▼余韻...


 心地良いシーツに包まれながらユナは目が覚めた。
小さなベッドで寄り添いながらながら眠っていたのは、テリー。
スースーと穏やかな寝息を立てている。
ユナは半分眠っている頭で状況を理解すると、慌ててテリーに背を向けた。

そうだ、昨日の夜、テリーと・・・

やけにリアルな映像が頭に蘇る。

嘘だろ、ホントに、オレなんかがテリーと・・・

そう思い返すと、体が再び熱を持ってくる。

「ユナ」

「・・・・・・っ!」

 思い切り虚を突かれて振り向いた。目覚めたテリーが怪訝に手を差し出す。

「やけに体が熱いが・・・・・・熱でも有るのか?」

 そう言って、体に触れようとして

「いやっ!大丈夫!大丈夫だよ、そんなんじゃなくて・・・うわあっ!」

 慌てふためくユナはシーツを道連れにしてベッドから転げ落ちた。
シーツにくるまれながら藻掻くユナに呆れて

「朝から騒がしいな」

 といいつつどことなく楽しそうな顔。
脱ぎ散らかされた下着と、黒いアンダーシャツを手に取った。
シーツから顔だけすっぽり出せたユナは、ポーっと赤面してテリーを見つめていた。

「・・・なんだ?」

「あっ、いやっ、ご、ごめん・・・!なっなんでもないんだ・・・」

 鋭いアメジスト目が合って心臓が飛び跳ねる。

「オッオレも服着なきゃ・・・」

 それを口実に慌てて視線を外す。ベッドの上の白いショーツに目が行くと
昨日の事が一気に思い出されてきて、顔も体ももっと熱くなる。
赤面して藻掻いているユナを見て、テリーがまた呆れたよう笑う。
というか、今度は吹き出した。

「バカ」

「うん・・・」

 笑われていると言うのに、ユナは赤い顔のまま頷いた。
もつれたシーツから手足も出せず相変わらず滑稽な姿で

「なぁ・・・テリー・・・」

「・・・?なんだ?」

 ユナは、やっとまともに目を合わせてくれる。右目は少し腫れていたが、昨日ほどでは無く
テリーは少し安心した。

「昨日の事は・・・夢じゃないんだよな・・・?」

 頑張って目をそらさないまま そう尋ねる。テリーの頬が少しだけ赤く染まった気がした。

「・・・ああ・・・」

 それを聞いて胸が熱くなる。気持ちを落ち着かせるためにユナはゆっくり息を吐いて

「・・・良かった・・・その・・・昨日は・・・有り難う・・・」

 避けていた話題だったが、ユナはどうしてもそれだけは言いたかった。
言った途端、満足して現実を受け止めて、気恥ずかしさが少しだけ消える。
テリーはユナと同じ目線に腰を落とした。

「礼なんて・・・いらない・・・。オレも・・・ずっとお前を抱きたかったから・・・」

「・・・・・・っ」

 その一語一句がユナの心を焚き付ける。
見つめる先の想い人は、自分をからかっているわけでも嘘をついている瞳でも無い。

「テリー・・・」

 じわりと瞳に何かが滲む。

「オレ・・・ホントにオレなんかで良いのか?だってテリーは・・・」

「お前・・・ズルいな」

「えっ?」

「オレに言わせようとしてるんだろ?」

 指でユナの頬のラインを確かめる。

「えっ、いや、なに、を?」

 完全なる無自覚。テリーは息をついてユナの続く言葉を唇で塞いだ。

「---------っ」

 放心しているユナを置いて立ち上がると

「オレが・・・好きなのは・・・その・・・お前なんだ。他の、誰でも無い。だから、もう
そんな事、言うな」

 途切れ途切れにそう伝える。
最後に、もう言わないからな、と小さく呟くと足早に部屋から出て行った。

「・・・・・・・・・」

 まだユナは涙ぐんだ瞳をどうにも出来ないまま放心していた。
勿体ない台詞。
昨日の事もさっきの事も、優しすぎるテリーも、未だに信じられない。

「テリー・・・・・・」

 真っ赤な顔で呟く。
ユナは体に巻き付いたシーツも直せずにその場からしばらく動けないでいた。





それから数刻して一階へ続く階段を下りた。
こぢんまりとした食堂だったがテーブルとイスが規則正しく並んでいて
出発する旅人たちで賑わっている。
そんな中目立つテリーはすぐに目についた。

