● サンマリーノその後A ●
『・・・・・・・・・』 暗い・・・暗い・・・ここは何処だ・・・? 真っ暗で・・・何も見えなくて・・・・・・ 『テリー』 その声にハっとなって振り返った。 暗闇の中に、その声の主の姿だけが浮き出していく。 その女はオレを見て笑った。変わらない笑顔・・・・・・ 『ユナっ!!』 叫んだ。オレは、力の限り・・・・・・。 女を手で掴もうとするが、するりと体をすり抜ける。 再び振り返ると、女はまた何事も無かったかのように 『久し振りだな』 微笑んだ。彼女の隣に、一人の男が同じように浮き出していく。 『テリーにはまだ紹介してなかったよな?』 『・・・・・・!』 『オレの恋人』 テリーの言葉を待たずに言い放つ。・・・・・・足が竦んだ。 ・・・何処かで見た事のあるような男は、嘲け笑ったように感じた。 二人は身を寄せ合って腕を組んで、彼とすれ違い歩いていく。 『待てよ!』 その叫びに二人はゆっくりと振り返った。 『何だよそれは!!お前は、オレと・・・・・・・・・!』 『何、言ってんだよ?』 ・・・・・・・・・? 『お前はオレなんかどうでもいいんじゃなかったのか?自分でそう言ったじゃないか』 ・・・・・・あの時の、あの言葉。 『ユナ、あれは・・・!』 『じゃあな、テリー。もう会うことも無いと思うけど・・・・・・』 白く画面が光った。瞬間。 「・・・・・・・・・」 宿屋の天井が見える。 もう三ヶ月は滞在している宿屋の天井だった。 ふぅと息を吐き、頭を振った。 最近、こんな夢ばかりを見る・・・。どうして・・・。 シーツの感触を、肌で感じて、昔を思い出した。 初めてユナを抱いたあの日の事を・・・・・・。 「・・・・・・」 目を伏せた後、ガバっと上半身を起こして靴を履いた。 そして・・・・・・・ 「・・・・・・」 手元にあった帽子に視線を落とす。 『どうしてそんな汚い帽子持ってるの?私が新しいの縫ってあげるわよ』 ミリアから何度もこんな事を言われた。その度にオレは断る。 そう、この帽子は・・・・・・。 また思い出しそうになって、慌てて頭を振る。 その帽子をぶっきらぼうに鞄に詰め込むと、コートを羽織ってそのまま外に出た。 外は、雨だった。 「ユナぁ、本当に久し振りー、元気だったぁ?」 「うん・・・まぁ、ね」 「って・・・こんな事言ってる場合じゃないのよーっ!」 ビビアンはユナの肩を掴んでガクガクと揺さぶった。 「な、何だ、よ。ビビ、ア・・・」 「テリーよ!!何で彼と一緒じゃないの?どうして!?」 その名前を聞いた途端、ユナの顔が強張った。 ビビアンの執拗な質問に答えるキッカケを失っていたが、間が出来た頃ようやく 「オレ、テリーと・・・離ればなれになっちゃって・・・・・・ それからもうどのくらい経ったのか分からないんだけど・・・・・・ テリーを探しに来たんだ・・・会いたくて・・・・・・」 「ぬわーんで早く探しに来なかったのよーーーっ!」 やっと返したユナに、雷が落ちた。 「彼、スゴーク孤独だったわ!ここに来て三ヶ月、戦いに明け暮れて お金を貯めてばかりの生活だった。昔の、あの頃の テリーに戻っちゃったみたいに・・・・・・」 銀髪の悪魔と呼ばれていた頃に・・・・・・。 ユナのすまなそうな顔を予想していたのだが、彼女の反応はそれより驚きに近い物だった。 「ここに来て・・・って・・・テリー・・・この街に・・・サンマリーノに今、いるのか!?」 「・・・え?」 「ここに、テリーがいるのか!?」 立場が逆になる。ビビアンの肩を掴んで揺さぶる。 「そ、そうだけど・・・この酒場にも良く来るし・・・」 その瞬間、思い切り肩を掴まれていた手のチカラが抜けた。 「そうか・・・・・・」 そうか・・・・・・テリーが・・・ここに・・・・・・。 何だか凄く安心した。 魔物との戦いで、とか、病気で、とか、行き倒れとかにはなってない みたいだな・・・良かった・・・。 ここに・・・同じ土地に、街に、テリーが・・・。 「・・・・・・・・・それで・・・テリーは今どこに・・・?」 