▼終章 「最後の告白2」 その後のお話しです。
ネタバレや砂吐き要素含んでおりますので、そこまで読まれていない方の閲覧はお勧めできません。。













































砂の混じった不快な風が、容赦なくマントを体に叩き付ける。
必死に目を開けるが視界にはいつ終わるともしれない砂嵐しか見えない。

最後の晩餐からもうすぐ1年になろうとしていた。
力を蓄えて、噂と文献を頼りに目的の場所に辿り着いたテリー。
そこは吹き続ける砂嵐で全てを覆い隠していた。

運良く、人一人入れるくらいの窪みを見つけ身を屈める。
顔の砂を払い、再度目的を確認した。
古城の廃墟。ここに、有るはずなんだ。
そこに、居るハズなんだ。古の悪魔が。



ED〜 その後の話




砂嵐がようやく収まった3日目、噂に聞いた通りの大きな城が見えてきた。
黄色くくぐもった空に、山のようにそびえている。
近づけば近づくほどその城は不気味さを増していった。
開かれた正門から中に入ると城内はシィンと静まりかえっていた。壁をさわれば美しい細工がザラリと崩れる。静寂の中、テリーの足音だけが空しく響いていた。

ガラン。
南京錠で幾重にも閉じられていた鉄格子は、押しただけであっさりと鎖が千切れ訪問者を迎え入れた。

螺旋階段を下りて、暗い地下へと足を踏み入れる。
再び錆び付いた鉄格子を開け、地下にあるにしてはやけに大きな広間へ出ると
用意していたランタンに明かりを灯した。

「・・・・・・っ!」

 足下から光に照らされた場所全てにどす黒い血のような物が気持ち悪く彩られていた。
ランタンを掲げると、想像通り嫌な光景が広がっている。
どれぐらい昔に命を奪われたのだろうか、骨になってしまった骸がざっと見渡すだけで何十、何百と転がっていた。
むせ返る程の埃が充満して、時間が死臭すら消している。
テリーは一歩、二歩と慎重に歩を進めた。
足の踏み場もない程散乱している骸は、踏みつける間もなく砂のように崩れていった。

「・・・・・・!」

 数歩目の足を踏み出すと、背筋の凍り付くような鋭い気配を感じた。

人でも、獣でも、魔物でもない。
テリーはこの気配を知っていた。

『ヒトの匂いに呼ばれて来てみれば・・・闇の眷属だった愚者か・・・』

 暗闇にボゥっと青い炎のような物が浮かんだ。
炎は揺らめきながら分裂して、ヒトの顔を形作っていく。
それは、テリーを見下してニヤリと笑ったように見えた。

「・・・お前がダークドレアムか?」

 息を飲んで、テリーが呟く。

『・・・ダークドレアムか・・・それはお前たちヒトが名付けた名前に過ぎぬ。我に名前など、無い・・・
我はお前たちとはかけ離れた存在なのだ』

 不気味な声は途切れながらも反響して、しっかりとテリーの耳に届く。
テリーは渇いた喉で声を上げた。

「お前を打ち負かせば願いを叶えると言うのは本当か!?」

『願いを叶える・・・?そうだな・・・我と剣を交えて試してみるか?』

 青い炎は一瞬揺らめいて、瞬く間にヒトの形を成していった。それは全くテリーと同じ姿をしていたが、気圧されるほどの魔力の固まりだった。

『我はヒトの負の感情に目が無くてな…戦って我に供物を捧げよ、絶望、恐怖、苦痛、と言う名のな!』

「悪趣味なヤツだ」

 テリーは強気にそう吐き捨てて剣を抜いた。

「望む所だ。こっちもここまで来て、何の手みやげも無いんじゃ骨折り損だからな」

 ニヤリ。
青い炎は先ほどと同じように笑って、テリーと同じように剣を引き抜いた。




暗い暗い世界。
ランタンの炎はすでに消えていて、悪魔の青白い炎だけが照らしている。何時間、何十時間剣を交わらせたのか分からない。体力の尽きかかっているテリーに対し、悪魔は衰えもせずに剣を振るう。
テリーの急所を外しながらじっくりといたぶっているようだった。

