▼海の魔王 グラコス...


「晴れてる日の海って良いよな・・・」

「ええ、それはそうですよ。大時化になるともう、私は気分が悪くて悪くて・・・」

 ユナとチャモロは甲板に立って海を見ていた。
穏やかな青い海をゲントの船が横切っていく。
気持ちいい潮風を浴びながらユナはしみじみ旅を振り返っていた。

空飛ぶベッドを手に入れた後、次は確かフォーンの城に行ったんだっけ?
カガミ姫を助け出すのってスッゴイ大変だったんだよなぁ・・・。
でもその後のフォーン王の嬉しそうな顔見たら、何かこっちまで嬉しくなってきちゃったんだよな・・・。
財布の中身を鞄の上からポンポンと確かめて、今度はため息をついた。

カガミ姫を救い出したとき、フォーン王から城中の財宝を差し出された記憶が張りついている。
でも、やっぱりお人好しのウィルはそれを受け取らずに、水門の鍵を貸して貰っただけだったのだ。

「少しだけでももらっとけばよかったのに」

 船の甲板に立って遠くの海を見つめた。
今日の朝まで滞在していた漁村ペスカニが本当に遠くに見える。

人魚ディーネのいた村、ペスカニ。

ロブって漁師がかくまっていた人魚をやっぱりオレたちは
大変な航海をしてはぐれた里に連れて帰ってあげた。
でもそのおかげで、グラコスって魔物の事を知ることが出来たんだ。

グラコス・・・海の魔物・・・。

ペスカニをはじめ、どんな港でもめっきり魚が捕れなくなったり
船の事故が多発するようになってしまった元凶は、この海魔神グラコスのせいであるらしいのだ。
そして、グランマーズの言っていた第三の封印。
グラコスを倒せば、この封印が解かれると言う事も

ポロン・・・ポロロン・・・。

ハープの弦を指で弾きながら、いつも考えてることに行き着いてしまった。

口から、自然とメロディーを持った言葉が流れてくる。
一緒に見張りに出ていたチャモロがユナの歌声に気付いた。

「綺麗な・・・歌ですね」

「人魚のディーネさんから教えて貰ったんだ。人魚の間で長年親しまれてきた歌なんだって」

 ザァ・・・ザァァ・・・
波の音とユナの歌声が軽やかなハーモニーを織りなしていた。




「何の歌だ?バーバラ」

 バーバラの歌に聴き惚れていたのか、歌声が途切れたところでウィルが問いかけた。

「ウィルッ・・・聴いてたの?」

 一人だと思っていたバーバラはかぁっと頬を赤める。

「ディーネさんから教えてもらった歌だよ、いい歌でしょ?なんでも海に伝わる不思議な歌なんだって」

「へぇ・・・」

 バーバラは、ウィルのもっと聴きたそうな顔に恥ずかしいながら再び歌い出す。
美しいメロディーが船内を響き渡る・・・が、その音は次の瞬間かき消された。
ユナが叫びながら階段を転げ落ちてくる音に。

「なんだぁ?ユナ、どうしたんだ?」

 ミレーユから勧めてもらった本を既に枕にしてしまっていたハッサンが不機嫌そうに起きあがった。

はぁはぁ。
呼吸を落ち着かせる間もなく答えようとしたが、酸素不足で言葉が出ない。
あんまり慌てるユナにかわって、冷静なチャモロが答えた。

「取りあえず、甲板に出て下さい!」

 言い終わるか終わらない内にチャモロが階段を駆けだしていた。
ユナがその次に大慌てで駆けていく。
皆は顔を見合わせ、良く分からないまま後を追うことにした。

「何だぁ・・・一体何が・・・」

 一番最後に甲板にたどり着いたウィル。その瞬間、他の仲間達と同様に言葉を失った。

「ディーネはこの船にいるのか?」

 大きな魚・・・?いや、魔物だ。それも見たこともない魔物。
ディーネさんの知り合いか?いや、人魚と知り合いっていう顔じゃない。
それにどうして、こんなに大勢の海の魔物達がオレたちの船に集まって来てるんだ。
その数は・・・ゆうに100を下らない。