「あっ、ミリアが知ってると思うけど・・・ね、ミリア・・・・・・」 ユナの隣で無言でグラスを口に傾けているミリアに問う。 しかし、聞こえていないのか返事はなかった。 「ね、ミリ・・・・・・」 「何なのよそれ!!」 ガンッ!! グラスを思い切り机に叩き付ける。 ビビアンとユナは思わず驚いて顔を見合わせる。 マスターも何事かと思って店の奥から顔をのぞかせた。 「ミリアさん・・・?」 「冗談じゃないわよ!どうしてテリーをずっと放っておいたのよ! 私は、彼の事が好きなのに・・・昔の恋人か何かしらないけど・・・ 急に現れて、テリーを取っていくなんて・・・都合良すぎるじゃない!!」 俯いたまま、亜麻色の髪の女性は叫んだ。 「ちょっとミリア・・・そんな言い方って・・・ユナとテリーは昔から愛し合ってるのよ!?」 「・・・愛し合ってた・・・でしょ!?」 二人の方を振り向く。 先ほどの悩みを聞いてくれた優しかった瞳とはまるで別物だった。 それは何度も見た・・・・・・嫉妬の瞳だった。 「それに・・・・・・テリーに・・・貴方はもう、必要ないと思うわ・・・」 息を飲み込んで 「もう、彼は貴方の事なんて、全然気にしてないみたいだし・・・ま、今は 私がいるから・・・・・・・だと思うけどね・・・」 ふふっと嘲笑する。彼女に、悟られないように、苦しい瞳を見せないように顔を背けた。 ビビアンは、ミリアの言っている事が嘘だと分かっていた。 いつも、『彼は私の事、全然見てくれない』と愚痴を零していたから。 「だから・・・だからもう、帰ってくれない?」 目も合わせずに、そう言う。 「ハッキリ言って、今、テリーと再会されても迷惑なのよ。 私は・・・私たちは今、とっても幸せなのよ。邪魔されると・・・邪魔されると迷惑なのよ!!」 遂にユナの顔を見ないまま、言い切ってしまった。 テリーを渡したくない・・・・・・ その一心で言ってしまった嘘を・・・・・・。 ・・・・・・重くて長い沈黙の中で、隣の少女が席を立つ音が聞こえる。 罪悪感の念にかられ、額を手で押さえた。 「ミリアさん」 こっちを振り向いて、 「テリーのこと、よろしくお願いしますね」 「ちょ、ちょっとユナ!?あんた・・・」 ビビアンも長い沈黙から解放され、言葉を発した。 「あ、あの、オレ・・・ただ・・・」 ・・・・・・・・・ 「ただ・・・テリーの事が気になっただけだから・・・様子を見に来ただけだよ。 元気にやってるかな・・・とかさ・・・」 ユナの無理しているのがバレバレな態度に、ビビアンは顔を伏せてしまった。 「あいつっていつも見張ってないとすぐに危険な事するし・・・無茶ばっかりして、 無理ばっかりして、自分の体傷つけたりして、人のことなんて何も考えてないような 発言ばかりするけど、本当は、本当はみょうな所で優しかったりするんですよ・・・だから・・・・・・」 真っ直ぐに見つめる。 「だから、テリーのこと、よろしくお願いしますね!」 そう言って、頭を下げた後、酒場を飛び出していった。 二人はまるで、金縛りにあったかのように動けなかった。 「どうして?」 そんな折、ミリアがビビアンに尋ねた。 「どうしてユナに私が嘘ついてるって言わなかったの?黙ってみてたの?」 ビビアンは知ってるはずなのに・・・・・・。 ビビアンは空になったグラスを受け取り 「ユナは・・・多分嘘だって分かってたはずだよ・・・」 「・・・・・・・・・?どうして・・・っ?」 弾かれたような反応に、悲しい笑みを返した。 「気付いて、あんな事言ったのよ・・・」 ・・・耳を疑ってしまった。 「嘘よ!そんなの!」 がたっとカウンターから立ち上がる。 ビビアンの方を見た。相手はふぅっと息をつき 「・・・私にも分かりかねるけど、多分・・・・・・あんたの想いに驚いたからじゃない?」 「・・・・・・どういう意味・・・?」 再び尋ねる。 「分からないの?あんたのテリーを想う気持ちが痛いほど伝わったから・・・。 この人にならテリーを任せられるって・・・そう思ったから・・・だから素直に身を引いたんじゃないの?」 