● もう一つの未来1 ●

 






「ねえ、お兄さん!どぉ?ちょっと一休みしていかない?」

 呼び止められた青年は振り向かずに足を進めようとする。
声を掛けた女は少し面食らったような顔をした後、腕を掴んで無理矢理に引き止めた。

「お兄さんかっこいいし私の好みのタイプだからうーんとサービスしちゃうわよ。
代金も300Gからえーと…100にしちゃうっ!だから、ねぇっ!寄って行かないー?」

 わざとなのか女の胸が腕にちらちら触れる。

「ねぇったら!」

 女は強引に青年を振り向かせた。

「……………!」

 今まで何を言っても無反応だった青年が大きく瞳を見開いた。
金髪がかかった薄い栗色の短い髪、大きな瞳に長いまつげ、白い肌に
意志の強そうな唇。

青年は顔をブンブン振ってもう一度目の前の女を見た。

違う…。
髪や顔の作りは似ているが、長い睫毛や大きな瞳は全て
化粧によって作られたものだった。彼女はピンクの唇を持ち上げて

「フフフッ、私、美人でしょ?この辺でも結構人気なのよ?ね、一晩100G
どぉ?ねぇお兄さんっ!」

 全然違うのに…。その顔は最愛の恋人の姿を思い出させた。




「明かり、消してもいいかしら?」

 女はベッドに体を預け、慣れているのか男を誘惑するような格好。

「それにしてもラッキーだなぁ、お兄さんみたいな格好いい人と一晩過ごせるなんて」

「…………」

「フフッ、本当に無反応な人ねぇ、こーんな美人がこんな格好でいるって
言うのに…まあ、良いわ。じゃ、始めましょうか?」

 無言でいる青年の腕を自分の方へと引き寄せてそのまま甘い世界へと
誘っていった。




「あっ…ああっ、良いっ、スッゴク良いわお兄さ…あんっ!」

『あっ…くっ…あ、あっ…!』

「ああっ、あっ…いやっ!ああんっ!あっあっ…!」

『ふっ…あ…もう…オレ…っ!』

「…………!」

 テリーはハっとして、体を女から離した。
見えていたユナの幻影が女の驚いた顔を見た途端消える。

オレは…今まで何を……

「どうしたの…?早く……」

「………悪い………もうやめる……」

「……えっ!!」

「代金はここに置いておく。本当に悪かった」

 青年は道具袋から300Gを取り出して近くのテーブルに置いた。
そしてマントを羽織って部屋から出ようとするとボーゼンとしていた
女がやっと我に返って呼び止めた。

「ちょっ!ちょっと待ってよ!途中でやめるなんて男として最低よ!
最後まで責任取りなさいよ!!」

 女の言い分も、最もなのかもしれなかった。
こんな所で性欲を押さえられる男なんて聞いた事も無かった。
青年は、もう一度だけ悪かったと呟くと足早に部屋を出ていった。



月も出ていない暗い街道をテリーは歩いていた。
先ほどの行為が思い出される。
初めて会った女に、ユナの姿を重ねてあんな事…オレは……。

「……ユナ……」

 死んでいた思考がやっと蘇り始めた。
そうだ…ユナ…あいつは…何処だ?