「ディーネさんならもう既に人魚の里に送り届けたよーだ!」

 ウィルがそう考えているところで勇敢にバーバラが叫んだ。
神の船を大勢の魔物が取り囲んでいる。
ここで一斉に向かってこられたりしたら・・・ひとたまりもない・・・。

「・・・なによ?どうしたのよ黙りこくっちゃって・・・」

 強気なバーバラの言葉は全く勢いが衰えそうにない。
巨大な尾びれを持った魔物は、次の瞬間信じられない行動に出た。

「う・・・美しい・・・」

「・・・え?」

「はぁ・・・?」

 バーバラの足が宙に曲線を描いた。

「美しい・・・!ディーネがいないのならお前でいい!オレの嫁にしてやろう!」

「はぁ!?」

「ちょっと、ディーネさんの代わりって何なのよ!」

「バーバラ・・・そんな事言ってる場合じゃないだろ・・・」

 ユナの突っ込みを待たないまま、ウィルは背中から剣を引き抜いた。
甲板に浮いてバーバラを抱える魔物に斬りかかる。

キィン!
予想外の鱗の堅さに、思い切り弾かれ、尻餅をついてしまった。

「フッ!知らないようだから教えてやるが、ワシをそこいらの海の魔物と一緒にすると
痛い目に遭うぞい!ワシの名はグラコス!この海を統括する海の大王!」

「・・・・・・グラコス!?」

「まさか・・・封印を魔王から任されてるっていう・・・」

 ここで会った事はただの偶然なのか、それともルビス様のお導きなのか。

「勇者一行はどのみち滅ぼせと言う魔王様の命令だからな。お前等は海の藻屑と消えるが良い!」

 バーバラをしっかと右手に抱え、グラコスは左手で戦いの狼煙を上げた。
一斉に海の魔物の気配が変わる。

「お前がグラコスだなんて、こっちにとっては好都合だぜ!」

 剣を船内に置き忘れてしまったため、タルの中に積んであった剣を取り出してユナが斬りかかる。

「そんななまくら刀でワシの鱗は・・・・・・!」

 青い血が尾びれを伝って海に流れ出した。
主の雄叫びに、周りの魔物達が一斉に悲鳴を上げる。

「ま、まさかそれは・・・炎の剣・・・?」

「炎の剣?」

 手の中の薄汚れた剣。特別なチカラが宿っていそうではない。
現に力任せに振るったせいかもう刃先が欠けている。

「キャー、ユナー!助けてーー!」

 その状況を楽しんでいるかのようなバーバラに、
助ける気が殺がれたのはユナだけではないようだ。

「何故・・・そんな物をお前達が・・・っ!」

「バーバラさんを放せぇっ!」

 グラコスが考えるヒマもなく、キメイラのメッキーが凍える吹雪を吐いた。
魔術師の塔で魔物使いのユナの説得で仲間になった魔物のうちの一匹だ。

「寒いっ・・・寒いよ!メッキー!」

「我慢しろよ!お前を助けるためにやってんだから!」

 言いながら今度はハッサンが思い切り足を後ろに溜めて、熟練された回し蹴りを放った。

「ギャァァッ!!」

 形のいい鼻の先端を、もの凄い勢いで足が通り過ぎる。

「バーバラ、伏せてろぉー!」

 宙にウィルが飛んだ。魔神斬りだ。

「ギャアー!!」

 グラコス、バーバラが同時にそう叫んだ。

魔神斬りは豪快に尾びれに突き刺さる。絶叫を上げてとうとうバーバラを力無く手放した。
グラコスの腕から落下するバーバラ。
慌ててウィルがバーバラを抱き留めようとしたが間に合わずに
海に浮かんでいた魔物が少女を受け止めた。

「良くやった、オクトセントリー!」

 にやにやとした笑いを浮かべてオクトセントリーは魔王グラコスに
バーバラを手渡す。

うえ・・・何でアタシって魔物に好かれる体質なのかな・・・。
自分の運命を呪いながら、とうとう気持ちの悪くなってしまったバーバラは目を伏せた。

「こっのやろ!いい加減あきらめろよ!」

 ユナは両手を天に突き上げ、魔物に向かって叫んだ。
そして空に語りかけるようにブツブツと何かを呟き始めた。

「来いっ!!大津波っ!!!」

 言い終わった瞬間、両手を振り下ろした。
シーン。
微妙な雰囲気に敵味方が一同が沈黙する。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・あれ?」

