▼完結論...


『あの日』から、もう一年余りが過ぎ去ろうとしていた。

魔王がいた頃のかぎ爪はもう見る影もない。
ゲントから南に下った元魔王城のそびえていた島からは
これからの文明に役立つと言われる資源などが発掘されて、町が出来て、港が出来て、活気に溢れていた。

「ここもずいぶん変わったな〜」

 すぐ隣で声が聞こえる。
僕の大好きな人の声だ。

「そうだな、昔はムドーの城だったって話だが・・・魔物がおとなしくなった途端に観光名所。
人ってのは本当に都合が良い生き物だな」

 どことなく、トゲの有る言い回し。
でも、昔よりはずいぶん良くなったんだけど。

「そんな事より、もうすぐサンマリーノ行きの船が出るぞ」

「そうだそうだっ!早く行かなきゃ遅れちゃうよ!」

 青いマントを翻しながら、港へ向かって走っていく。
それを、ため息をついて青い服の剣士が追いかける。
こんな穏やかな時間がまた来るなんて、僕は思っても見なかった。





 船はサンマリーノへの航路を進む。
サンマリーノについた僕たちは、キャラバン隊の馬車に乗せて貰って南の街道を下った。
それから森を抜け、少し歩いた場所に有る小さな一軒家にたどり着いた。

「おっそ〜い!も〜相変わらずなんだから〜〜!」

 赤毛の少女がふてくされた顔で出迎えてくれた。
開け放たれた扉の奥には、金髪の女性と、ふてくされた大男、小さな僧侶に、青い髪の青年。
僕の大好きな、僕たちの戦友だ。

皆に迎え入れられるように僕たちは家の中へと案内される。

「1年ぶりね、元気だった?」

 金髪の女性、ミレーユが声をかけた。

「うん!」

「そりゃ元気よね〜ユナ〜、ようやく念願叶ってテリーと恋人同士になれたんだもの」

「だよな〜、テリーも、隅におけねーよな〜」

 相変わらず、昔と同じようにバーバラとハッサンがユナに絡んでくる。
この二人、いっつもこうなんだから。でも、ユナを大事に思ってくれるのは嬉しいけど・・・。

「なっなに言ってるんだよっ!そんなんじゃないって!!」

 ユナの否定も、いつもかなり無理があるんだよね。
そしてまた二人から茶化される。いつもの見慣れた風景。
クスクスと思わず笑ってしまう。

「・・・・・・」

 テリーは、相変わらず表情を変えず平然としてる。
だけど、ユナを想う気持ちは誰よりも強いんだって、僕は知ってるよ。

「んな事言ってるぜ、テリー。お前の口から言ってくれよ〜、お前ら恋人同士なんだろ〜」

「・・・知るか」

 ガクッ。
でも、素直じゃ無い所が玉にキズかな。
本当は二人っきりにさせてあげたいんだけど・・・
テリーがこの調子だといつまたユナを泣かせるか分かんないし・・・・・・。
やっぱりまだまだ、ユナには僕が居ないとダメなのかなぁって。

「なんだよ、バーバラだって!レイドックの次期王妃なんだろ!旅先で良く聞いてるぜ!」

「そうよ」

 あっさりとかわされる。ユナらしいし、バーバラらしい。
夢の世界の住人だった二人が、また肉体をもってこの世界に居る。
きっとその理由は、お互いの恋人同士に有るんだと思う。

テリー。ユナをこの世界に戻してくれて有り難う。
もうちょっと素直になってくれれば言うこと無いけど・・・・・・。

「いい?それじゃ始めるわよ」

 ミレーユの水晶玉が光り出す。
その水晶玉は夢の世界を映す事が出来るらしい。

夢の世界・・・。

僕にも夢の世界は存在してるんだろうか。
夢の世界の僕はなりたかった人間になって幸せに暮らしてるんだろうか・・・。

ふと、ユナとテリーを見つめて。

この二人は、夢の世界ではもっと素直に、お互いを想い合っているんだろうか・・・。

スラリンは、そう考えて夢の世界に思いを馳せた。





「テリー、今度は何処へ行くんだ?」

「・・・・・・アモールの洞窟・・・」

「ピッキキィ!」

 僕たちはそれから程なくして、サンマリーノへ向かう街道を歩いていた。
あの頃と同じ二人と一匹。

「アモールの洞窟って言えばさ、あの有名なイリアとジーナっていう盗賊が
盗みに来ても取れなかった宝があるって言う・・・」

「ああ」

「・・・イリアとジーナか・・・年老いてまで愛し合ってたって言う・・・・・・・・・
羨ましいよ・・・な・・・」

 ・・・相変わらずいじらしい、ユナの台詞。
ロマンチックだけど、これが本当のユナなんだって僕は知ってる。
そして本当のユナに戻れたのが、テリーのおかげなんだって事も。

「・・・・・・何言ってるんだ、行くぞ」

「・・・・・・・・・うんっ!」

 二人と一匹。

そう僕たちの旅は・・・



きっとまだ、始まったばかり------- ・・・。






THE・END


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