「……………」

 何故オレはこんな所に居るんだ。あいつ、きっとオレの帰りを待ってる

「……………」

 そうだ、奇跡なんて信じるガラじゃないが、もしかしたら、あいつは…

『おかえりテリー。もーっ遅かったじゃないかっ!』

 白い光の中彼女が笑顔で出迎えてくれた。

「…………」

 そうだ、あいつは………




「ユナッ!!」

 言葉と共に小さな家のドアが開かれた。
中に居た見慣れた旅の仲間たちは弾かれたように振り向く。
そして姉のミレーユが憔悴しきった顔で駆け寄ってきた。

「テリー!もう何処に行ってたのよ!!私たち、本当に…本当に心配したんだから…っ!!」

「ユナは…ユナは何処にいる!?」

「………え?」

「おい、ユナは、ユナは何処に居るんだ!」

 部屋に入ってきたグランマーズに掴みかかるように問いかけた。
グランマーズは目をシパシパさせながら

「ユナなら…隣の部屋であの時と同じように…」

 言葉を待たずにテリーはグランマーズの入ってきた扉を抜けて
見覚えのある扉を乱暴に開けた。

そこには…確かに

「…………」

 ユナが居た。ベッドの上で気持ちよさそうに眠っている。

「ユナ!!」

 その名を呼んで

「ユナ、おい、ユナ起きろ!」

 駆け寄って今度は両肩をブンブンと揺さぶる。

「おい!起きろ!」

 何度も何度も肩を揺さぶるが彼女は起きる素振りすら見せなかった。
後ろの方でミレーユの気配。

「姉さん、ユナは…今眠ったばかりなのか?こんなに起こしても起きないなんて
よほど眠いんだろうな…」

「テリー…」

「まぁ、明日になればまた元気な顔して起きてくるとは思うが…
それにしても、良く眠っているな…」

「テリー…」

「でもこいつ朝は遅いからな…まぁ疲れてるようだし…明日はゆっくり寝せてやっても…」

「テリー!」

 その叫びにハっと我に返った。
我に返って姉の顔を見上げる。姉の姿は白くぼやけて見えている。

「貴方が…どれくらい辛いのか、どれくらい苦しいのか私には分からない…だけど、
信じたくない気持ちは苦しい気持ちは皆一緒なの…!だから…だから、苦しいけど
悲しいけど、現実から逃げないで…」

「何を言ってるんだ姉さん…」

「ユナちゃんは、ここ1週間ずっと…ずっと眠りっぱなしよ…グリークさんの言っていた
ように…もう、きっと私たちが生きている内には目覚めないわ…」

 ミレーユの真っ赤な瞳と普段より血の気の引いた顔色が
言葉に現実味を持たせている。信じたくなかった…信じたら…信じてしまったら
もう何もかもが崩れそうで

「そんな嘘…誰が信じるって言うんだ。姉さんも人が悪い…こいつはオレと…」

「テリー!」

 今だって何とか踏みとどまって、自分を保っているのに…

「お願い…もう、幻想を抱くのはやめて…今を見つめて…」

 切れ長の瞳から涙がこぼれ落ちる。それとともにミレーユもテリーの服を掴んだまま
ずるずると床に崩れ落ちた。

「テリー君…」

 開けた扉の先から、眼鏡を掛けた老人が顔をのぞかせた。
あの時のあの想いが急に蘇ってきて心の中をかき乱す。
眠っているユナ、崩れ落ちるミレーユ、神妙な顔の老人。

「う…ぐ…う……っ!」

 必死で押しとどめていた辛さと悲しみが、遂に勢い良く
流れ込んでくる。何もかもが崩れて何もかもが悲しく染まって

「う…うぅ……!!」

 ベッド上の彼女の顔はテリーが知っているユナの寝顔そのものだった。
長い睫毛が小刻みに揺れていて、どことなく微笑んでいるようなその寝顔…
ぼやける視界のまま彼女を見つめる。
震える指先で彼女の顔をなぞる。
寝息を感じる、暖かい体温も…なのに…

「うわわああああーーーッ!!!」

 嘘だろ…もう…もう目覚めないなんて…嘘…嘘だ…!

 両手で、彼女の肩を掴んで、強引に上半身を揺り起こした。
彼女は瞳を閉じたまま、何の反応も示さない。

「嘘だ!!嘘だッ!!!生きているのに…!!死んだわけじゃないのに…!!」

 眠っているだけなのに、何故…!何故こんなに悲しまなくちゃならないんだ

「ユナ…!!ユナ!!起きろ!!起きろよ!!起きろ!!ユナ…!ユナ!!」

 両肩を力の限り揺さぶる。だが彼女に反応は無かった。

「テ…テリー君!」

 グリークが思わずテリーを止めようとする。
テリーはその手を振り払って再び彼女の肩を揺さぶった…だが、何も起こることはなかった。

「ユナ…!!ユナ起きろ…!!目を…目を覚まして…」

 瞳を閉じたままの彼女に、両肩から手を放して、シーツをきつく握り締めた。

「目を覚ましてくれ………!」

 こんな結末、オレは許さない…認めない…。そうじゃなかったらオレは何のために
今まで生きてきたんだ…!何のために力を欲したんだ…!!
何のために……

「……テリー……」

 な…んのために……オレは……

「……テリー…どうしたんだよ…?」

 ……………っ!!!

