■ホワイトデー 「・・・・・・・・・」 今日はホワイトデー。 テリーにとっては一年で一番出費がかさむ日でもあった。 バレンタインデーに女からチョコを貰った男は、必ずお返しとして、何かをプレゼントしなくてはならないらしい。誰が考えたのか知らないが 迷惑な話もあったもんだ。 ”女の子は男の子からのプレゼントを待っているものなのよ。テリー、必ずチョコを貰った女の子にお返しをする事!良いわね!” 強い口調でそう言った姉の姿が過ぎる。 テリーの姉、ミレーユは こういう事に酷くこだわる所があった。 「・・・・・・」 そんな姉の言いつけもあったが、物を貰った手前なにも返さないと言うのも借りを作っているようで気持ち悪い。 テリーは仕方無く、雑貨屋で買ったクッキーを紙袋に詰め込んでチョコを貰った女に配った。 顔なんて覚えちゃ居なかったが、この日を待っていたのだろうかチョコをくれたとおぼしき女がキャーキャー言いながら寄ってくる。 全てを配り終えた所で、テリーはもう一度紙袋の中身と財布の中身を確認した。 間違い無くどちらも空だ。 この日に備えてゴールドを稼いでいたものの、予想以上の出費にテリーは息をついた。 「もう少し稼いでおくべきだったな・・・」 テリーの脳裏にある人物の顔が浮かぶ。 「あいつなら・・・渡さなくても許してくれるかもしれないが・・・」 その人物の後に姉の顔。姉は、きっと許してはくれないだろう。 「・・・・・・」 テリーは ひとつ、ある考えを巡らせると街門に繋いでいる馬車へと足を運んだ。 「・・・ユナ」 その人物は、相変わらず馬車内に残した仲間モンスターの世話をしていた。 テリーに気付くと、どことなく緊張した面持ちで馬車から降りる。 「何だ?」 いつもと違うユナの雰囲気。今日がホワイトデーだと言う事に気付いているんだろう。 テリーは気まずそうに頭を掻いて 「悪い。お前にやる分のクッキーが無い」 単刀直入に告げる。向こうは一瞬 ”えっ”と目を見開いて その後 「あっあはははっ!気にするなよんな事!オレは別にそんなお返しとか期待してないし!だから、大丈夫だから」 予想通り、あからさまに焦り出す。 「悪かったな・・・逆になんか気・・・遣わせちゃって・・・。テリー、チョコ沢山貰ってたからお返しも大変だったんだろ・・・?」 一ヶ月前、両手いっぱいにチョコを抱えたテリーが思い出された。 ”街に滞在すると、いつもこうだ” とテリーは自慢する風でもなく、迷惑そうに言ってた。 その光景を見て、チョコを渡したのを後悔した一ヶ月前の自分も一緒に思い出される。 あれだけチョコを貰ったのだ、お返しも相当な数だったのだろう。 自分の分は数に入れられて無くても仕方無い。 そうだ、別にお返しが欲しくてチョコをあげたわけじゃない。 世話になってるから 喜んで欲しいから 案外、上手く出来たから それを見て欲しかったから ・・・テリーが好きだから だから、渡したんだ。 一方的にチョコを押しつけて、でも、心の何処かでなにか待ってるなんて。自分の一方的な想いと同じだ。 ユナはそう考えて首を振った。 「はは・・・だから気にすんなよ。チョコはオレがあげたかっただけだし、テリーにはいつも世話になってるし」 「・・・・・・」 それじゃあ、と踵を返すユナをテリーが呼び止めた。 「・・・・・・?」 振り返ったユナの瞳に、光る短剣の柄。 テリーはユナの隣に歩み寄って、その短剣を差し出した。 「ブロンズナイフ。オレがガキの頃から使ってたやつだ」 問いかける前に返す。鞘から抜くと、ナイフは所々が欠け、反射する光は鈍く光っている。 「10年以上前のシロモノだからな。売っても2、30ゴールドすれば良い方だ。お返し・・・になるかどうか分からないが・・・」 え?え?と戸惑いながらそれを受け取る。青銅で出来たそれは、見た目よりずっしりとした重さがあった。 「これ・・・くれるのか・・・?オレ、に・・・?」 テリーは顔を背けて頷いた。 「良いのか?これ、大事なものなんじゃ・・・」 「・・・別に・・・大事ってほどじゃない・・・捨てるに、捨てられなかっただけで・・・」 そう言うが、大事じゃないと言えば嘘だった。 自分が生まれて初めて握ったナイフ。 姉と暮らしていた時から、一人ガンディーノを飛び出してしばらくの間ずっとこのナイフ一つで生きてきたのだ。思い出だけは無駄にこびり付いている。 売ってしまうのも捨ててしまうのも、気が引けたのは確かだった。 「でも、小さい頃からずっと使ってたんだろ?」 「・・・まぁな・・・そのおかげで錆や汚れも酷いが、腐っても青銅だ。さっき言った額にはなる」 「売らないよ、売るわけないだろ!」 ユナは視線を落としてナイフを見つめた。 テリーがずっと使ってたナイフ。テリーがずっと持ち歩いていたナイフ。 自分が知らないテリーの思い出を受け取ったように思えて、嬉しくてたまらない思いが押し寄せる。頬と目が自然と緩んだ。 「・・・テリー・・・ありがとう。でも・・・ほんとにオレが貰っても良いのか?」 「・・・しつこいぞ。良いって言ってるだろ」 あまりにユナが嬉しそうな顔をするものだから、テリーは気恥ずかしくなって口調を強めた。 ”早く売れよ” と促そうとして、テリーは口をつぐむ。 そう言ってもこいつは売らない。 逆にオレも心の何処かでそう思って、これを渡したのかもしれない。 「・・・うれしい・・・」 こっそりそう呟いたユナの顔は穏やかで。 こんなキッカケを与えてくれたこの日を、テリーは初めて悪くない日だと思った。 >>ここまで読んで下さった方、ありがとうございました!ハァハァこっぱずかしいけど 楽しかった・・・。 ホワイトデーはお菓子業界の方が考えた日らしいですって聞いた事がある\(^O^)/ テリー=モテモテはデフォです\(^O^)/ |