● ユナとミリア ●
「保存食も・・・衣服も充分だな。それにしてもお前・・・本当にルーラ大丈夫なのか?」 鞄の中を確認している中、テリーが不安げに問いかけた。 「大丈夫だって!レイドックだろ。レイドックなら沢山印象に残ってる場所あるし・・・」 胸を張って自信満々に言う彼女に反抗する気も失せていた。 まぁ別の所へ飛ばされたとしても、それからまた船で旅をすれば良いことだ。 急ぐ旅でもない。 「と・・・その前にビビアンの所に寄っていくか」 「?珍しいね、テリーがそんな事言うなんて・・・」 「挨拶くらいしとかないと、また心配かけるだろ?」 「そりゃそうだけど・・・」 オレが言いたいのは、テリーがどうしてそんなに人に気を遣うようなったのかって・・・。 会わない間に・・・大人になったのかな・・・。 でも・・・でもあそこには・・・ 「オレ・・・ミリアさんに合わせる顔ないよ・・・」 「何故だ」 「だってオレ、テリーのことで色々あったから・・・」 顔色をうかがいながら言う。そんなユナに気付いてか 「フ、大丈夫だ。あいつはそんな事いちいち気にするような女じゃない」 「・・・・・・」 「行きたくないんなら店の外で待っていろ。オレだけでも挨拶していく」 「わぁーったよ。行くよ」 ユナの態度に苦笑いしつつも、店のドアを開いた。 カラン・・・ 聞き慣れた音。 テリーが中に入っていく中、迷いながらも腹を括ったのか、思い切って足を踏み入れる。 中にはビビアンにマスター、・・・ミリアがいた。 「・・・・・・・・・」 固まってしまっていた。声をかけるタイミングが掴めなかった。 なんでこんなに朝早くにミリアさんがいるんだよ・・・ 「待ってたわよ、ユナ」 「ヒィッ!」 叫んだ後、慌てて口を塞ぐ。 「何よ、その化け物にあったかのような反応は!」 「ス、スススイマセン!」 うろうろとして座ろうとしない湯女に 「・・・とって喰やしないから、こっち来て座りなさいよ」 自分の座っている隣の椅子をポンポン叩く。 「は、はい・・・」 おずおずとミリアの隣のカウンターについた。 「・・・・・・」 無言の空気が流れる。 何を話せばいいんだ・・・ これからテリーと一緒に旅に出ます。 ・・・・・・何だかいかにもだ・・・ ゴメンナサイ、やっぱりオレテリーが好きなんです。 ・・・・・・違う・・・何か違う・・・ 「フフ・・・本当に素直な子なのね」 「はいっ!?」 「テリーが惚れるわけだわ」 クスクスと隣でミリアの笑顔が光っていた。 不安が吹き飛んで、照れ笑いをしてしまった。 ・・・そんなに怒って無さそうだし・・・安心した 「あの・・・ミリアさん・・・」 「んー?」 一呼吸おいて 「ごめんなさい!あの・・・オレ、テリーのことよろしく頼むなんて言ったくせに・・・」 ずっと考えて、考えて、考えた末の言葉を伝えることが出来た。 「何を謝ってんのよー。悪い事なんてしてないんでしょ? それに、謝るのは私の方。嘘ついてたんだしね」 「・・・・・・」 「私が勝手にテリーのことを好きになっただけなのに、両想いだ幸福だなんて 言っちゃって・・・。テリーの心は出会った頃から今まで私を映してもくれなかった。 ずっと・・・あなたの事ばかりを想ってた。過去の思い出だけを映していたのよ・・・」 ユナはなんとも言えない想いで彼女を見ていた。 オレは何という言葉をかけたら良いのだろう・・・。オレは、何を言えば・・・ 「ミリアさん・・・オレ・・・」 「ストォーップ!」 はっとする。 「何も言わなくていいのよ!あんたは勝者なんだからね!どーどーとしてればいいのよ!」 「ミリアさん・・・」 ・・・・・・・・・ 「あーっ、もう気にしなくていいって!湿っぽくなっちゃうじゃない! アタシはそんなキャラじゃないんだから!」 「スイマセンッ!」 思い切り頭を下げると、ガンとカウンターにぶつかってしまった。 「い、いてえ・・・」 キョトン。一呼吸おいて 「あっはっは!あんたって外見と違って鈍くさいねぇ、凄く生真面目だし・・・。 ふふっ、テリーと釣り合わない感じね」 「・・・自覚してます」 アハハとまだミリアは笑っている。 ・・・良かった。テリーの言った通りだ。ミリアさんはあんな事気にするような人じゃなかった。 大らかで、心が広くて、何でもキッパリ言うけど・・・サバサバした性格で・・・ 「エヘヘ・・・」 好感の持てる人だ。 「何を笑ってるんだ。不気味な奴だな」 後ろから低い男の声。 「挨拶は終わったのか?そろそろ行くぞ」 「あ・・・ああ、うん」 慌てて席を立つ。 振り向くと寂しそうな三人の視線に気付いた。 「ユナにテリー!またサンマリーノに来なさいよ!とっておきの躍りを見せてあげるから!」 「テリー君がいなくなったら客足が減っちゃうなぁ」 「ずっとここにいればいいのに・・・」 三人の続く言葉に、テリーは珍しく笑顔を見せた。 「ああ、またいつかここに帰ってくるさ。じゃあ、またな」 「またなっ!」 ユナもテリーの笑顔に続く。 ドアを閉める音が聞こえて、二人の姿がなくなると、三人に虚しい風が吹き込んできた。 「・・・・・・初めて見た・・・」 「ん?」 「テリーと会って、三ヶ月経つけど・・・テリーの笑った顔なんて初めて・・・」 「んー・・・そうねぇ・・・」 腕を組んでビビアンが呟いた。 