▼ユナ...


 朝日に照らされて光る真っ青な海、気持ちの良い潮風。
サンマリーノ街道に面した宿場はキャラバンや旅人で賑わっていた。
港町サンマリーノから北東に位置するこの宿場は、サンマリーノへ行く旅人が
必ずと言って良いほど立ち寄る都合の良い場所だ。

木陰で涼をとっている旅芸人風の少女たちの話が
海風に乗って流れてきた。

「はぁー・・・あの人すっごくカッコ良かったねー・・・」

「何でも最強の剣を求めて旅をしてるんだってー」

「またお話したいなー・・・」

 少女たちを遠目から見つめて

「カッコいいねぇ・・・顔が良いだけだろ、なぁ?」

「ピキイッ!」

 そう言ったのは鉄の鎧で身を固めた人物。朝日が鉄の鎧に反射してイヤでも目立つ。
物騒な外見のために誰も近寄ろうとすらしない。
その人物の言葉に相槌を打ったのは、鞄の中に潜むスライムだった。

噂の男がどんな奴なのか見てやろう。

そう思う前にそれは向こうから近づいてきた。

「最強の剣だって、おいお前やけに物騒じゃねぇか」

 ちょうど宿場から出てきた噂の男は、数人のごろつきに囲まれていた。
好意の視線ではなく、嫌悪の眼差しを向けられて。
賑わっていた宿場が一瞬にして静まり返った。
人垣は殺気だった男たちを避けるようにしてぐるりと囲んでいる。
きっと誰も止めようとしないだろう。

「噂の男ってのはあいつか・・・」

 屈強な男たちに囲まれているせいだろうか。
噂の男は背が低くて、体つきも華奢で一瞬女に見間違えてしまいそうなほどだった。
見た事の無い銀の髪がキラキラと光って風になびいている
顔は女たちのうわさ話にはもってこいの美形だった。

だが鋭く光るアメジストの瞳は冷たく、近寄りがたい雰囲気だ。

「おい、なんとか言えよ!」

「・・・・・・・・・どけ、邪魔だ」

 ただでさえ噂の男に敵意を抱いていた大男の我慢の糸が、その一言であっけなく切れてしまった。

「何を!このガキ!!」

 回りが止める間もなく逞しい右腕を振り上げる。
女の悲鳴が聞こえ、その後に鈍い何かと何かがぶつかる音。

「あーあ、言わんこっちゃない・・・・・・?」

 鉄の鎧を着た人物は目を伏せてぼそりと呟いたが
静まりかえった後の歓喜の悲鳴に不審に思い目を開く。
と、思わず目を疑った。

「・・・あれ・・・?」

 倒れていたのは色男の方では無く、殴りかかった大男の方。
腰の剣も引き抜いて居ない所を見ると、素手で殴ったのか!?
殴って自分の倍もある大男を気絶させたのか!?
うわー・・・見ときゃ良かった・・・

「キャー素敵ー!!」

 ますます高まる女の悲鳴。周りで見ていた旅人も拍手を送る。
しかしその少年は笑顔ひとつ見せず、また瞳を凍らせていた。

「・・・・・・愛想ねぇな・・・」

 先程から噂の男を見ているこの少女の名前は”ユナ”。
ワケあって魔物のスライムと旅をしている冒険者だ。
魔物と一緒に行動を共にしていると言うのも不思議な話だが
ユナには魔物と心を通じ合わせる能力があった。
今まで何度も強力な魔物に襲われたが、この能力のおかげで命拾いした事も多かった。

先ほども述べた通り一応女なのだが、周りはきっと男だと思っているだろう。
体と顔をほぼ覆ってしまうほどの鉄の鎧と兜に、背丈ほどもありそうな大きな剣。
ぞっとしてしまう程の重装備だった。

