■かなわない



 テリーと一緒に度をする事になって早3日。
レイドック行きの船に揺られながらユナは甲板に来ていた。心地良い潮風が適度に眠気を誘う。
先ほどまでやかましくお喋りしていた女たちも 潮風で髪がべとつく とかなんとか口にして
中へ引っ込んでいった。

「静かになったし、気持ちいいし、やっぱ海っていいな〜」

 船酔いさえなけりゃ・・・。と心の中で付け加えるが、口に出すにはあまりに風情がない。
ゆったりとした昼下がりをユナは十分に満喫していた。

そんなちょっとした幸せが、まさに音を立てて崩れたのはそれからまもなく。

魔物避けの為、船から流れている聖水が途切れた一瞬を狙って黒い影が飛びかかってきた。
飛びかかられた衝撃で派手に船が揺れる。
巨大な影はオーシャンキングだった。それも、軽く船頭を飲み込んでしまいそうなほどの大物。

「ぎいいいやああああああ!!」

 幸か不幸か甲板にはユナただ一人。
体に見合う大きな口とキバは船のヘリを一瞬にしてかみ砕いてしまった。
オーシャンキングは再び海へ戻るとその鋭い眼光をユナに向ける。

「魔物か!!」

 船が揺れたのを機に、テリーが船内から飛び出してくる。
それと共に腕に覚えがありそうな乗客の戦士や武闘家も。
よほど血気盛んだったのか、オーシャンキングはいきなりユナに飛びかかった。

「ぎゃああああ!!」

 反射的に腰に携えた探険を引き抜き、目の前に構える。携帯用とは言っても
刃先に毒が塗り込まれている毒牙のナイフの一種だ。
オーシャンキングは勢いが仇となって、刃に突っ込む。
胸びれを鋭く抉られたオーシャンキングは甲高い声を上げながら海へと逃げていった。

「かませ犬とはこの事、我々の出る幕は無かったようだな」

 戦士風の男は戦況を見届けて早々に中に引っ込む。
武闘家もオーシャンキングが逃げた先を確認して同じように引っ込んでいった。

「んだよ〜〜。誰もオレの活躍は褒めないのか?」

「腰が抜けたのが幸いして、たまたま皮膚の弱い場所にナイフが当たっただけだろ。
オーシャンキングは鋼鉄の様に硬いウロコを持つと聞く。運が良かったな」

 まだ立ち上がれないユナを一瞥してテリーが皮肉る。

「お前も相変わらずだよな!あの時とっさに短剣抜いてなきゃ、オレも大けがしてたかも
しれないってのによ!!」

 ようやく立ち上がってテリーと同じ目線に立つ。
魔物の血が付いてしまった短剣を仕方無く鞘に収めた。後で洗おう・・・。
そんな事を考えていると、珍しくテリーが自分に興味を示している事に気付いた。

「なんだよ?このナイフ?そんな見てもやんねーぞ。それにテリーの持ってる剣に
比べりゃ攻撃力低いし。あ、でも相場じゃ800Gぐらいするって話だから売ったら良い金に・・・」

「そんなんじゃない。・・・お前、剣が有るのにどうして短剣なんだ?」

「は?ああ、そんな事。冒険者なら護身用に短剣持つのとか普通だろ?
てか、オレむしろメインこっちだし」

 そう言って、ヘラヘラと鞘に収められた短剣をちらつかせる。
テリーは出会った時からずっと不思議に思っていた事があった。
魔物が襲いかかってきてもユナは滅多に背中の剣を抜こうとしない。
魔法でやり過ごすか、逃げ回っているか、実際スラリンより役に立ってない。
素早さだけが取り柄のユナには、背中の剣はその名の通り重荷になってるんじゃないだろうか。

「お前にそんな大きな剣は合わない。宝の持ち腐れだ。
そんなもの売って、短剣の腕を鍛えればもっとマシな戦いが出来る。さっさとそうすれば良い」

 こんな言い方しか出来ないのは性格だから仕方無い。
ユナは真っ赤な顔でいちいちつっかかると、ドスンドスンと大きな足音を立てて中へ入っていった。

・・・あいつはまず先にあの短気な性格をなんとかするべきだな・・・。




 東から徐々に朝日が海原を照らしていく。
珍しく早く起きたユナは爽やかな朝を楽しもうと顔も洗わずに甲板に出た。
乗客じゃ一番乗りだと思って軽やかに飛び出したが、先客を見つけて途端に足が重くなる。

「・・・・・・おはよう。早いんだな。何やってんだ?」

「見ればわかるだろ」

 ・・・。その良いようは爽やかな朝を台無しにしてくれた。
挨拶も返さないのかこいつは・・・!それにオレは具体的に何をやってるのか聞きたいんだ!
ユナの負のオーラを感じ取って、テリーは剣を振る腕を止めた。

「剣の稽古だ。分かったら邪魔をするな」

「・・・〜〜〜っ!お前がオレの爽やか〜〜な朝を邪魔したんだろ!」

 理不尽な言いがかりを返してやったので、少しだけユナの気が晴れる。
少し距離を取って、爽やかな海風と朝日を浴びながら背伸びした後、
一心不乱に剣を振るテリーを見つめた。
悔しいが、やっぱりこいつには敵わない。
熱心な稽古もそうだが、剣の軌跡やキレを見ても自分は遠く及ばないと感じる。