「遅かったな」

 同じテーブルにつくなり、そう声を掛けられる。

「ご、ごめん、準備に手間取っちゃってさ…」

 まさか、あの後で放心してたなんて言えない。
赤面しているユナに不思議な視線を向けて、朝食のパンを口に放り込んだ。





「テリー、これからどうする?」

 ビビアンたちに挨拶を済ませた後、なんとなく歩いているテリーにそう尋ねる。

「そうだな・・・どうするか・・・」

 サンマリーノの中心にある噴水広場、それを囲むように設置されたベンチに腰掛け
テリーは腕を組んだ。ユナも遠慮がちに隣に座る。

「ここからなら昨日お前が言っていたアークボルトが一番近い。南に行けばホルストック。
北西にゲント神殿。西にはレイドックにムドーの島っていうのもあるな」

 頭の中に地図を広げ すらすらと海路を上げる。ユナは首を傾げた。

「ムドーの島?そんな所に行って何か有るのか?もうお宝は荒らされちゃってるだろうし
大体船なんて出てないんじゃ」

 テリーは ああ と一人納得して

「そう言えばお前は知らなかったな。ムドーの島から有用な資源が発掘されて
炭鉱で賑わってる。人も多く住み着いて、発展途上だが町が出来てるんだ」

「ええっ、あんな所に町出来てるのか?」

「ああ・・・炭鉱もさる事ながら元・魔王の島って事で観光名所にもなってる。
のど元過ぎれば熱さ忘れるって言うが・・・本当に人間ってのは都合良く出来てるもんだな」

 相変わらず毒づいた。ユナは目を輝かせて

「おっオレも行ってみたい!炭鉱とか行った事無いし・・・発展途上の町とか
すっごい気になるじゃないか!」

「・・・お前・・・オレが言った側から」

「だ、だって・・・や、やっぱり人ってそんなもんだろ・・・」

 気付いてユナが恥ずかしそうに頭を掻いた。

「それに・・・行った事の無いところ・・・行ってみたいんだ。知らない所回って
世界中を旅して、色んな景色や色んな人、色んな物が見たい・・・
テリーと一緒に・・・」

 うっかり出てしまった本音に、ユナは赤い顔で首を振った。

「だって、ほら!確かに今まで色んな所旅してきたけど
今のテリーと一緒なら、見てる景色も変わるんじゃないかって
気持ちの問題っていうか、すごく楽しく旅が出来ると思うんだ!」

「そうだな・・・」

 もどかしいユナの言葉にテリーも頷いてくれる。
テリーもその言葉の深い意味を感じて昔の自分を思い出す。
たしかに子供の頃ガンディーノを出てからずっと今まで世界中を旅してきた。
一人で旅をした世界は虚しくて寂しくて壮大な景色を見る暇も、感銘を受ける心も無かった。
でも今なら
ユナと一緒なら立ち止まって景色を見る事も出来るかもしれない。
色を持った世界を綺麗だと思える事が出来るかもしれない。

見上げた空は何処までも青い。

「悪くない」

 テリーはそう言ってくれた。
呆れながら笑う姿が、本当に嬉しくて、ユナは隣で見つめたまま立ち上がれないで居た。

夢みたい・・・。
月並みの言葉だが、その言葉がしっくりくる。
決して自分の想いは届かないと思っていた、もう二度とこの世界に戻ってこれないと思っていた。

昨日の夜の事、今朝の事、今のテリー。
その全てがユナにとって夢のように思えた。
幸せ過ぎて、怖い。夢なら二度と覚めないで欲しい。

ユナの思考を遮るよう朝の時間を知らせる噴水が広場を潤した。
それをキッカケにユナは考える事をやめる。
気持ちいい水しぶきと緩やかな日差しが心地よくて
二人は何も言うことなくベンチに身を寄せていた。