「・・・・・・・・・」

「あれ、お、おかしいな・・・来い!!大津波!!!」

「もーっ!ユナぁ!何やってんのよぉー!!」

 バーバラはじたばたと両手を振り上げる。

「あれ・・・失敗したのかな・・・はは・・・」

「失敗って・・・そんなぁ・・・」

「どいてて、ユナちゃん!」

 気の抜けた空気がミレーユの登場によって、急にピシっと引き締まったものに変わった。
今度は本物の賢者の登場。
ミレーユのサークレットが赤い光を称える。

おこがましいその光景に、ユナの時とは違って、魔物全員が身構えた。

「・・・ひいきだ・・・」

 ユナの呟き。

「ベギラゴン!!」

 ミレーユが放った光は海に反射して魔物たちに襲いかかった。
声が聞こえる、それは断末魔だった。
光が消える頃にはレベルの低い魔物は姿を消している。
周りを取り囲んでいた魔物はあらかた消えていて、海の地平線が見えてきていた。

「さっすが!大賢者ミレーユ!!」

「ふふ、お褒めの言葉ありがとう」

 穏やかな空気でチャモロとミレーユの会話が始まった。

「あのぉ・・・お取り込み中わるいんだけどさぁ・・・」

 ミレーユのベギラゴンを何とか耐えたグラコスの後ろで呟く声が聞こえた。

「スッゴク危なかったじゃない!もう、アタシのこと殺す気!?」

 ミレーユははっと思い出したのか何度も何度もバーバラに向かって申し訳なさそうに頭を下げた。
そんなにされると帰ってこっちが悪いように思えてくる。
仕方なさそうにバーバラは文句を口の中に押し込んだ。

