● 真意 ●
「テリーってさいっつもこうやって人気無い所にいるよな・・・」 その声に虚を突かれ後ろを振り向いた。 ・・・・・・ユナだった。 「・・・お前こそ、どうしたんだこんな所で」 驚いている自分を悟られないように冷静に切り返す。 「テリーを追ってきたんだ」 ユナに何も答えずにテリーは立ち上がって林の奥へと入っていった。 「おいっ!テリー」 慌ててユナもついていく。 「なぁ、何処に行くんだ?」 「別に・・・」 やる気の無いテリーにめげずに別の質問を投げかける。 「あのさ、いつこの町を旅立つんだ」 「傷もそんなに深くなかったからな・・・体力が戻り次第ここを出る」 歩きながらこちらを見ずに冷たく答える。立ち止まって顔をうつむかせた。 「・・・そうか・・・」 ずっとこちらを見なかった少年がやっと立ち止まって振り向いてくれた。 「勿論・・・オレも連れて行ってくれるんだよな・・・?」 不安げに問いかける。その言葉を聞いた途端、再び背を向けた。 「・・・お前は、この町に居ろ。それか天界へ帰った方がいい」 「・・・・・・・・・!」 「天界へ通じる塔があると言う噂を聞いた事がある。 そこへくらいなら連れて行ってやっても良い。修行にもなるかもしれないしな」 依然として背を向けたまま、冷たい言葉を並べた。 「な、何言ってるんだよ・・・、オレもうあんな所帰りたくなんかないよ・・・」 「あそこはお前が居るべき場所だ。お前は天空人、しかもゼニス王家の娘だ。 自覚を持った方が・・・」 「テリーがダークドレアムに頼んでオレを生き返らせて、この世界に帰らせて くれたんじゃなかったのか・・・!?そんなのって・・・無責任じゃないか・・・!!」 思わず口から出てしまった言葉。向こうはやっと反応してこっちを振り向いてくれた。 「・・・お前・・・知っていたのか?」 コクリと頷く。天空城に居たとき、暗闇に悪魔の顔が浮かび上がった。 そいつはダークドレアムと名乗った後、オレに実体を与えてくれて、この世界に戻してくれるって 言ったんだ。テリーに会いたくて仕方なかったから・・・悪魔の言うことさえも信じたのに・・・。 「それは・・・・・・お前には・・・色々と借りがあったから・・・」 「ずるいよ!オレだって、オレだってあのままテリーに会わなかったら・・・ お前の事だって良い思い出になったかもしれないのに・・・」 それは、嘘だった。 思い出になんてなるはずも無かった。ずっと想っていこうと思っていたから。 「もう・・・もうきっと一生忘れられなくなってるよ・・・」 「その事は、悪かったと思ってる。今になって後悔してる」 「・・・・・・・・・」 「今からでも遅くない。オレの事なんて忘れて天界へ帰れ。 それがあるべきお前の人生だ」 「そんなのって・・・そんなのってないよ・・・」 しつこく、テリーに食い下がる。 嫌われても、迷惑だって思われてもいいから一緒にいたかった。 「離さない・・・って言ってくれたじゃないか・・・」 「・・・・・・きっ・・・聞いていたのか!?」 コクリと静かに頷いた。 かぁっと頬が赤くなったのを知ると、ユナと距離を取る。 「・・・あれは・・・」 「あれは、ただの気の迷いだ」 ・・・気の迷いって・・・何だよそれ・・・! テリーの無茶な言い訳に口に出すのも忘れて心内で叫ぶ。 「・・・勘違いするのは勝手だが、オレに迷惑はかけないでくれ!!」 「・・・・・・・・・!勘違いって・・・!」 その冷たい言葉でどれだけ自分が傷ついたりするのか、 いつもテリーは分かってくれない。 どれだけ自分がテリーを想っているのか、全然分かってくれない。 沸き上がる苛立ちを押さえることが出来ず 「勘違いって・・・誰だってあの状況下で言われたら、本気にするの当たり前だろ! ダークドレアムに戦いを挑んだのだって・・・再会した時に抱き締めてくれたのだって・・・オレのこと 思ってやってくれた事じゃ・・・一緒にいても良いって事じゃ無かったのかよ!? それに・・・それにあの時・・・!」 『愛してる・・・・・・・・・!!』 あの時の、あの言葉今でも鮮明に覚えている。 天界に帰っても、ずっとずっと思い出していた、一人ぼっちだった時いつもオレを支えてくれた 言葉・・・。何度も思い返してる内にあの時の事は夢だったんじゃないかって思った時もあった。 だけど・・・ダークドレアムからここに呼び戻してもらって・・・やっとあの時の事は 真実だったんだって思える事が出来たのに・・・。 天界での事が走馬燈のように頭に駆けめぐってしまった。 「うるさい!あれはただの気の迷いだって言ってるだろ!お前は天界へ帰れ!!」 「一緒に居られると思ってたのに・・・じゃあなんでオレをここに呼び戻したり したんだよ?・・・勝手すぎるのもほどがあるじゃないか?」 ユナの言葉に耳が痛くなった。 確かにその通りだった。 言い返す言葉が見つからない。もどかしくなって、自分自身にも、問いつめる彼女にさえも腹が立って 思わずかぶっていた帽子をぐちゃぐちゃにして茂みに放り投げた。 「・・・・・・!」 きつく唇を噛み締める。大人げないと言う事は分かっていたのに。 「・・・わかったよ・・・」 いつもより静かで、怒りを込めている口調。 右耳にかわいらしく揺れているスライムピアスを乱暴に外した。 「もういいよ!お前の事なんて忘れて天界へ帰ればいいんだろ!!」 