▼悪夢...
「王子!」 城の廊下を歩いていたウィルに、昨日の学者が慌てて駆け寄ってきた。 「じい、どうしたそんなに慌てて・・・苦手なゴキブリでも居たのか?」 「冗談など言ってる場合ではないですぞ!昨日こちらに来られたユナ様! あの黒い痣の事をよく調べてみましたら、とんでもない事が分かりましてな!」 「・・・・・・?」 ウィルの顔が険しくなる。 じいと呼ばれた学者は持っていた分厚い本を開いた。 「どうやらあの痣の奇妙な形は 遙か昔使われていた古代文字と よく似た形を成してるんです」 慌ててページをめくる学者の緊迫感が伝わって、ウィルは息を飲んだ。 「見た事の無い形でしたから、印象深かったので覚えておりますぞ」 赤い印を付けられていたページ。覗き込むとそこには確かに見覚えのある奇妙な形が 描かれていた。その脇には文字のようなものが羅列してあったが勿論内容は分からなかった。 「これは・・・ユナの痣と同じものか?」 学者は頷いて 「ここにはこう書かれているんです。”人は神の力を頂いて生まれてくる。頂いた神の力 尽きる時、その命は終わりを迎える”と」 文字の羅列を指で追いながら言葉を続けた。 「”命尽き時、黒い印が刻まれる。その黒い印つ者、神の世界へと誘われるだろう”」 抽象的に書かれた言葉であったが、嫌な予感を胸に刻むには十分だった。 ウィルは青ざめて、学者に問いただした。 「どういう事なんだこれは!?」 学者は首を振って 「この文献が正しければ、王子・・・あなたが心の何処かで 危惧してる事と同じ事になるやもしれません。 たかが痣のひとつですが、私にはなにやら嫌な予感がするのです」 窓の外を見つめる。 なにかの終焉を思わせるように黒い雲が空を渦巻いていた。 気配に近付く度に強い魔力をビリビリ感じる。 気のせいでも何でもない、目を背ける事は出来ない、そう、これはテリーの良く知っている 「ダーク・・・ドレアム・・・」 呟いた途端、また一層気配が強くなった気がしてテリーは唇を噛みしめた。 馬鹿な・・・なぜ今更ダークドレアムなんだ・・・。 あいつはオレの願いを叶えて居なくなったはずだろ。 どうして今更気配を感じるんだ。 ゾク・・・っ 胸がひやりと冷えて、テリーは立ち止まった。 最悪の考えに思考が及ぶ。 まさか・・・まさか・・・! まとわりつく思考を振り払うようにテリーは再び駆ける。 この恐怖から解放されたくて、必死に走った。悪い予感というのは得てして当たってしまう。 そんな事があってたまるか-------- 息を切らせてたどり着いたその場所に その人は居た----------。 「・・・・・・・ナッ・・・・・・!」 ずっと探していた思い人。 向こうはテリーの姿を見つけると、放心したようにその場に崩れ落ちた。 「ユナ・・・・・・っ!!」 テリーは夢中で駆け寄って、ユナの体を抱き留める。久しぶりに触れた体は 酷く冷たかった。 「リー・・・テリー・・・・・・」 何故か、声が上手く聞き取れない。 「ユナ・・・ユナ、オレが悪かった。ごめん・・・ごめんな・・・」 ミレーユが居たら「子供の頃みたいね」と言われそうな台詞。本心から 出た台詞を、テリーはそのまま口にした。 だが、ユナは何も答えない。 「・・・・・・・・・」 何故かユナの体にダークドレアムの魔力を感じる。 それは何故か終わりを迎える花火のように最後の魔力を放っているように感じて 恐怖が体中を駆け抜けた。 テリーの熱い体とは逆にユナの体はますます冷たさを増していく。 「ユナ!おい、ユナ!聞こえてるか!!」 必死に細い肩を揺さぶった。ユナは金縛りのように動けず、言葉も出せず ただ、大粒の涙を流しているだけ。 「ユナッ!ユナ!!」 体の震えが止まらない。 まさかまさかまさかまさか 「ユナ!!ユナ!!」 オレの前から 「ユナアアアアアアッ!!!」 消えないでくれ--------- 再会したあの時を逆行するかのように、光の粒になって黒い空に吸い込まれていく。 まるで全て幸せな夢だったかのように。 そしてまた、覚めない悪夢が始まるように。
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