▼覚醒...


 暗い、暗い、世界。
そんな世界にようやく生まれた声。その声は愛しい男の物ではなくて、
憎んでも憎みきれない 悲しみをまとう男の声。

なんだよ。
夢なら、こんな時くらい、気を利かせてくれたっていいのに---------。

なんて




「・・・・・・・・・」

 ゆっくり目を開けると、目の前に広がるは蒼天の空。

「・・・・・・?いて・・・・・・」

 ごつごつした岩や石を体中に感じて、不快を伴ったまま上半身を起こす。
そこは鬱蒼とした林に囲まれた小さな広場。
役目を終えた井戸が風に吹かれ乾いた音を出していた。
この場所には見覚えがある。
レイドック城下町の外れ、傷心のまま何となくここへ来てしまった事を。
だが、それから後の記憶は全く無い。

本当に眠ってしまっていたのか?

「じゃあ・・・あれも夢だったのか・・・?」

 記憶が途切れる寸前、テリーがオレを抱きしめてくれた事も------
それから先を思い出すが、どうしても思い出せない。
暗い世界。ずっと眠っていたような気がする。

「テリー・・・」

 愛しいその名を呟くとよろめく足でなんとか立ち上がった。
あれは夢だったのか現実だったのか確かめたい。
テリーから拒絶された事が心に重くのし掛かってはいたが
それよりもテリーへの想いが先に立つ。
想いを糧にユナは再び歩き出した




「それにしても・・・・・・」

 鬱蒼とした広場から小道を歩いて華やかな城下町へと出る。
辺りを見回しながら不審に呟いた。

「ここは・・・レイドック?」

 見回した景色はユナの記憶と違う所が多く見られる。
たとえば、色とりどりの看板を掲げた洋服店、怪しげな水晶を店先に並べる露店。
そんな怪しげな露店には多くの女の子が列を作っている。なんとか文字を読むと
”うらないのやかた”と書いてあった。

こんな目立つ洋服店も、露店も、見落とす事は無いのに・・・。

「どういう事なんだよ・・・」

 歩きながら思考を巡らせると、目をそらしたい事にどうしても行き着いてしまう。

「もしかしたら、置いてけぼりにされたのかな・・・オレ・・・」

 あの時テリーに拒絶された事がじわじわと蘇る。
行き交う華やかな人々の中で、ユナは独り佇んでいた。

足が重い、動かない。もしかしたら本当に置いて行かれてしまったのか
という確信が強まる度に、足に重い枷を付けられているようだった。

「これからオレ、どうすればいいんだ・・・?」



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