きる紳士的で騎士道を重んずる戦士ピエール』 にするとか言っていました〜。」 「・・・まぁ、本人がそうしたいというのなら、それで登録するが・・・。 騎士道スライムの称号のほうが、他のスライムたちに対してもハクがつくんだが・・・・・。」 ルーキーは呆れ半分の複雑な顔で言った。 「いっそ、『かなわぬ恋だとも思いもしないでに主への愛に生きる〜』にしたほうがいいんじゃないか?」 メッキーはルーキーにそう提案した。 「そうですね、考えておきましょう。」 ルーキーは苦笑いをした。 その頃、 『かなわぬ恋だとも思いもしないでに主への愛に生きる紳士的で騎士道を重んずる戦士ピエール』 は憎き男のことで頭がいっぱいの主とともに、食事を摂っていた。 ○蛇足その2 ―ガンディーノ 「帰ってきてくれたのね、テリー。」 あたりはすっかり暗くなり、雪がちらつく中でミレーユは家の前で待っていたのだ。 「これが姉さんの欲しかったものだろう。」 そっぽを向きながらぶっきら棒にテリーが答えた。 そんな弟の様子を見てミレーユは微笑んだ。 「じゃあ、テリーはサンタクロースかしら?一日早くやってきた、私の青いサンタクロース。」 そのことばにテリーは顔を紅くしながら、ミレーユとともに家に入って行った。 END. |