「どうした?もう終わりか!」

「誰か助けてってばー!」

 もの凄い執念でグラコスはバーバラを放さなかった。

「バーバラァ!!」

 遂にグラコスが海に逃げ帰ろうとしたとき、ウィルが船内から飛び出して斬りかかった。

「うわあっ!!」

 船から身を投げ出したウィルに、グラコスの凍える息が襲いかかる。
手が凍る。長いまつげに氷が積もる。
唯一の攻撃手段の剣が、海へと落下していってしまった。

「くそっ!」

 重力に逆らいきれず、自分の体も落下する・・・。しかし、急に体が静止した。

「メッキー!ホイミン!」

 ウィルの体を支えたのはメッキー、剣を守ったのは新顔のホイミスライムのホイミン。

「ウィル!大丈夫!?」

「ああ、バーバラこそ」

 グラコスを完全に瞳からシャットアウトし、見つめ合う二人。

「・・・お前、もしかしてバーバラちゃんの男か?」

 グラコスが睨みながらウィルにそう言った。

「・・・は?」

 メッキーを掴んでいた手が一瞬にして緩んだ。それを慌ててホイミンが支えてやる。

「そうだよ、だからいい加減バーバラをあきらめろって!」

「ユ・・・ユナっ!?オレは・・・別に・・・」

「ま、ま、そういう事にしておいてもいいんじゃねえ?事実はどうあれ、今はこんな状況なんだし」

 ハッサンとユナは顔を見合わせ、いやらしい笑いを浮かべた。

「くそっ!!お前がバーバラちゃんの男だって!?そうと聞いては生かしてはおけんぞ!」

 バーバラを右腕でしっかりと抱き留めたまま、左手の鋭い爪でウィルに襲いかかってきた。
ウィルもホイミンから受け取った剣を振りかざした。

「バイキルト!!」

 ミレーユの魔力を受けふっと体が軽くなる。そして熱くなった。
振りかざした剣に魔力がこもると、グラコスの左半身を貫いた。

「ギャアーー!!」

 会心の一撃!
バーバラはその隙にウィルの胸に飛び込んだ。
ウィルはバーバラを抱え、船の丈夫な縄に身をよせる。

「よおーし!私も!!」

 チャモロは何を思ったのか船に積んであった樽をグラコスに向かって投げつけた。
残飯と書いてある樽。

「よっ、色男ぉー!」

 ユナの言葉にミレーユが吹き出した。なんとも言えない悪臭が辺りを包む。

「ナーイス、チャモロー!」

 ハッサンがチャモロの細い体に腕を押しつけてグイグイ肘で小突いた。

「僧侶をなめてもらっちゃ困りますよ・・・」

 いつもセットには気を付けている前髪にくっついた魚の骨を払いながら。
しつこい魔物は体を震わせ、怒りを露わにしていた。

「何か・・・可哀相・・・」

 魔物に同情を覚えているのはミレーユ。

「もう・・・もう許さんぞ・・・お前たち・・・!」

 怒りで赤い目がもっと真っ赤に血走っている。
皆はようやくその姿に恐怖を覚えた。グラコスは素早く胸の前で印を結ぶ。

「全て凍れ!凍ってしまうがいい!マヒャド!!」

 船全体を包んでしまうほどの冷たく鋭い吹雪が吹き抜けていく。
・・・・・・が、吹き抜けていくだけだった。

「ゲゲ!マホターン!!」

 ミレーユがにやりと唇を持ち上げる。
吹雪は魔法で出来た膜に反射してグラコスに逆流した。

「イダ!イダダ!!イダイ!こんのぉー!!」

 自分の放った氷と霰に襲われて何度もオビレを振った。
海の魔王は、格好悪い事この上無かった。
トドメはやはり大賢者ミレーユ。赤く燃えた炎が指先から生じる。

「メラミ!!」

 炎に弱い海の魔物。
海の魔王はその炎を浴びた瞬間に断末魔を上げた。

「ちくしょう・・・ちくしょう・・・!こんな事になるんだったら、危険を覚悟で人魚の里を襲えば
良かった・・・!!」

 段々と体が黒く変色していく。

「アタシの事、ディーネさんの代わりにするからよっ!」

 ウィルと共に船の縄に身を寄せているバーバラがベーっと舌を出した。

「・・・・・・く・・・っそう・・・なんて事だ・・・おかげで封印は解かれてしまった・・・魔王・・・さ・・・ま・・・」

 首だけになってもなお喋ろうとするグラコスは、目を剥いたまま黒くなって海に消え去ってしまった。

「うへぇっ」

 ユナが瞳を伏せて露骨に嫌な顔をする。

ウィルとバーバラは縄を伝ってやっと暖かく感じる船内に体を放り出した。
同時に息をついて倒れ込む。

「これで、第三の封印は解かれた・・・ね」

「以外と簡単でしたね」

「運が良かったんじゃねぇかぁ?」

 ミレーユ、チャモロ、ハッサンが先ほどの戦い振りを思い出している。
そうやっていつもの戦闘が終わったかのように皆で話を始めていると、
人より耳が良いと評判のユナが、何かをとらえた。

「・・・あれ?」

「・・・ん?どうした、ユナ?」

 ハッサンの言葉に目を細めて

「いや、何か聞こえるんだよ。ゴゴゴゴって地響きみたいな音が」

「ゴゴゴゴ?地響きって・・・ここは海の上だぜ?」

 ゴゴゴゴ。ハッサンが笑いながら目を向けた先にはゴゴゴゴという音をたてて、船の二倍ほどの高さのグラコスよりも恐ろしいものが襲ってきた。

「ゲェッ!津波だぁっ!何で急に!」

 突然の津波の登場に見張りをしていた船員は腰を抜かし、動ける船員は必死で舵を回している。
ハッサンは、カクカクと口を動かすだけで、ウィルは青い顔で固まっている、
チャモロは神に祈っている。ミレーユは冷静にその状況を理解しようとしている。
バーバラは他の魔物達と一緒にあたふたとその場を駆け回った。

「・・・あ・・・!」

 再び声を発した。

「ど、ど、ど、どうした、ユナ」

 ウィルは冷静さを失わないように落ち着いて問いかけたつもりらしい。

「いっいや、ななんでも・・・」

 言えるわけがない。これがもしかして先ほどオレの失敗した津波かもしれないなんて

「面舵いっぱい!早く!方向転換!!」

「もう間に合わないっスよ!!船、津波に飲み込まれます!」

「なんだって!!避ける術は無いのか!?」

 混乱する船員たち。
大津波はすぐそこだ。舵は効かない、逃げられもしない。
たとえ自分が呼びかけた津波だったとしても、一度動き出した物は止められない。
ユナは心の中で皆に土下座してぎゅっと目を伏せた。

『マーメイドハープじゃ!早く、誰か持っているじゃろう!?』

「・・・・・・っ!?」

 混乱する皆の頭の中に、呼びかける声が聞こえた。
ユナは”マーメイドハープ”と言う言葉に反応して、ちょうどすぐ側に置いてあった竪琴に手を掛けた。

『さぁ!早くそれを奏でるのじゃ!』

 迫り来る大津波にそれどころでは無かったのだが、不思議な迫力に気圧されて指で弦を弾いた。
ポロロンとその場にそぐわない音が響く。

「ワァァァァっ!!もうダメっ!!」

 ハープの音色はバーバラの声にかき消された。
船を飲み込まんと、津波が大きく口を開けた瞬間
船の倍ほどもあろうかと言う波は見えない膜に弾かれ、一瞬にして水しぶきになった。