マスターはトントンと自分の肩を叩いて 「それだけ、テリー君にとってユナちゃんが大切な存在だったんだよ」 「・・・・・・・・・」 カウンター内に戻って、朝の仕込みの続きをする。 「本当に良かったよ・・・。三ヶ月前ここに来たときは、死に場所を探してるみたいで 怖かったけど・・・。ユナちゃんが生きていてくれて本当に良かった」 「あの二人はいつ見てもラブラブだからね」 マスターの言葉に頷きながら、ちらりとミリアを見る。 ビビアンの視線に気付いたのかふぅっとため息をついた。 「好きな人の幸せは・・・自分にとっての幸せ・・・・・・だなんて・・・私はユナには 勝てそうにないわ・・・・・・。それに・・・男はテリーだけじゃないものね。 もっともっといい男見つけて、もっともっといい恋してやるんだからーっ!」 二人と目を合わせないように一人意気込んで奥に入っていく。 ミリアの気持ちに気付いたのか、二人は何も言わないまま彼女の背中を見送った。 「・・・いい天気だな」 「ああ」 サンマリーノから出て、しばらく歩いているとユナがふと声を漏らした。 「それにしてもホント、魔物少ないよなー。気配も何もしないよ」 「当たり前だろ、魔王を倒してからは大人しいもんさ。夜は月の影響もあって凶暴化してるがな・・・」 「へぇー、いー世の中になったなぁ・・・そう言えばテリーって凶暴な魔物を大人しくさせたり、 倒したりって、色んな仕事引き受けてたんだよな?そんなに頑張ってどうするつもりだったんだ?」 初めてテリーの言葉が止まる。 「・・・・・・・・・」 理由なんて本当に何も無かった。 「・・・ただ、魔物を倒していれば、色々忙しくなればお前の事を考えなくて すむから・・・そうしたまでの事だ」 「・・・・・・え?」 「・・・・・・・・・やっぱり聞かなかった事にしてくれ」 テリーも真っ赤になってフイっと顔を背けた。 ユナは目と耳を疑ってしまった。 「テリーはオレが城へ帰っても・・・オレの事想っててくれたんだ・・・」 心の外が声に出てしまっていた。 「・・・・・・・・・お前は・・・鈍感にも程がある」 どうして何も分かってないんだ。お前がいなくなって・・・ 「お前がいなくなって、オレがどれだけ辛かったか、苦しかったか、 全然分かってない。生きている感覚なんてとっくに忘れていた!」 「それはオレの方だって・・・!」 「人が謝ろうと思った矢先に天空城へ帰るし、オレがどれだけ・・・」 「だからそれはお互い様だって言ってるだろ!オレだって、天空城帰ってたった独りぼっちで 過ごした!ずっとテリーのこと想ってたけど・・・けど・・・一年も経ってるし・・・ テリーはオレの事なんて忘れてるって思ってた!会うのだって凄く怖くて・・・ 忘れられてそうで・・・不安でたまらなかった・・・だから・・・」 ユナの両肩を掴んで 「忘れるわけがないだろ・・・!少しは考えろよ!」 「考えてるよ!だって・・・だってオレには・・・」 天空城に帰ってつくづく思った。視線を交わらせる。 「テリーしか・・・いないんだもん・・・」 「・・・・・・・・・」 「テリーがオレを必要としなくなったら・・・オレは、オレは誰にも望まれて生まれてこなかった 人間で・・・。テリーがいなくなったらオレなんて・・・」 必要じゃなくなる・・・。 ユナの不安そうな顔。テリーはふっと微笑んで 「オレにはお前が必要だ。だから、そんな顔するな」 珍しく優しい言葉をかける。その言葉に本当に安心した。 今までの不安が一気に吹き飛ぶ。 天空城の辛い生活も、忘れるくらいに嬉しかった。 「・・・・・・良かった・・・」 俯いて聞こえるか聞こえないくらいの声で呟く。 「テリーがいてくれて本当に良かったよ・・・」 本当にテリーと会えて良かったよ・・・。ゼニスがオレを捨ててくれて良かったよ・・・。 「ゴメン・・・何でこんなに涙がでるんだろ・・・とまんねぇよ・・・」 遂に、テリーの胸に倒れ込んで泣き伏せてしまった。 そんなユナを抱き締めてやる。 「・・・・・・・・・オレも・・・お前がいてくれて良かった」 「・・・・・・・・・?」 「お前がいなかったら、目的もないまま生きていた。 こんな幸せな思いだって出来なかった・・・。人肌の温かさも、本当の強さの意味も・・・」 テリーの言葉に胸が締め付けられる。苦しい・・・・・・。 好きなんだ・・・・・・・・・。苦しいくらいに愛してる・・・・・・。 「人を愛する事だって・・・・・・」 テリーも、ユナと同じ事を感じていた。 苦しい・・・・・・ 「苦しくてたまらない・・・・・・」 「テリー・・・」 結ばれてはいけない人物だと知ってるのに・・・。もうオレ、無理だよ・・・。 「愛してる・・・・・・!」 強く、テリーは呟いた。二人は唇を触れ合わせた。キスしてる時が一番安心する。 「オレも・・・」 唇が少し離れるとユナが呟く。 「テリーの事、愛してるから・・・さ・・・」 触れ合う瞬間が一番安心するんだ。 テリーの事しか考えなくてすむ・・・嫌な事も全部忘れられる・・・ テリーの子供が将来勇者になるって言う事実も・・・ オレが子供を産めない体だっていう事実も・・・全部・・・。 |