人々の興奮冷めやらぬうちに、少年は好奇の視線に見送られさっさとその宿場から出て行った。

『最強の剣を探している』
その噂。その強さ。その誰も近づけようとしない凍った瞳。
ユナ自身も他人とは関わり合いにならない性格ではあったが、その少年の事がどうしても
気になってしばらく後を付けてしまった。どうせ行き先はサンマリーノ。
同じ街道を辿るのだから後ろからついていっても怪しまれはしないだろう。

とタカをくくっていたのだが・・・。
前を歩いていた色男がくるりと振り返ったのには驚いてしまった。

「・・・・・・お前魔物使いなのか?」

 ユナの目の前まで歩み寄り、そう声を掛けてきた。
唐突な出来事に思わず体が固まる、そんなユナに気付かず少年は話を続けた。

「お前の肩に乗ってる奴、魔物のスライムだろ?」

「---------・・・っ!」

 ビックリして声が出ない。ユナに代わりスラリンが愛くるしい笑顔で頷いた。

「・・・こんな事言うのもなんなんだが・・・良かったら・・・途中まで一緒に行かないか?
どうせサンマリーノに行くんだろ?男同士二人旅ってのも暑苦しいが・・・魔物使いなんて
初めて見たんでな・・・興味が有るんだ」

 ホントに突然で何と言って良いのか分からない。

少年は戸惑うユナに瞳を少しだけ緩ませた。
先ほどの誰も寄せ付けない雰囲気とはちょっと違っていて
もしかしたら自分より背の低い男がいて嬉しかったんだろうか、
どちらにせよ、ユナは首を縦に頷かせるしかなかった。

「オレの名はテリー、最強の剣を探す旅をしている」





 一緒にサンマリーノを目指すことになった二人は襲ってくる魔物を振り払いながら街道を歩いた。

宿場でのやり取りでテリーが並の剣士じゃない事は分かっていたのだが
その圧倒的な強さに、ユナは目を奪われてしまっていた。
襲ってきた魔物の攻撃を軽々とかわし、剣を一振りしただけで魔物は致命傷を負わされ
逃げていく。そしてテリーは息も乱さずに何事も無かったかのように歩き出すのだ。
『最強の剣を探している』
その台詞はさすがに伊達じゃない。
こいつと一緒なら、サンマリーノにはすぐに着けそうだな。
心の中でそう呟いた。

しばらく歩くと、突然街道が途絶えた。
代わりにその場所にあったのは見渡すほどの大砂漠。
じりじり照らす太陽が砂に反射してムワッとした嫌な熱が漂っていた。

だが、おかしい、たしかこんな所に砂漠なんてなかったはずなのに。
街道のど真ん中にこんな砂漠が有るなら地図に載っててもおかしくない。

「1年前の大地震で地面が隆起して出来たんだな」

 心の中の疑問に、テリーが独り言の形で答えてくれた。
なるほど、あの大地震か・・・そういえば、ここに来る途中も森が無くなっていたり
同じように砂漠になっていたりという事があった。

「なんにせよ、迂回するよりはこのまま渡る方が早いだろう」

「・・・・・・!!??」

「見たところ、そんなに距離は無い。行くぞ」

 立ち往生する他の旅人を尻目にテリーは砂漠へと足を踏み入れた。
ザクザクと砂埃を巻き上げながら歩く彼に仕方なしに続いたが、砂漠の砂は想像以上に熱い。
思わず、男だと思われてる事を忘れて声を上げる。

「オイ!!お前、本気か!?この熱いのにこんな砂漠渡る気なのか!?」

「嫌ならついてこなくて良い。じゃあな」

 あっさりと手を上げて再び歩き出すテリー。
付いていこうかどうか迷ったが、確かにこの広大な砂漠は迂回するよりも
渡った方が早くサンマリーノに着きそうだ。
鎧の足当てだけを外して、慌てて彼の後を追った。

 じりじりと照らす太陽。体にまとわりつく熱砂。
砂漠に入ってそれほど時間も経っていないはずなのにユナの兜の中は汗でぐっしょり湿っていた。
ユナはその耐えられない不快感に何度も首を振る。
普通なら兜を取るところなのだが・・・・・・