そんな穏やかな時間が予想外の人物で壊されるのはまもなくの事。

「衛兵さん!!衛兵さん!!この人!!この人で間違いねえでゲス!!」

「---------!?」

 幸せな時間を過ごしていた二人の目の前に、幸せとはほど遠い真っ赤に目を血走らせた男が
現れた。男はユナを睨み付け、震える指を突きつける。

「・・・・・・知り合いか?」

「そっ、そんなわけないだろ!」

 冷静なテリーに冷静じゃないツッコミ。男が手招きした先から鋼の鎧を着込んだ男たちが
数人現れた。持っていた盾には”自警団”の文字。

「・・・間違い無い。ご苦労だった」

 自警団の一人が何かの紙を見ながら男に促す。

「時期に城へ通達してやる。認められ次第懸賞金をとらせるからな。
一週間後にまた自警団の詰め所に来い」

 男は満足そうに両手を擦り合わせた。

「えっへっへ、一週間後と言わず明日から毎日通うでゲス!あっしの顔忘れないで下さいよ!」

 そう言うと男は自警団数人に深々と頭を下げて去っていった。
懸賞金・・・?
状況が全く理解出来ないまま、ユナは固まっていた。
間違い無く人違いだ。自分は懸賞金をかけられるような事はしていない。するはずがない。
が、ひとつ思い当たる事があるとすればガンディーノでの一件だったが・・・

「ユナ。だな」

 人違いとは思いたかったが、自分の名前を呼ばれて願いが崩壊する。
自警団は持っていた紙を突きつける。それは、あくどい盗賊や山賊の賞金首を知らせる
ポスターと同じ物。というか、そのものだった。
そこにはあくどい山賊の代わりにユナの顔が描かれている。誰が描いたものであろうか
その顔は自分と酷似していた。

「あの・・・まさか、ガンディーノの件で・・・」

 黙っていれば良かったのであろうが、つい言葉が零れる。
衛兵は怪訝な顔をして首を振った。

「何のことだ?お前の捜索命令はガンディーノではなく、レイドックからの物だ。
今から至急レイドックへと向かってもらう」

「・・・人違いじゃないか?」

 涙目で固まるユナに変わって、テリーが立ち上がった。

「レイドックといえば、知り合いの居る所だ。感謝される事はあっても、こんな形で
連れて行かれる筋合いなんてない」

「・・・しかし、ユナと言う人物に懸賞金が掛けられているのは事実だ。
たとえ他人のそら似であったとしても
見つけてしまった以上はレイドックへ連行する義務がある」

「義務・・・?たかがそんな事で、こいつを渡すわけにはいかないな」

 テリーの空気が変わる。ユナは、ようやく我に返って立ち上がった。

「テリーなにする気だよ!オレなら大丈夫だから・・・!それに・・・レイドックには
ウィルが居るだろ!事情を話せば絶対分かってもらえるって」

 衛兵とテリーの間に割って入る。

「・・・・・・なっ?」

「・・・・・・」

 テリーは衛兵から鋭い視線を離さないまま、剣の柄から手を離した。

「・・・分かった・・・その代わり、オレも一緒にレイドックへ行く。良いな?」

 ユナと衛兵どちらにも言った言葉なのだろう
ユナは勿論頷いて、衛兵も渋々ながら頷いた。

「何かあったら、容赦無く剣を抜く」

 テリーの言葉に空気がますます張り詰めた物に変わっていった。
二人は数人の衛兵に連行されて、詰め所に居た衛兵長と共にルーラでレイドックに
向かう事になった。

この顔にピンときたらレイドックへお連れ下さい★

その文章の意味を何も知らずに。




「兵士長!お連れしました!」

「うむ。ご苦労」

 早速向かったのはレイドックの詰め所。
たかが賞金首を兵士長に受け渡す事など滅多に無い事だったのだが
今回に限っては勝手が違っていた。
その意味に気付いたのは顔見知りである兵士長の表情を目にしてから。

「おおっ!本当にユナさんではないですか!それに、テリーさんもご一緒で・・・!!」

 テリーの言動でビリッビリに張り詰めていた空気が一気に和む。
和みすぎて時間すら止まったように感じた。

「へ、兵士長・・・この賞金首と知り合いで・・・」

 ようやくサンマリーノの衛兵長が尋ねた。兵士長は頷いて

「かけがえのない友人で、そして恩人だよ」

 状況が掴めないっぱなしのユナに目を向けて

「密かに貴公を捜索してはおりましたものの、さすがに限度が有りまして。この度
民衆の助けを借りるに至ったのです。貴公を驚かせてしまった事、深くお詫びしたい--------」

