● 賭け ●
・・・・・・・・・薄暗い洞窟の中、どれくらい歩いたんだろうか。 目の前に張りつめる蜘蛛の巣を払いながらそんな事を考えた。 どれくらい魔物の屍を積み上げてきたのか。 喉はからからに渇ききっている。 水が尽きて 食料が尽きて 何十時間経ったんだろう。 死んでもおかしくはなかった。 もう廃墟と化してしまったグレイス城の地下は 他国の侵略を防ぐためかかなり入り組んだ迷宮になっていた。 魔王が倒れてからも滅びていない魔物の住処としては打ってつけの場所。 何度も何度も同じ所を回ったり、数々の罠にはまってしまったりと、悪戦苦闘だった。 呪文も使えないテリーがこの迷宮へ足を踏み入れることは自殺行為としか思えなかったのだ。 ・・・強くなるためなんだ・・・。 そう考えながらよろよろと歩いていくと、ふと足を止めてしまった。 不気味で豪華な装飾を施した大きな扉が毅然として目の前に現れる。 息を飲み込み、意を決した。 この扉の向こうに、悪魔がいる・・・ ギギィ・・・ 不気味な音を響かせて、にぶく、ゆっくり扉は開いた。 天国へ続く道を思わせる階段を上っていくと、行き止まりに、教会にでも着いていそうな 大きな鐘がある真下に出た。 鐘からはロープが垂れ下がっている。 間違いない・・・。 この鐘を鳴らせば・・・。 ゴォォーーン・・・。 大きな音が部屋中を駆けめぐると、 今度はおぞましげな声が 『汝、何を求めるか・・・?』 鐘はまだ鳴り響いている。鐘の音と共に聞こえて来る不気味な声に、勇敢に言い返す。 「強さだ・・・決して誰にも負けない強さを・・・!」 ハッキリキッパリ言い切った。 目を凝らすと、声に似合うおぞましい形が暗闇に浮かび上がる。 こいつが・・・古の悪魔・・・ダークドレアムか・・・ 『・・・自分に見合わないチカラを欲する者は・・・いつか我が身を滅ぼす・・・』 「・・・・・・」 『そして自らの心に嘘をつく者も・・・いずれ我が身を滅ぼす・・・』 「・・・・・・!」 それはいつのまにか、人のカタチになっていた。 昔、自分を操っていた、デュランを思わせる・・・。巨人だった。 『・・・お前の心の中に、とても大きな穴がある。私には見えるぞ・・・ お前の心を支配している美しい女が・・・』 「・・・・・・・・・っ!!」 『フハハハハッ!!天空の王家の娘だと!?これは面白い!!その女に会うためにこの私を倒すのか?』 「・・・黙れ!!」 剣を思い切り引き抜くと、テリーは迷わず斬りかかっていった。 軽くダークドレアムからかわされると 『荒削りだがなかなか良い剣さばきだ。お前はもっともっと強くなれる、こんな所で命を落とすのは勿体ない』 「やってみなければ分からないさ!!」 威勢良くそう叫ぶが、本当はもう分かっていた。 ダークドレアムの体からあふれ出ているチカラ。自分では足下さえも及ばない事は。 ダークドレアム。 どんな願いも叶えてくれると言う悪魔。 そのチカラは大地を震わせ、その魔力は生ある者全てが恐れ、ひれ伏すという。 そんな恐ろしい悪魔と戦わなければならないほど、テリーは追い込まれていた。 万に一つの可能性もない。 奇跡とも言うべき事に賭けてみたくなったんだ。 オレが奇跡なんて物に頼る日が来るなんて・・・。いつからこんなに弱くなったんだ・・・。 いつから・・・・・・・・・。 ド・・・ッ・・・!! 雷鳴の剣が宙を舞って地に突き刺さった、それと共にテリーも無惨に倒れる。 『・・・・・・・・・久々に・・・楽しませてもらったな・・・・・・』 ダークドレアムは何事もなかったかのように腕を組んで、宙に浮き上がる。 『天空人と人間の恋・・・か・・・フハハハ・・・フハハハ!人と言う生き物は本当に面白い! 下らん感情にほだされて、禁忌を犯してしまうとは・・・!! 禁忌を犯した天空人の翼は朽ち、人間には神の天罰が下る・・・しかも、その天空人は あのゼニスの娘・・・!! クックック・・・ハーッハッハッハ!!私をこんな所に封印したゼニスが悩み苦しむ姿が 目に浮かぶわ・・・クックック・・・クックックック・・・!!』 暗闇に、恐ろしい魔物の嘲笑がいつまでも響いていた・・・・・・。 |