「……何かあったのか…?」

 頭の中で繰り返されていた幻覚が目の前で起こっている。
向こうは今まで何をしても起きなかった体を揺り起こして、
テリーの頬に手を伸ばした。

「本当に…どうしたんだよ?テリー…何で泣いてるんだ?」

 手の甲で瞳から溢れる涙をそっと拭った。

「何処か体悪いのか?悪魔との戦いで何処か怪我してたとか?
なぁ、本当に大丈夫か?」

 目を見開いて身動き一つしない彼に心配になったのか声を掛ける。

「ユ…ユナ…ユナ…ちゃん……?」

 細い声にハっとする。
金髪の乱れた女性が床に崩れ落ちていた。
真っ赤な瞳と涙の後…?

「ミレーユさんまで、どうしたんですか?一体何が……」

「嘘…こんなの…夢…?」

「え?」

「ユ、ユナ様……!」

 聞き慣れた声に顔を上げると、そこには久しく見なかった姿。
薄汚れた魔導師のマントに分厚い眼鏡の…

「………っ!グリークさんまで…!ど、どうしたんですかこんな所で…
地上に降りてきても大丈夫なんですか?」

「え…あ、ユ、ユナ様…ほ、本当にユナ様……」

「な、何なんですか皆して、そんなに驚いた顔で…」

 テリーはそのやり取りを尻目に動けないでいた。

起きて、動いて、話して、笑って……

「?テリーまで、もう本当に皆してどうしたんだよ?泣いてちゃ分かんないのにさ」

 困ったように微笑んで、右手で後ろ頭を恥ずかしそうに掻いて。

「おい、テリーってば、な、何か言ってくれよ」

 心配そうな瞳でのぞき込む。ベッドから足を下ろしてユックリと立ち上がる。
そして今度は肩に手を掛けて先ほどと同じように肩を振られる。

「お、おい、どうしたんだよ、金縛りにでもあったみたいに!」

 やっと瞳と瞳がお互いを映し出した。

「おいっ!テリーってば………!」

 夢でも、幻でも、何でも良い………!

「………ユナ……!」

 もう一度声を聞けて、抱き締める事が出来るなら。

「ユナ……!」

 ずっと夢の中で暮らしても今を生きなくてもこいつさえいればそれで…

「テリー…」

「テリー君…」

 やっと落ち着いたミレーユとグリークが顔を見合わせて微笑んだ。

テリーはユナを今までで一番強く抱き締めた。
彼女の温もりが現実の物だと理解するのは余りにも唐突過ぎて。
余りにも自分にとって幸せすぎる事だったから。
何度もユナが目覚める夢を見ていたテリーにとっては尚更
この出来事を信じることが出来なかった。




「カンパーイっ!!」

 グランマーズの腕を振るった料理がテーブルを賑わせていた。
勿論、ユナの大好きなハーブを使った料理だ。
ハーブの良い匂いが空腹を刺激して、その優しい香りは涙腺をも刺激していた。
テーブルに集まった仲間たちは目を真っ赤に腫らしてチャモロなどはまだ
ハンカチを顔に当てている。

理由は……何事も無かったかのように料理を頬張っている少女。

「ユナさん!!本当に…本当にユナさんなんですね!!」

 テーブルを隔てたままチャモロが立ち上がってブンブンと肩を振る。
口の中の物を胃に押し込んだ後、答えた。

「もう、何度も言わせるなよ。決まってるだろー」

 首をブンブンと振ると、今度は隣のミレーユが

「ウフフ、仕方ないわよ、ユナちゃん。本当に私たち皆心配してたんだから」

「そ、そ。オレたち泣き損だったんじゃねえのか本当に」

 一気にアルコールを飲み干して呟くハッサン。

「まぁ、ハッサンたら」

「でも確かにねー、私なんてあんたの為に一生分の涙流しちゃったかもしれないわ」

「オレも、あんなに泣いたのは初めてだよ」

 バーバラにウィル。ユナは眉を下げて申し訳なさそうに頭を掻いた。

「…何だか、皆に悪い事したけど…嬉しいな、そんなに心配してくれてたなんて」

「そーそー、本当に心配したぜーでも多分一番泣いて一番心配してたのは…
お前の未来の夫だろうけどよ」

 視線はユナに向けて、顎でテリーを促す。

「………」

「もースゴカッタのよーテリー。男の人があんなに泣いてる姿初めて見たわ私」

 今度はバーバラ、ニヤニヤした顔で同じように今度は瞳でテリーを促した。

「それだけ、テリーはユナちゃんの事大切に想っていたのよね」

「……ああ…まぁな……」

 テリーは皆のからかう言葉に言い返すこともせず、素直に頷いた。
そして隣で至福の表情でスープを飲んでいるユナの横顔を見る。そして一息、安堵のため息をついた。

「…何だか、調子狂うな…」

「…そ、そうね……」

 バーバラも同じように相づちをうった。
真っ赤になって赤面して言い返す彼の姿を思い浮かべて、怪訝な表情で顔を見合わせる。
ミレーユは二人のやり取りとテリーの緩んだ顔を見て、微笑んでしまっていた。