 左腕を胸の前に掲げると一国の兵士長は深々と頭を下げた。
その真摯な態度にユナは慌てて手を振って、ようやくテリーの怒りも静まった。




「失礼致します、王子」

 兵士長は二人を連れて細かい装飾が施された扉を開いた。

「トム!ユナ、見つかったんだって!」

 中を確認する間もなく、開くと同時に見慣れた人影が飛び込んでくる。

「まさかポスターを貼って数日で見つかるとは思わなかったよ
さすがだな」

「はっ、面目ないです」

「ははっ何も兵士たちを責めてるわけじゃないよ」

 見慣れた人影はトム兵士長を労うとこちらに目を向けた。

「報告を聞いた時は耳を疑ったよ!ユナ!本当に、帰ってこれたんだな!」

「ウィル!久しぶ・・・」

「手荒な手段で連れてきたにしては、随分と軽い出迎えだな」

「テリー!やっぱり君も一緒だったのか」

 フン。顔を背ける。ウィルはユナとの再会を十分に喜んで

「今回の事は悪かったよ・・・。穏やかな方法じゃないとは思ってたけど・・・」

「全くだ」

 非を責める時だけテリーはウィルの言葉に反応した。衛兵長から取り上げた
賞金首のポスターを突きつけ

「この文章、お前が考えたものじゃ無いな?差し金はあの女か?」

 ウィルは頭を掻いて息をついた。ユナもポスターを受け取って慌てて文面を見る。

”この顔にピンと来たらレイドックへお連れ下さい★
お礼金として5000ゴールド差し上げます”

「・・・・・・」

 ★マークが軽い文面を更に軽く見せていた。なんとなく、なんとなくだが知った顔が
脳裏に思い出されてきて、ユナもウィルの言葉を待った。

「頼むからそんなに怒らないでくれよ?バーバラもバーバラなりに君を助けたくて
やった事なんだ。自分が復活した事と同じように、ユナの復活を信じてね」

「・・・やはりあの女か。余計な世話だ」

「・・・っバーバラ!バーバラが居るのか!ここに!」

 それぞれの反応。ウィルはテリーに苦笑いを返して、ユナの問いに答えた。

「ああ、半年くらい前になるかな・・・。その・・・色々あって、こっちに戻れるようになったんだ・・・
それから、ずっと一緒に暮らしてる・・・」

「へ〜へ〜良かったな〜ウィル〜!」

 恥ずかしそうに経緯を辿るウィルをツンツン肘で突く。ユナはバーバラの笑顔を思いだして
顔がほころんだ。

「でも良かった・・・バーバラ本当にこっちに戻れたんだ・・・確か、こっちの世界に体が
封印されてるとか言ってたけど、無事に戻れたんだ・・・。
ウィル、有り難う、バーバラを助けてくれて」

「ああ・・・本当に色々あったけど・・・今は幸せだよ」

「おっ けっこう言うじゃないか!ほんと良かったよな〜!」

 白い歯を見せて更に強くウィルを小突いた。

「そういうユナこそ、良かったじゃないか。テリーのお陰なんだろ?」

「えっ、いや・・・その・・・」

 自分の事となると途端に弱くなる。そんな時、ちょうどいいタイミングで
ドアをノックする音が聞こえた。

「来たな。ユナ、オレ以上に追求されると思うけど覚悟してろよ」

「?」

 ドアを開くより先に待ちきれないのか廊下側からドアを開け、一人の大男が飛び込んできた。
それは忘れるはずもない姿。

「ユナッ!!」

「ユナちゃん!」

 大男と、その影に隠れた金髪の美女。

「ハッサン!ミレーユさんも!」

 大男はその風貌にも関わらず、ユナを見つめるとボロボロ涙をこぼした。

「ハッサン・・・?」

「うおっ!すまん!目にゴミが入った!!」

 ハッサンは天を仰ぎ、ゴシゴシ目を擦る。ミレーユは気付かれないようそっとハンカチを
渡してユナを見つめた。

「ユナちゃん、お帰りなさい。テリーも、良くユナちゃんをここへ戻らせてくれたわ」

「オレは・・・別に・・・」

 ハンカチで慌てて涙をぬぐったハッサンはテリーと肩を組んで

「照れるな照れるな〜お前しかいねえじゃね〜か!あの日の約束、しっかり
果たしてくれたんだな」

 あの日の約束。とは魔王が倒れた後、サンマリーノの酒場で一方的に押しつけられた
約束だ。
死んだ妹の分までユナを幸せにしてくれ と。
こんなハッサンの言葉をなぜか覚えている自分が恨めしい。