テリーのなげた方向とは正反対の茂みに思い切り放り投げた。 何処に投げたのか全く覚えていない。 「分かったなら、もうオレには付いてくるな!」 帽子をかぶっていないため、銀髪がなびいている。 再び勢いよく森の中を歩きだした。 後ろを振り向き、完全にユナが見えなくなったのを知ると、近くの木の幹にがつんと額を叩きつけた。 木が揺れて、葉が落ちてくる。 「・・・オレは・・・何をやってるんだ・・・」 自分の欲望の為だけにあいつを呼んで、突き放して・・・。 ユナの気持ちも分かる、自分の不条理な行動も分かってる。 拳をぎゅっと握り締めて、ごつんと額を木の幹に押しつけた。 会いたくて会いたくて仕方なかったんだ。 もう一度触れたくて触れたくて、どうしようもなかった。 自分の気持ちしか考えないのはオレの方なんだ。 薄暗い部屋、外は虫の鳴く声が聞こえる。安らかに眠っているアモスの横で、影が起き出す。 狭い視界を頼りに、ユナは用心深く家を出た。 はぁ、はぁと息をきらしながら林の中へと入っていく。 村から離れたこの林には、魔獣が徘徊しているはず・・・。 魔物よりたちの悪い、血と惨劇を最も好むという狂獣の事だ。 辺りを注意深く観察しながら、奥へと入っていく。 そして、何を思ったか地に体を押しつけた。 「・・・・・どこにいったんだ・・・?」 場所は確かこの辺りだと思うのだが・・もう少し手前に、わかりやすい所に投げればよかった。 どの方向に投げたのかわからない。思い切り投げてしまったから・・ 「・・・・・・」 大切な物だったのに・・一番大切な物のはずだったのに ・・・! 何かの気配に不意を突かれて振り向いた。 「・・どっ、どうしてお前が・・」 「ユナの後をついてきたんだ。夜の森は危険だぜ。」 ロイは背中にボーガンを背負っていた。 不適な笑みを浮かべ、 「捜し物は・・右耳につけていたスライムピアスでいいのかな?」 こいつ・・知ってるんだ・・。仕方なく首を頷かせると、 二人はなるべく離れないように、探し出した。 馬鹿だな。オレは。へたり込んでしまったユナがつぶやいた。 探したのに・・こんなに探したのに、見つからない。 どこにあるんだよ・・どうして何処にもないんだよ。 そのとき、後ろで茂みをかき分ける音がした。月の光に照らされた細長い人間の影。 「オレってさ、つくづく大バカだよな」 聞き取りづらい力無い声で呟く。 「そんなに大切な物なら投げなくても良かったのにさ・・・」 ハハハ・・・と元気なく笑いながら、何度も茂みの中をまさぐった。 「ごめんな、ロイ・・・。スライムピアスなんて物探してもらって・・・」 左耳のスライムピアスは、どことなく、悲しそうに笑っている。 「あれ実はテリーから初めて貰った物なんだ・・・スゴク嬉しかったのに・・・ 自分でなくすなんて・・・バカみてぇ・・・」 ・・・・・・・・・!! ・・・・目の前に差し出された手のひらの上には、今まであいたくて仕方なかった物が 「よっ・・・かったあーーー!!」 みつかんなかったらどうしようかと思ってた。 だって、一番大切な物だったから・・・。 「ありがと!!ロ・・・」 テリーのから貰ったオレの大切な・・・ 「そんな物、またトルッカで買えばいいじゃないか」 う、嘘、こ、こんな・・ 「世話が妬ける」 青い帽子、剣や服には真っ赤な鮮血。 「テ・・・テリー?」 「たまたま通りかかったら落ちていた」 「たまたまって・・・」 オレがこんなに探したのに見つからなかったのに。たまたま通りかかって 見つけられるわけないじゃないか・・・。 真っ赤な血が袖口の方から大量に流れている。 剣を鞘に直して、よろついた足取りで立ち去ろうとした。 「ちょっ・・!!だっ、大丈夫かよ!!」 血塗れの腕にそっと触れた。 「魔獣に襲われたのか・・・?」 「・・・・・・」 何も答えない。 ユナが何かを呟くと、淡い光がテリーの腕をを包み込む。 少しだが出血は止まったようだ。再び同じ呪文を呟いた。 「・・・・テリー・・その帽子・・・」 向こうは相変わらず何も答えてくれなかった。心臓の高鳴る音だけが聞こえてくる。 「ごめん、ホイミじゃ治せないや・・・やっぱりオレって、役に立たないよな・・・」 「お前が謝る必要なんて、無いだろ」 少し息が荒いでいる。 首を振ると体中から白い癒しの光を解き放った。 「だって、テリーが探してくれたんだろ・・・コレ・・・」 その少女に触れると傷が少しづつ、ほんの少しづつ癒されていく。 「なんか・・・これって口実みたいだけどさ・・・あの・・・傷が癒えるまで・・・こうしてても、良いか?」 ユナはテリーの傷ついた体に癒しの体で触れた。 胸にぴったりと頬をくっつけて・・。 しばらく経った後で「ああ」とやや遅い返事を返された。 「・・・・はは・・・まだ治ってないや、あとどれくらいかかるんだろ・・・・・・・・・!」 テリーの腕が、ユナの肩にまわった。 強く、抱き締められる。 「・・・・・・・・テリ・・・・・・・!」 「・・・・・・・・・・・・」 ・・・素直じゃない二人が想いを通じ合わせることが出来るのは、 こうやって抱き締め合う事だけなのかもしれない。 ユナの髪に、耳に、頬に、顔をよせて、その度二人の距離は縮まる。 耳に唇を押しつけ、そのまま二人は動かなかった。 ずいぶん時間も経って怪我も完治しているはずなのに、ユナは離れようとはしなかった。 テリーもまた、離そうとは・・・ |