「ぐあっ!!」

 手元が狂ったのか、遂に急所を貫いた悪魔の一閃。
テリーは衝撃で仰け反って倒れた。
貫かれた脇腹はこれ以上ないくらい熱い。

『・・・つまらぬわ・・・!』

 悪魔の冷たく低い声。青い炎はテリーの姿から、再び一つの大きな炎となった。

『死を恐れぬ者の負の感情などたかが知れておる!このような戯れ事、全く意味を成さぬわ』

「・・・逃げる・・・のか・・・!?オレは・・・まだ死んじゃいない・・・・・・お前を倒す・・・まで・・・は・・・」

『小童が!まだそのように粋がるか!』

 圧倒的な力の差を見せつけても怯む様子の無いテリー。
ダークドレアムはこんな人間に数百年、出逢った事が無かった。
しばらくテリーを見下したまま、フムと考えて

『面白い・・・。お主をそこまで奮い立たせる願い・・・興味が沸いたぞ。負の感情が食えないなら、体中からわき上がるその欲望を食う事にしよう』

「・・・・・・・・・っ!!!」

 瞬く間にテリーを取り巻いた。
目の前に迫る青い炎。テリーは自分の中なら何か抜け落ちていくような感触を覚えた。

『我の食った欲望は、我の中に有る魔力と結合して現実の物となる・・・。
お主に聞いた願いを叶えると言う話・・・遠い昔に気まぐれで食った欲望がそのまま伝わったのだろう。もう二度と、ヒトの欲望など食わぬと思っていたのだがな・・・』

 テリーの中で低く冷たい声が響く。

『主の欲望、負の感情とまではいかぬがなかなかに良い味がしたぞ』

 その言葉を残して青い炎は自分の中からも目の前からも消えた。
そして、辺りは再び元の暗闇と静寂に包まれた。

「・・・・・・・・・」

 テリーは呆然とその場に座り込んだままだった。
あの戦いが嘘のように、静けさだけが漂っている。
何もかもが夢だったように・・・

「現実のものになる・・・?」

 テリーはダークドレアムの言葉を反芻した。


オレの願いは、叶うのか・・・・・・?


ポツン。

目の前に一つ、光の雫が落ちてきた。
テリーは何の疑問も抱かずにその白い光を見つめる。

ポツン。ポツン。
落ちてきた光は集まりながら徐々に何かを形作っていった。

「オレの願い・・・?最強の剣・・・?」

 自然と言葉が漏れた。

ずっと手に入れる事を望んでいたんだ。
姉さんを助けられなかった時からずっと探していたんだ・・・
そのためにオレは旅に出たんだ・・・

ポツン。ポツン。ポツン。
集まっていく光を、テリーはただただ眺めていた。

その為に旅に出たのに
最強の剣が手に入ったはずなのに。

眩しいほどに集まった光のシルエット。
ひとつ、ゆらりと揺らめくと、ふわっと一瞬にして散った。

最強の剣より、もっと欲しいモノが出来るなんて
思ってもみなかった。

「・・・・・・・・・れ?」

 光の中から現れた見慣れたシルエットは、驚いた声をあげた。
背丈に似合わない大きな剣、青いマント、スライムピアス、男みたいに短い髪に

「・・・こ こ・・・どこだ・・・?」

 男のような言葉使い。
貫かれた脇腹の事も忘れ、テリーは立ち上がった。
目を丸くしている少女に手を伸ばす。
本当に、願いが現実に・・・・・・?

グラリ。
意志に反して体が重くなる。
遠くなる意識の中、自分の名を呼ぶ声がハッキリと聞こえた。
懐かしいその声
ふっと安心して、テリーは意識を手放した。





「・・・・・・」

 心地良い風に吹かれ、意識が戻ってきた。
軋む体で粗末なベッドから起きあがると、そこは石造りの頑丈そうな部屋だった。
吹き抜けの窓からは枯れ果ててはいるが、元は美しかったであろう庭園のようなものが見える。

「・・・・・・夢・・・だったのか?」

 テリーは必死に記憶の糸を辿った。
死の大陸と呼ばれる場所に来たオレは、グレイス城跡でダークドレアムと戦った・・・。
そして、願いを現実に・・・・・・

自分を呼ぶ声が、今も頭に響いている

そうだ、あれは夢なんかじゃない・・・!
夢なんかじゃ・・・

「・・・・・・・・・!」

 入り口に立ちすくんでいた少女は、起きあがっているテリーを信じられない顔で見つめていた。

持っていたコップがスルリと手から滑り落ちる。
カツン!
派手に金属の音が響いた後、涙目で駆け寄ってきた。

「テリー!良かった・・・目、覚ましたんだな!ずっとこのままだったらどうしようかと思った・・・・・・だって、せっかく・・・逢えたのに・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・テリー・・・オレだよ・・・?・・・やっぱり・・・忘れちまったのか?」