「別にお前の約束を果たしたつもりはない」

「はっは。まぁそりゃそうか。お前は自分自身のために、ユナを生き返らせたんだからな!」

 バンバンと敬意を込めてテリーの肩を叩く。
ユナが消えたレイドックでの宴の日。その事を皆は思い出していた。

「グランマーズの婆さんから事の全てを聞いた時には本当びびったぜ・・・。オレたちは、お前も
バーバラも残れるものだと思ってたのに二人とも消えちまって・・・。
肉体は滅んでいないバーバラはともかく、お前は肉体も滅んでしまってもう二度とこっちには
戻れないって聞いたから・・・なんてか・・・ほんと・・・」

 またハッサンは涙ぐんで、それを耐えるため言葉を押し殺した。

「・・・でも良かった。まさかまたこうしてユナと向かい合えるなんて思わなかった。
テリー、君には本当に感謝してるよ」

「・・・別に・・・」

「それにしても、どうやってユナを生き返らせる事が出来たんだ?オレもさんざん文献を
漁ったけど復活術の成功例なんて聞いた事が無い」

「・・・ダークドレアム」

 ミレーユの桜色の唇には似合わないアクマの名前。
聞き覚えのある言葉にウィルはハっとした。

「ダークドレアムに頼んだんでしょ?そうとしか考えられないもの」

「まさか・・・本当かミレーユ、テリー!願いを叶える危険なアクマ・・・!そいつと
対峙して無事だったなんて・・・」

「・・・さあな」

 聞かれたくない質問、答えたくない質問ばかりでうんざりする。

「それより・・・姉さんはどうしてこんなところに?」

 話題を変えようとテリーは話を振った。

1年振りの再会はまさに尽きることがなかった。
ミレーユはレイドックで占いの店をやっているとか。
それが女の子の間で大流行して、占い目当ての客とミレーユ目当ての男性客で
いつも行列が出来てるんだとか。
ハッサンは大工見習いになって、レイドックで働いてるとか。
楽しそうに視線を合わせるハッサンとミレーユが良い雰囲気に見えて
ユナは顔をほころばせた。隣のテリーは終始むすっとした顔で聞いていたが。

そして、ウィルは少し前にバーバラと婚約して、
バーバラは今レイドック縁者の挨拶回りに出かけているとか--------





 久々の仲間と再会の宴を堪能して、湯浴みの世話までしてもらった後
テリーは与えられた客室で本を読みながらしきりにドアを気にしていた。
メイドの持ってきてくれた紅茶に口を付ける事もせず
だんだんと更けていく窓の外を見ては落ち着かない気持ちになる。

「・・・・・・」

 本をテーブルへと投げ出して、テリーはベッドに仰向けになった。

今日の朝も、いつも通り平然としていたが内心・・・平常じゃなかった。
ただそうでもしないと耐えられそうになかっただけで。

「・・・・・・」

目を伏せて思考を巡らせると、ますます体が疼く。
必死にそれを制しようとすると、コンコンとドアをノックする音が耳に飛び込んできた。
気配を探る間もなく、飛び起きてドアを開ける。

そこに居たのはテリーが待ち望んでいた来客では無かった。

「飲んでるかーーー!」

「・・・・・・・・・」

 言い終わるか終わらない内に思い切りドアを閉める。

「おおい、テリー!なんだよ連れねえなあ、一緒に飲もうぜ!!」

 まだドアの向こうで何か喋っていたが、完全にそれを無視してベッドに戻った。
少しドアを開けただけでも酒臭い息が部屋に漂っている。
欲求が苛つきにすり替わったのだけは有り難かったが。