「・・・・・・あれ・・・?」

「おじい様、先ほどはグラコスと言う海の魔王を倒したのですが、その後津波に飲み込まれて
しまいました。ゲントの神はそんな私をお許しになられるでしょうか、それよりなにより
ゲントの宝、神の船が津波ごときにやられるなどとぉーーー!!!」

「チャモロ、チャモロ」

 呼びかけに不機嫌そうに頭を振る。

「なんですか!?私は死ぬ前には必ずこうやって人生を振り返ってですねぇ・・・あれ?」

 はたはたと周りを見回した。自分の意識で飲み込まれたハズの船は、何事も無かったかのように
揺れている。バーバラはニッコリ笑って、チャモロを立ち上がらせた。

「・・・私たちは・・・確か津波に飲み込まれて・・・」

『マーメイドハープじゃ』

 皆は状況が飲み込めていないまま、自然と頭の中に響いてくる声に耳を傾けた。

『人魚ディーネたちのチカラで船が守られているんじゃよ』

「・・・ここは・・・海の底か・・・?」

 水面の光がかろうじて当たる明るい場所を、船はゆらゆらと進んでいた。
マーメイドハープ。
ディーネさんたち人魚から託された美しい竪琴。
困った事が起きたらこの竪琴を弾くように言われた事を思いだした。
そうか、これはディーネさんたちの力だったのか。

「あなたは・・・一体・・・?」

 ウィルが頭の中の人物に尋ねた。
ふと、人の良さそうな笑い声が聞こえてきた。
口調からいってそう若くはないように感じる、白い髭だって生えていそうだ。

『わしは海の王、ポセイドンじゃ。グラコスを倒してくれて礼を言うぞ』

「・・・!あなたが・・・あの伝説の・・・!」

 ミレーユのその言葉に、再び笑い声が聞こえてきた。

『面目ないわ、魔王に夢の世界を食われて以来、思うように力が出ないんじゃ。
しかし、お主等がグラコスを倒してくれたおかげでようやく少し力が戻ってきた。礼を言うぞ』

 ポセイドンは戻ってきた力を確信して言葉を続けた。

『これで第三の封印は解かれた。夢の世界に有る、魔法都市カルベローナへ向かうが良い』

「・・・カルベローナ・・・!」

 ミレーユとチャモロは同時に反応した。
聞いた事が有る。浮遊島とも言われ、誰の目にも止まることの無かった幻の島。
そこには、神の城と同じように特殊な力を持っている人々が住んでいると言われ
世界をずっと見守り続けていると言う伝承があった。

『そこは魔王復活の際に滅ぼされてしまったが、三つ目の封印を解いた今
夢の世界に復活しているハズじゃ。大賢者ブボールが千切れそうなカルベローナの
魂を今も必死に繋ぎ止めておる。だがその力も、もう尽きかける間際じゃ。さぁ早く向かうが良い』

 ブボール・・・。
その名を聞いてバーバラの体に雷が落ちたような衝撃が走った。
あまりに大きなその衝撃は、体と意識とを遮断する。

「・・・バーバラ?」

 ふらふら揺れる小さな体に気付いてウィルが声を掛けたが
バタン!
かろうじてウィルの腕に支えられる形でバーバラは倒れた。

「キャー!バーバラちゃん!」

 慌ててホイミンがホイミを唱えるも、全く目を覚ます気配はない。

「おいっ!バーバラ!?」

 ウィルはバーバラの肩を揺さぶった。
トレードマークのポニーテールが乱れ、船と同じようにゆらゆら揺れる。

フム・・・とポセイドンは頷いて

『カルベローナじゃ、そこへ行けばバーバラの意識もすぐに戻るだろう』

 そう呟いた。

『戻った力でお主らを、そこまで送ってやろう。これぐらいなら出来るじゃろう』

 津波の襲来、海の王ポセイドンの登場、復活した魔法都市カルベローナ、突然のバーバラの卒倒。
色んな事が一度に起きて皆は頭の整理がつかなかった。
ポセイドンに何を聞く事も礼を言う事も出来ないまま、船は一瞬で海の中から消えた。


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