 その言葉にも何も返せなかった。
口の中は乾いて、思考が停止して、体だけが勝手に動いていた。
テリーは何も言わずに少女を抱きしめ

「・・・・・っ!!」

 そしてそのまま、驚く少女に口付けた。

「・・・・・・!・・・なっ・・・に・・・!?」

 ふと離れた唇から声が漏れる。
テリーはもう一度少女の唇を塞いで、今度はもっと深く求めた。

「・・・・・・っ・・・」

 日の欠けた金色の優しい光りが二人を照らす。
穏やかな風と共に遠くの鳥のさえずりも運ばれる。

ずいぶんと時間が経ったところで、テリーはようやく唇を離した。

「あ・・・・・・」

 何が起こったのか理解しきれない少女はただ呆然と立ちつくす。
真っ赤な顔で何かを言おうとするが、口が上手く回らない。

「ユ・・・ナ・・・」

 名前を呼ばれて、ビクッと少女の体が反応した。

「・・・・・・会いたかった・・・・・・」

「・・・・・・!」

 華奢な体をきつく抱きしめて呟く。

「忘れようとしても忘れられなかった・・・ずっと・・・ずっとお前に会いたかった・・・!」

 ユナはテリーの告白を信じられない思いで聞いていた。

テリーの言葉だけが真っ白な頭の中でぐるぐる回っている。
唇の感触、テリーの体温

「・・・・・いしてる・・・」

 もう聞けないと思っていた二度目の愛の言葉。

瞬間、体に何かが突き抜けた。
その衝撃にずっと塞き止めていたテリーへの思いが一気に吹き出した。

「・・・っ・・・テリー・・・っ!」

 テリーの背に手を回して同じように強く求める。

「うっ・・・テリー・・・!テリー・・・テリー・・・!」

 言葉とともに大粒の涙を流しながら、テリーの胸に顔をうずめた。
テリーも答えるように、折れそうなほど強く抱きしめる。

「もう絶対会えないんだって・・・もう忘れるしかないんだって・・・ずっと思ってた・・・・・・
だから・・・でも・・・」

 涙が言葉を遮って、胸の切なさが思考を鈍らせた。
テリーの体温を感じる事で精一杯で、端切れのような言葉しか出てこない。

「だって・・・それに・・・テリーは・・・とっくにオレの・・・事なんて・・・忘れてるって 思って・・・」

 苦しさと切なさが喉に詰まる。
気を抜けば、押し寄せる強い想いに心が飲まれそうだ。
ユナは号泣しそうな自分を押しとどめる。
テリーもユナを抱きしめる事で、切なさに飲まれそうな心をつなぎ止めた。

二人は失われた時間を取り戻すように、ただひたすら抱き合う事しか出来なかった。





 どれくらい時間が経っただろう。日は金からオレンジに色を変えていた。
長い間お互いの体温を確かめ合って、テリーもユナもこれは現実なんだと思える事が出来ていた。
二人の心臓の音が落ち着くとテリーの方から口を開く。

「少しは落ち着いたか?」

 それは自分にも言える事だったが、平静を装って尋ねた。

「うん・・・ごめ・・・もう大丈夫・・・」

 涙を何度も拭って答える。二人はようやく距離をとった。
目の前に居るテリーを見つめても、ユナはまだ信じられない気持ちでいっぱいだった。
テリーがすぐ側に居て、しかも自分の事を想ってくれているなんて・・・。
唇の感触を思い出し、体が熱くなる。

「テリー・・・」

 遠慮がちに名前を呼んだ。

「・・・オレ・・・ついて行っても良いんだよな?」

 涙で滲んだ瞳に、不安げな色が見える。
テリーは頬を緩ませて頷いた。

「足手まといにならないならな」

 いつもと同じ、テリーの台詞。
ユナはハっとして、赤く腫れた瞳のままいつもと同じ笑顔になった。

「まっかせといてよ!ベホイミだって使えるんだぜ!」

 あの懐かしい頃の空気。
テリーの顔にも自然と笑みが浮かぶ。

「・・・・・・!」

 ユナの胸がドキンと甲高い音をたてて高鳴った。
出会ってから初めて見る優しい微笑み。

窓からは赤い夕暮れの光が差し込む。
レイドックで別れた時と同じ夕暮れ。
ユナは”あの時”の続きを見ているようだった。

寂しさに凍り付いていた時間が動き出す。
夢じゃない。
これは、あの時の現実の続き。

「ほら、さっさと行くぞ」

 テリーの声に我に返った。
そう言って歩を進めるテリーの後ろ姿には、昔のような近寄りがたい冷たさは無くなっていた。

「なにやってる。おいてくぞ。ユナ!」

 いつも前しか見ていなかったテリーの瞳が、振り返ってユナを捕らえた。
ユナはもう一度だけ、腕で目を拭って

「・・・うんっ!!」

 思い切りの笑顔で返した。



夢みたいだけど夢じゃない。
これは現実で、あの頃の旅の続き。



そうこれからは

ずっと側に------- ・・・









>>管理人コメント
アァァァ・・・久々に書くとなんだかもうもう・・・色んな意味で涙 アァァ ァ・・・ !
キスさせるタイミングはここしか無いと思いました・・・!(!?)
ウワァァァ・・・すいません、ブランク長すぎるせいか、萌えな文体や萌えな台詞がなかなか思い浮かびませんでしたorz。
きっ期待はずれでしたらスイマセ・・・TTそんなお方は、まだ萌え要素やラブラブ要素の有る
裏ページをお勧め致します・・・!!エッチな要素含みますので18歳になってから推奨ですが・・・!

なにはともあれ、ここまで読んで下さった方、有り難う御座いました!!
そしてアンケートでNOVELSSに投票して下さった方も感激感謝です^^