ミリアの目元と口元が、微妙に動いた。 そして、手で口を押さえて、その場にうずくまってしまう。 「何で・・・・・・だって、そんなの変じゃない!私が、テリーのこと想ってるから身を引くって? そんなのおかしいじゃない!愛してるなら、競い合ってでも奪う物でしょ?そんなのって・・・ そんなのって・・・・・・」 本気で愛してない証拠だわ・・・ 「・・・・・・」 ミリアは最後の言葉が言えなかった。 初めて、彼女に会った時の事が思い出された。 『本当にその恋人の事が好きなのねー・・・なーんだか羨ましいわぁー・・・。』 本当に、そう思った。 あの彼女のテリーを想う瞳に・・・・・・。今になって、胸がチクチクと痛んでくる。 「私・・・・・・どうすればいいのよ・・・・・・」 俯いたまま呟いた。私は・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・」 二人はずっと黙ったままだ。時計の病身を刻む音だけが聞こえる。 その沈黙に耐えかねて、ビビアンが口を開こうとした時、酒場の扉が開いた。 「・・・・・・スイマセン・・・まだ準備中なんですけど・・・・・・」 ぱっと目に飛び込んできたのは、雨に濡れて光っている銀髪の少年だった。 「・・・テッ・・・」 濡れた頭を振って、店内に入ってくる。 「テリー・・・」 女二人の驚いた表情に不審に思いながら 「今日は雨だし、客も夕方・・・早くからやって来るだろ? ・・・・・・それよりどうしたんだ二人ともそんな顔で・・・何かあったのか?」 俯いているミリアと、固まっているビビアン。 ミリアはテリーの顔を見るやいなや、何も言わずに店の奥へ駆け込んでしまった。 「・・・・・・・・・?」 今度はビビアンを見ると、相手は苦笑いしながら、白々しく顔を背ける。 「何なんだ・・・?一体・・・」 その異様な雰囲気に疑問を感じながらも、それ以上は深追いはしなかった。 ビビアンはテリーを背に、深いため息をついた。 (・・・・・・全く・・・タイミングが良いんだか悪いんだか・・・) ユナの事は自分の口から言うべきじゃない。そう感じていた。 彼女の事はミリアに任せよう・・・任せるべきだ、と。 店の窓を開ける、外はだんだんと雨足が強くなっていくばかりで・・・。 ユナ・・・・・・一体どこに行っちゃったのかしら・・・・・・ カランカラン。 「いらっしゃいませ。今日は早いですね」 常連客が次々に店を訪れてきた。 まだ日も完全に暮れていないが、雨の日は人の出入りが激しいのだ。 マスターとビビアンはカウンター内でせっせと客の相手をしている。 忙しいながらもビビアンはテリーを気にしていた。 奥のテーブルでぼーっと何かを考え込んでる・・・多分・・・・・・ 「ビビアンちゃーんっ、お酒、早くーっ!」 「あっ、はい!」 多分・・・・・・。ボトルとグラスを乗せたトレイを運びながら考える。 多分・・・・・・ユナのこと・・・・・・。 お金をあれだけ集めてるのも、あれだけ魔物と戦ってるのも、全てユナの為だとしたら・・・・・・。 やっぱり、テリーに言った方がいいのかしら・・・・・・。 「ビビアンちゃん?」 随分せかせか働いた所で、マスターから声をかけられた。 「どうしたんだい?ぼーっとしちゃって・・・。 疲れたろう?休憩しても良いよ、もうすぐミリアちゃんの躍りも始まるから・・・」 「あっハイ!」 ボッとしたままカウンターを出た。 ヒールの音が店内に響く。 皆豪快に酒を飲んでいるが、その中で無言な一人の男がいた。 その男と一緒のテーブルにつきと、頬杖をついて目の前の男を見つめる。 「・・・・・・どうしたんだ一体?何か用か?」 テリーだ。 「あなたに聞きたい事があるんだけど・・・・・・」 ビビアンの真っ直ぐな瞳がうざくなったのか、目を伏せて顎をしゃくって促す。 女は少し言いにくそうにして 「あの・・・・・・」 「・・・・・・?」 「ユナの・・・事、なんだけど・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 テリーの反応を見た。 