▼ED〜 それから...
「おはよっ」 …朝一番、テリーは誰かの声で目が覚めた。 木々の間から差し込んでくる朝日に目を細めつつ起きあがる。 テリーは挨拶を返す事無く 「今日はやけに早いな。どうしたんだ?」 そう尋ねる。声を掛けた少女は笑顔で 「だって、今日はすっごい天気良くて空も綺麗なんだぜ!寝坊なんてしちゃもったいないし」 澄み渡った朝の空を見ながら答えた。 起き抜けに弾んだその声を聞いても不機嫌になる事もなく、逆に心地よさすら感じてしまう。 テリーはゆっくりと立ち上がって 「今日は日が沈む前には港に着きたい。ノロノロしてるとおいてくからそのつもりで歩けよ」 「うん!」 多少きつい感の有る言い回しだが、少女はまた笑顔で返した。 テリーとのやり取り、テリーと過ごす朝。 そんな一瞬一瞬が、彼女にはなにより幸福な時間だった。 テリーの宣言した通り、その日の夕刻に港町に着いた。 グレイス城からまっすぐ南に歩いた港町は露店も人々の往来もなく閑散としていたが 商船や定期船が行き来する港は案外賑わっていた。 3日に一度しか出ないという、ガンディーノ行きの定期船が運良く停泊していて 二人は買い物もそこそこに大慌てで船に乗り込んだ。 「うわぁ…ガンディーノまで2週間もかかるのか…」 船に乗ってはみたものの、距離の現実を突きつけられゲンナリしてしまった。 反対にテリーは平然として 「ああ。ここへ来る時もそれくらいかかったからな」 「ルーラで飛んじゃまずいかな」 「まずいな」 キッパリ言い放つ。あまりに早い返答にうっと口ごもってしまった。 「おまえのルーラはどこへ行くか分からない上に、着地も、魔力放出の量も不安定だろ。 危険な目に遭ってまで急ぐ旅でも無いんだ」 急ぐ旅でも無い。その言葉に、はっとした。 そうだ時間はたっぷりある。二人で旅をしていた昔と同じように過ごせれば良い。 なにより、テリーが側に居るじゃないか。 「…そうだな、船旅もなかなか楽しいかもな」 ゲンナリした顔とは打って変わってニコニコ顔で甲板に群がるカモメに手を差し出す。 そんなニコニコ顔がまたゲンナリした顔に戻るのは 船が動き出してから数刻後の事だった。 「…ユナ」 時化で揺れる船内。寝床になっている倉庫の扉を開ける。 ランタンで中を照らすと 「……眠ったのか…」 久々の船旅のせいか、先ほどまで船酔いでそこら中を苦しみ悶えていた少女は 部屋の隅で毛布にくるまって眠っていた。 「………せっかく薬をもらってきてやったのに」 テリーは不要になってしまった鎮静剤をポケットに押し込んで 少女の側に座り込んだ。 ランタンで照らすと、気持ちよさそうな寝顔。 「…相変わらずだな…」 自分で言ったその言葉は、テリーの胸のどこかをなぜか一瞬締め付けた。 「………」 何も 変わってない。相変わらずの少女。 顔も、口調も、笑顔も、自分に対する接し方も、そのままで。 そんな彼女と接する時間が何より貴重に思えて 一緒にいると胸が痛くなるぐらい心地が良かった。 「……ユナ……」 ずっと心にあって、口に出来なかった名前。 そっと額に手を伸ばす、少しだけ汗が滲んでいた。 ほんの数日前まで、彼女は居なかった。 0に近い可能性を信じてグレイス城まで赴いて 敵うはずの無いアクマを相手に戦って…… 「夢……」 ポツリと言葉が口から漏れた。 そう、なにもかも夢みたいだ。再び出会えて、触れ合う事が出来て そして今、目の前に居る事も……。 船が揺れて、ランタンの炎が一瞬揺らぐ。ふっとユナの姿が暗闇に紛れて消えたように 錯覚した。慌ててユナの手を掴む。暖かい体温に心底安心した。 夢なんかじゃない、こいつは確かに今ここに居る。 「ユナ……」 名前を呼ぶ度に体中に響く胸の痛み。 もう二度と失いたくない-------------
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