「・・・なんだ?お前もやってみるか?」

 結構な時間凝視してしまっていたんだろうか。
剣を振るのを止めてテリーが視線をこちらに向けた。

「はぁ!?やるわけねーだろ!」

 即答して顔を背けるが、珍しくテリーの方から突っかかってきた。

「やっぱりその剣はお飾りか?売って別の使い手に渡った方が剣の為になるな」

「バッバカにしてんじゃねーよ!オレはただ稽古が面倒だって言ったんだよ!
朝飯も食ってないのに稽古なんてやってられっか!」

 稽古が面倒か・・・。
テリーは何故かクツクツと笑いながら小さく呟いた。そして

「じゃあ・・・・・・」

 神妙な顔に戻ると持っていた剣を突きつけた。

「オレと斬り合ってみるか?」

「・・・は!?」

「もちろん手加減はしてやる。お前の力量もみてみたいしな」

「なんだ、その上から目線!?手加減なんて冗談じゃねえぞ!来るなら本気で来い!!」

 フっとテリーは口元を緩ませた。そのしぐささえ、ユナのかんに障る。

「余裕ぶっこくのは勝手だけどよ。油断してるとその細い剣、真っ二つになっちまうぜ」

 もしかしたら自分はテリーの挑発にまんまと乗せられているんじゃないだろうか。
頭の片隅でそう思うものの、自分を格下扱いする相手に斬り合いを申し込まれては
受けないわけにはいかない。男が廃る。女だけど。

「・・・どうかな。受けてやるからお前からこい」

「・・・言われなくても・・・!」

 言い終わらない内にユナは思い切り床を蹴って飛び出した。
その勢いのまま背中の剣を引き抜く、剣と体重を乗せて一気にテリーへと振り下ろす。

「手加減はしてやるぜ!」

 テリーの台詞をそっくり返す。
だが、剣に全く手応えが無い。一瞬で避けられた。まずい。
ユナは慌てて横に飛ぶ。
顔の横を掠めていったテリーの剣を大剣で豪快に振り払う。もちろん、斜め後ろの
テリーに当たるはずもなく。
ユナは手加減する事をすっかり忘れて夢中で剣を振るっていた。

「よっ避けてんじゃねえぞ・・・!斬り合いになんねーだろ・・・!」

 大剣を力いっぱい振るっているユナは早々にスタミナ切れで、スピードがみるみる落ちていく。

「わざわざ当たりに行くバカがどこに居る。それにお前は大振り過ぎて
目をつぶっても避けられる」

 ユナの必死の攻撃を軽く避けながら 息も切らさずさらりと言ってのける。

「こっこっのやろおおお!」

 カキン!
と言う小気味良い音でユナの持っていた大剣が宙を舞う。
ドシーンという大剣が落ちる音の方が無駄に大きく聞こえた。

「ああっ!!なっなにやったんだよ今!!」

「・・・力の向きがバラバラだ。横から力を加えただけで、飛ぶ」

 どうやらテリーの剣で軽くなぎ払われたらしい。
納得する間もなく、テリーの剣はユナを捕らえていた。

「・・・・・・・・・」

 丸腰で対抗する術もない。ユナはしばらく考えて、苦々しい顔で両手を挙げた。

「思った通りだな。ただ大振りしてるだけだ。これじゃスライムにも勝てない」

「・・・・・・・・・」

 悔しくてはらわたが煮えくりかえりそうだったが反論できない。
斬り合いで負けたのだ。男に憧れる者として、見苦しい言い訳は出来ない。

「く・・・参った・・・似るなり焼くなり好きにしやがれ」

「バカ」

 テリーの一言がバギのように心を切り刻む。
ちくしょう、最後の最後まで本気でバカにしやがって・・・!

「まぁ、大剣持ってそのスピードっていうのは大したものだ。
剣も・・・練習を積めば、もしかしたら良い線いくんじゃないか」

「・・・・・・」

 さっきはスライムにも勝てないとかなんとかボロクソ言ってくれたくせに!
ギリギリ歯を噛みしめる音が伝わったのかテリーはフイに振り向いた。
そして、ほら とタオルを投げて寄越す。
口元に笑みを浮かべて、テリーはそのまま立ち去っていった。

「・・・相変わらずキザな奴・・・!いつかあのすまし顔をぎゃふんと言わせてやるからな」

 不適な思いを胸に秘め、受け取ったタオルで乱暴に汗を拭った。
絶対強くなって、いつか、いつか、あいつに一太刀くれてやる。

そんなユナがテリーを好きになるのは、それからまもなくの事。




>>甘いところがひとつもない夢小説なんて \(^O^)/ でも、この当初のユナの性格とかしゃべり方結構好きなので
ま、また全然甘くないやつを書くかもしれません。今推敲してみたら、本編の方よりガサツっぽい/(^o^)\
特にテリーに対して酷い有様ですが、二人のやりとりを書くのは楽しかった・・・。
乙女モードはほんと難しくてだめです;;