「ホントにテリーはユナちゃんの事心配してたんですもの、こうやってユナちゃんが元気で
本当に良かった……」

「…テリー……ゴメン…色々心配かけて……」

「……ああ、死ぬほど心配した」

「う…ホントにゴメン!…オレなんていったら良いのか…どうやって償っていいのか…」

「そう思ってるんなら、もう例えどんな事があっても自分の身を危険に晒すような
真似はするな、そんな呪文も使うな!……それがオレの為だって言うなら尚更な」

「うん、分かった。もうそんな事しないよ!」

「本当だろうな?」

「うん!約束するよ」

「……何だか、入れないわね」

「……だな」

 恋人たちの仲睦まじい姿を見て、バーバラとハッサンは呟いた。




「おおっ、皆さん、楽しんでおられますかな?」

 テーブルの料理が半分くらいに減った所で奥の部屋のドアが開いた。
薄汚れたローブに眼鏡の老人、グリークだ。

「グリークさん」

 ユナが手を振ると、向こうも手を振って笑ってくれた。

「それにしても…今回の件グリークさんの取り越し苦労だったんじゃないの?」

「そりゃ言えてるかもなぁ、何百年経っても目覚めないらしいユナがたった一週間で
目を覚ますなんて」

 またもやバーバラとハッサンが同じように呟いた。

「ふぉっ、ふぉっ!良いことではありませんか!」

 高笑いをしてユナとテリー、二人の姿に目をやった。
自然と笑みが零れてくる。本当に…良かった……何百年先に目覚めるか…
いや、目覚めるかどうかさえ危うかったユナ様が、こうやって目覚めて、
テリー君と時間を共にしている。
本当に心から安堵した。

「それにしても…ユナ様、貴方はあの時確かにマダンテを詠唱されたのでしょう?」

 食べ物を頬張ったまま頷く。

「それに首にはまだマダンテの呪いのアザが残っているようだし…確かにユナ様の魔法力は
カラッポだったはずですが……不思議な事もあるもんですな」

「テリーが余りに可哀相だったんで神様が奇跡を起こして無理矢理
ユナを目覚めさせたんじゃないのかー?」

「そーれはあり得るかもねー!それにしてもハッサン案外ロマンチストなのねー
奇跡なんて」

 奇跡……。
グリークはその言葉に反応して、再びユナに目を向けた。
ユナが目覚めた事で皆の心の余裕は手一杯で。
一番ユナに伝えなければいけないことが…

「でもさぁ、ずーっと眠るはずだったなんて…今思うとすっごく怖いよなー。
だってさ、目、覚めたら誰も居ないわけだろ?それってスッゴク悲しかったと思うよ」

 皆はまた胸が痛む。そしてここに今ユナがいる事を感じて、安堵した。
テリーもユナの動く様子を見ながら、今幸せを噛み締める。
あの悪夢が夢だったかのようで、それとも今この瞬間が夢なのか。