相手は相変わらず目を伏せて無言だ。何を思っているのか分からない。 「ね、忘れちゃったわけじゃないわよね?ユナのこと。それだけお金貯めてるのも、ユナの 為なんでしょ?」 「・・・・・・・・・さぁな」 目を伏せたまま呟いた。グラスに残っていた酒を飲み干して再び俯く。 「はぐらかさないで、ちゃんと答えてよ・・・・・・。まだユナのこと想ってるんでしょ?」 「・・・・・・・・・」 何も答えない。 「ねぇ、まだ愛してるんでしょ?ユナに会いたいんでしょ?テリ・・・・・・」 「だったら何だって言うんだ!!!」 凄まじいテリーの声に、店内は一瞬にして静まりかえった。 驚いた顔で皆はこっちを見る・・・が、一時して何事も無かったかのようにまた騒ぎ出した。 「テリー・・・・・・」 その時、流れていた音楽が、突然優雅な物に代わり、ステージの幕が上がった。 「ヒューッ!待ってましたよ!ミリアちゃーんっ!!」 ステージに現れたのはミリア。 美しく過激な踊り子の衣装を着て、立ちつくしている。 毎月偶数の日に踊る。人気の踊り子だった。 彼女が来てからと言うもの、店が繁盛しているのは確かだし、その躍りの華麗さと言ったら 見る者を虜にする。彼女のファンが大勢この酒場に詰めかけているのも事実だ。 シャラン。 衣装に付いている鈴の音が響く。 その音は軽やかになったりまた激しくなったり様々だ。 「オイ・・・・・・」 「何だよ、今良いところなんだ・・・」 男共が呟く。 「今日の躍り・・・・・・いつもと違わないか?」 「え?」 ミリアから目を離さず尋ねた。 「オレもそう思うぜ。何か・・・・・・いつもより気合いが入ってると言うか・・・・・・ 激しい躍りなんだけど・・・・・・その内には違った弱さを秘めてるっつーか・・・」 違う男が話に参加してくる。 激しく、熱い躍りなのだが、何処か弱く、そしてもの悲しい・・・・・・。 「そうそう、なんだか切ない躍りだよな・・・あ、何かオレ泣けてきちゃったよ・・・」 ミリアは躍り続けていた。 自分の想いの全てを、躍りで表現するように・・・・・・ 「何か・・・いつものミリアの躍りと違うわね・・・」 「ああ・・・気合いが入ってるな」 ミリアのその躍りに、気まずくなっていた二人の口から自然に声が漏れる。 いつもと違った躍りに・・・・・・ 「そう言えばさっき、二人とも何があったんだ?何か様子、変だったじゃないか?」 ふと、先ほどの事を思いだしてしまった。ビビアンの胸がドキリと叫んだ。 「え、ああ、さっきの事?別に大した事じゃないのよ・・・」 慌てて席を立つ。 「・・・・・・人には本当の事言えと言うくせに・・・随分と勝手な奴だな」 ・・・・・・う・・・。 カウンターに逃げようとするビビアンのあげ足をあっさり取る。 何も言い返せない・・・・・・。 ふぅっと息を吸い込んで 「今は、私の口からは言えないわ。多分、ミリアがその内話すと思うから・・・」 「?どういう意味だ?」 「じゃあね、私もう戻らなくちゃいけないからっ」 質問に答えずいそいそと戻っていく。 もうすぐミリアの躍りが終わる頃なのだ。 フィナーレに近付いているミリアの躍り・・・。 多分、今日の躍りは彼女の心の葛藤を現した物なのだろう・・・。 テリーを強引に奪い取るか・・・それとも愛し合っている二人に戻すか・・・。 そう・・・・・・ 全てはミリアにかかっている。彼の幸せも・・・彼女の幸せも・・・ カタン。 舞台の照明が落ちて辺りが真っ暗になる。 司会の男がミリアの躍りに終わりを告げていた。 しばし真っ暗のまま、男共の口笛と、アンコールの言葉。 そんな中、テリーは考えていた。 ビビアンは何故今頃になってあんな事を言ったのか・・・・・・ 今まではマスターも何も触れてこなかったのに・・・ 『ユナに会いたいんでしょ?』 「会いたくないはずが・・・・・・」 会いたくないはずがないじゃないか・・・・・・! ぎゅっと右手に力を込めて、額を抑え付け、テーブルに肘を突く。 