ベッドに横になろうとすると、またもドアをノックする音。
・・・またハッサンだろう。
と、無視を決め込んだテリーに待ち望んでいた声が聞こえてきた。

「テリー・・・?もう寝てるのか?」

「・・・・・・っ」

 苛々が再び欲求へとすり替わった。





「それにしても婚約だって、ビックリだよな〜!」

 テリーと話がしたかったのか、部屋に訪れるとユナは楽しそうに声を弾ませた。

「・・・そうか?」

 少し拍子抜けしたテリーだったが、こんなふうに談笑するのも悪くない。と
珍しく会話を弾ませる。

「そうだよ〜。まさかこんなに早く婚約とか・・・」

「遅かれ早かれ結婚するんだ。早いほうが良いだろ」

「結婚・・・」

 テリーの口から出た単語に言葉が止まる。

「王族はすぐにでも跡継ぎが欲しいからな。早くに越したことはないんだろ」

 どこかバカにしたような口調で続ける。
ユナは耳に入っていないのか、テリーの言葉に返せず一点を見つめる。

「・・・ユナ?」

「うっあっ!いや・・・その・・・何でもないよ!」

 真っ赤に頬を染めて顔を振る。
もしかして、昨日の事を思いだしたのだろうか、そう思うと テリーの体がまた疼き始めた。
禁欲にはなれているはずなのに
昨日の快感は完全にテリーを飲み込んで我慢する事を許さない。
制御など出来るはずもなく

「テリーはさ・・・」

 ユナの言葉を待たずテリーはベッドに押し倒し、深く口づけした。

「・・・・・・・・・っ!」

 せき止められていた性欲が濁流のように押し寄せてくる。
テリーはキスをしたまま部屋着をはぎ取ると濡れた舌を首筋に這わせた。

「・・・っ・・・ちょっと・・・まっ・・・!」

 手で足りないほど大きなユナの胸に顔を寄せ、舌で立ち上がった乳首をいじる。

「ぅ・・・んぁぁ・・・っ!」

 こんなにも性欲が溜まっていたのかと思わせるほど、テリーは速いペースで
事を進めた。こんなにも我慢が出来ないのは初めてで自分でも驚くほどだった。

器用にするすると下着を脱がせて、陰部に触れるとそこは液であふれかえっていた。
ユナも待っていたのだろうか
たまらず中に指を入れると、昨日以上に滑らかに指をくわえてくれる。

「・・・・・・・・・っ!」

 指の吸い付きはテリーを更に刺激する。
我慢出来なくなり、大きく立ち上がったモノを中に挿入した。

「・・・ぅ・・・あっ!!」

 良くほぐしていないユナの中はまだ緊張していたが、テリーの性欲は止まらない。

「ユ・・・ナ・・・わる・・・い・・・!」

 前戯も無しに入れてしまった事を詫びるが、体は正直で
きついユナの中を半ば強引に開いて最奥まで到達する。

「うぅ・・・あ・・・っく・・・」

 呻くように声をあげるユナ。
性欲に飲まれていたテリーはハっと我に返って

「わっ・・・わるい・・・オレ・・・!」

 硬くなってしまった自分のモノを抜こうとする が、それをユナが止めた。

「・・・ん・・・大丈夫・・・・・・」

 瞳に涙を浮かべてテリーの腕を引き留めて

「大丈夫だから・・・続けて・・・欲しい・・・・・・」

 苦痛を隠してそう懇願した。

「・・・い、言っただろ・・・。オレは・・・テリーに抱いてもらえるのが・・・本当に
嬉しいから・・・好きなようにしてくれって・・・だから・・・」

「ユナ・・・」

「・・・テリーにだったら何されても良いんだ・・・」

「・・・・・・っ」

 反則だ。こんな事を言われて止められる男なんて居ない---------

「ふっ、うっ、ああっ、んんっあっテリー・・・っ!」

 もしかしたらユナは気遣って声を上げているのかもしれない。
そんな事も考えられないまま、テリーは抜き差しを繰り返した。

「ユナ・・・ユナ・・・!」

 大きな胸を無造作に掴んでテリーは奥の奥まで突き上げる。

「テ・・・リィ・・・テリー・・・っひゃっあっあっ・・・!!」

 涙を流しながら喘ぐ。痛いのか苦しいのか気持ちいいのか
テリーはそらすら考えられなかった。
ただユナが愛しくて、ユナを抱きたくて、ユナから愛されていると心底実感して
その満足感が渇いた心を驚くほど満たしてくれた。


 そんな甘い夜を幾度も過ごした頃  事件は起きた-------。



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