「良かったわね、ユナちゃん、ホントに…」

「うん…うん…!」

 いつの間にか涙目の先ほどまで笑顔だったバーバラも涙をボロボロ零している。

「あーまた泣くー!オレはこうやって起きてるんだから。もう泣かないでくれよ」

「うっ…ぶふっ…!」

 チャモロも口に手を当ててむせび泣いている。

「あーもうっ、オレは大丈夫だって言ってるのに…」

 元気な姿を見せてもまだ涙目の皆に何を言ったら良いのか迷ってしまった。
そんな時、ハっと思い出したように
首に掛けていたネックレスを外して服の外に取り出した。

「そうだっ、バーバラこれ…ありがとう」

 ウィルから差し出されたハンカチで涙を拭くと、やっとユナを普通の視界で見た。

「え?何?」

 鼻声と真っ赤な目のまま彼女の手の上の物を見る。

「あ、コレ…そう言えばユナに貸してたのよね」

「うん、大事な物なんだろ?」

 ユナの白い肌に映えた真っ赤に燃える真紅の宝石。
何気なしに目をやったグリークは思わず我が目を疑った。

「そっ、それは…!」

 慌ててユナの元に駆け寄る。

「これ…バーバラからお守りにって渡された物だけど…」

 老人の行動に面食らった赤毛の少女もコクコクと頷く。

「ええ、私が小さい頃にお母様から受け継いだ宝石よ。
代々カルベローナに伝わる家宝らしくって…お守り代わりにして
小さい頃から持ってますけど…」

「あの…バーバラさん、ちょっと、見せて頂いても宜しいでしょうか?」

 バーバラが再び頷くと待ちきれないのか震える手でそれを受け取り
懐から取り出したレンズのような物でじっと宝石を見つめた。

「これは……」

「これが何か?」

 持ち主のバーバラでさえ怪訝な顔。いつのまにか皆もグリークの不審な行動に
気付いて見守っていた。

「バーバラさん、貴方は先の魔王デスタムーアと戦った時にマダンテを解き放ったと
おっしゃっていましたよね?」

「え、ええ。確かに唱えましたけど」

「その時もこのお守りをもっていたんですよね?」

「ハイ、肌身離さず…」

 その答えにふむ…と頷く。

「そうか…これが…これのおかげで…」

「あの、グリークさん、どうかなされたんですか?」

 ずっと見守っていた皆だったがたまらずミレーユが声を掛けた。
グリークはハっと我に返って周りを見渡し、コホンと咳払いをして
その宝石をバーバラに返した。

「スイマセン、ちょっと取り乱してしまったようで…実は、そのバーバラ様が
持っている宝石は、非常に珍しくて貴重な物でしてな
私たち天空人の間では魔力の源になる石…魔原石と呼ばれている物なんです」

「ま…げんせき…?」

 コクリと頷く。

「その石は非常に強い魔力を持っている石でして…常に持っている術者に
魔力を分け与えてくれるらしいのです。月の光を数万年浴びた石が魔原石になると
聞いた事があるのですが、その魔力は計り知れない物だと」

「………まさか、グリークさん」

「ええ、ミレーユさんのお察しの通りです。推測でしか物は言えないのですが…
もしかすると…ユナ様が一週間で目覚めたのはその、石のチカラなのではないかと」

「………っ!」

 皆が一様に反応した。今まで無関心に聞いていたテリーも目を見開いて驚いた。

「マダンテを使った際、ユナ様の魔法力は生命活動を一時停止するまでに奪われる………はずであった。
がしかし、その石がマダンテのチカラに呼応してもの凄い魔力を解き放った。
それが幸いしてユナ様は魔法力を少しでも残せる事が出来た、と。私は思うのですが」

 皆の反応を見るために一区切りする。理解した顔を見て再び話し出した。

「常に魔力を放つ石が先ほど触れた時は魔力を放っていなかった…これは
マダンテの時に最大限に魔力を放出したせいだと思います」

「それは…オレも何だかそう思うかも…」

 ポソリとユナが呟いた。

「マダンテを使った時、何か別のオレとは違う暖かい魔力を感じたんだ。
無我夢中だったからその時は何も気にしなかったけど…今思うと…」

 視線をバーバラの手の平へと向けた。持ち主もへぇーっと感心してしまった。

「そうなの…この石にそんな力が…!」

「バーバラ、有難う、お前のおかげでオレ…ここに居ることが出来るんだ…
ホントに、その石を持ってなかったらオレ、ずっと眠り続けていたかもしれないんだよな
それにそんな大切な物オレに貸してくれて……」

「そんな!お礼なんて…!私はただ石を貸しただけだし、ユナがホントに頑張ったから
だからユナがここに居るんだよ!」

「そうだぜっ、その石がお前の命を救ったかもしれないけど、オレたちやほれ、そこにいる
未来の旦那や、お前の頑張りがあったからこそ、お前は今生きてるんだからよ」

 他の三人も同様に頷いた。恥ずかしそうに頭を掻いて、隣のテリーを見ると
向こうも皆と同じように頷いた後、その手でぽんぽんと優しくユナの頭を叩いた。
再びえへへと恥ずかしそうに笑うと、照れ隠しなのか再びナイフとフォークを持って
料理に手を付けた。






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