会いたくて会いたくて、触れたくて抱き締めたくて、 今だって気が狂いそうなんだ・・・。 あいつは天界へ帰って・・・二度とここへは帰ってこないのに・・・。 二度と会えないのに・・・・・・。 先ほどのビビアンの言葉・・・・・・何か心の奥に引っかかる・・・。 顔を上げて、髪をかき上げる。 ライトが再び美しい赤いものに変わると、一人の女が目の前にいた。 女の肌は美しい宝石のように光り輝いて、先ほど踊ってかいた汗も ライトに照らされてキラキラと輝いていた。 少し汗ばんでいる女の顔、椅子に座って呼吸を落ち着けた。 「・・・・・・今日の躍りは気合いが入っていたな」 椅子にもたれかかって、目も見ずに尋ねる。 「・・・まぁね・・・」 いつもよりそっけない答え。 『ミリアが話すと思うから・・・』 ミリアが、一体何を・・・。 目の前の女を見る。目が合うと、向こうが口を開いた。 「テリー・・・」 今日の躍り、不自然なミリア。 何か言いたそうにして口ごもったり、言いかけたりしている、一体何・・・ 「何が言いたいんだ?」 耐えかねてテリーの方から問いかけてしまう。 ミリアは視線を宙に彷徨わせながら迷っている。 沈黙が続いた・・・・・・・・・。 ミリアの汗は渇いて、もうすっかり呼吸も落ち着いた頃、再び彼女は口を開いた。 「ユナって子・・・凄く可愛い子ね?」 「・・・・・・・・・」 「素直だし、明るく良い子だし・・・テリーが惚れるワケだわ」 「・・・どういう事だ?からかってるのか?」 平静を装って、強い口調で言った。 ビビアンがミリアにユナのことを言ったのか・・・?こいつはオレを利用しようとしているのか・・・? 「今日・・・ユナと会ったのよ」 「・・・・・・・・・」 何を言ってるんだ・・・こいつは・・・ 「あら、以外に冷静な反応ね?」 「・・・つまらない嘘だな」 やっとテーブルに肘をついて、ミリアの瞳を覗く。 嘘に決まってる。あいつがここに・・・来られるワケがない・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・そんな嘘をついて何になる!?オレは・・・・・・っ!」 「・・・・・・!!嘘じゃないわよ!!」 急に立ち上がって、思い切り叫んでしまった。 テリーが言い返す前に再び叫ぶ。 「私が・・・・・・この事を言うのにどれだけ迷ったと思ってるの!? もしこのまま私が黙ってたら・・・二人はもう会うこともないかもしれない・・・・・・ でも・・・・・・っ!」 いつの間にか、切れ長の綺麗な瞳からは大粒の涙が零れていた。 「でも、私は・・・テリーの事が・・・テリーには本当に幸せになって欲しいから・・・ だから・・・だから・・・」 言葉が出てこない・・・涙のせいで・・・喉が焼ける・・・・・・。 ぐっと涙を飲み込んで、信じられない表情で立ちつくしているテリーを見据える。 「だから・・・ユナの事を話したの。ユナを・・・ユナを探して・・・きっと・・・ きっとまだこの辺にいるはずだから・・・・・・お願い・・・・・・」 遂に力つきて椅子にへたり込んでしまった。 涙を押さえることで精一杯で・・・・・・。 溢れる涙をせき止めて、石像のようにピクリとも動かないテリーを見た。 鋭い目が大きく開いて、ずっと立ちつくしている。 「テリー・・・・・・」 バンとテーブルに両手をつく、俯いて一呼吸おいた後、顔を上げた。 「すまない・・・ミリア・・・それは・・・それは本当に・・・あいつなのか・・・ ここに・・・来たのか・・・?」 この言葉に、しっかりと頷く。 ゴシゴシ目を擦って、涙を拭った。 「早く・・・行ってあげなよ。彼女も、テリーに会いに来たって言ってたわよ ・・・・・・・・・・・・テリーが来てくれるのを・・・きっと待ってるわ」 「・・・・・・・・・」 ニッコリとするミリアに、胸が痛んだ。 ビビアンの方を見ると、向こうも気付いたのか頷く。 「ユナ・・・・・・」 自分で名を呼んだ途端、自分を制御していた物が切れたのか いつのまにか酒場を飛び出してしまっていた。 外は・・・・・・まだ土砂降りの雨だった。 |