「それにしても暑いな・・・お前、そんな格好で大丈夫か?」

 男だって思ってるんなら女だってバレちゃ気まずいよな・・・。
テリーの問いかけに大丈夫の意味を込め、首を頷かせた。

「・・・そうか、無理はするなよ」

 思いがけないテリーの気遣いに再び頷くと

「・・・・・・!?」

 大きな砂山の向こうに、殺風景な砂漠には似つかわしくない緑が見えた。

「オアシスか?珍しいな」

 ・・・水だーーーー!!!
この暑さから開放される嬉しさでテリーの言葉も聞こえない。
ユナはスラリンをつれて砂漠の休息地まで砂埃を巻き上げながら駆けていった。




「水だぁっ!水だ水だっ!!」 

 ようやく辿り着いたオアシス、そこには小さいながらも涌き水が溜まった湖があった。
周りには樹木が生い茂っていて日陰を作り更に涼しさが増していた。

ユナは、魔物や人の気配が無いか確かめると兜と鎧と服を脱ぎ捨てた。
そっと湖に入る。
冷たい。その冷たさが火照った体の熱を下げる。不快な汗もだんだん引いていった。

「はぁぁぁ・・・生き返るってのはこういう事だ・・・・・・」

「ピッキィピッキィー!」

 スラリンが湖に飛び込む、と同時に水飛沫が飛び散ってきた。

「わっ!バカ!こら!!濡れたらその後が大変なんだよ!鎧なんだぞオレは!」

「・・・・・・?」

 誰だ?こんな砂漠の真ん中で、女が水浴び・・・?
ユナの後を追ってオアシスに来たテリーであったが、湖で見知らぬ女を
発見して立ち止まってしまった。

太陽に照らされて光るイエローブラウンの髪が緑の中でやけに目立っている。
男のように短い髪に間違えてしまいそうだったが、体つきで女だと分かった。

「バカッ!やめろって!もうっ!」

「ピッキィィィ」

 はしゃぐ聞き覚えのある声と、一緒にいるのは魔物のスライム。
近くに脱ぎ捨てられているのは、鎧と兜とマント・・・!

「さてと、そろそろ行かないと・・・アイツ来ちまうな・・・・・・ん・・・?」

「・・・・・・・・・」

「ぅわっ!!!」

「・・・・・・・・・」

 最悪の出会い方だった。




「・・・・・・何故、嘘なんかついた」

 水浴びを終えて、元の鎧を着ては居るが兜は取っている。
もうばれてしまった手前、無理に被る必要は無かったから。

「えっと・・・・・・いや、何となく言いづらくってよハハ・・・・・」

 苦笑いと共に返す。

「勘違いしたオレも悪かったが、こんなご時世に女の一人旅とはな・・・
普通はキャラバンと一緒に行動するかパーティを組んで旅するもんだぜ。
女一人で旅をするなんてよっぽど腕に自信が有るのか、よっぽどのバカだ」

 ・・・・・・
感に触る言い方だったが、ユナは怒りを抑えてまた苦笑いで返した。

「お前だって、一人旅じゃねーか。それにオレはスラリンと一緒だから一人じゃないし」

「オレは強くなりたくて、最強の剣を探して旅をしている。お前みたいに
町から町へさすらうだけの気楽な旅人じゃないんだ」

「・・・はぁっ!?何も知らないくせにそんな言い方ってねーだろ!!
オレだって探し物を見つけたくて旅してんだぜ!?」

 我慢もそう長くは続かない。
テリーの言葉に、大きな声が出てしまう。

「たいした探し物じゃないんだろ。それにそんな剣の腕で良くここまでやってこれたもんだ。
今からでも遅くない、引き返してキャラバンたちと一緒に行ったらどうだ?」

「オレなんて、気味悪がって誰も近づかねーよ!スラリンを見ても魔物って理由だけで
疎んで傷つけて・・・お前がはじめてだったんだ・・・・・・オレに話し掛けてくれるやつなんて・・・」

 だから嬉しかった。
こんなオレに、魔物を連れて鎧で身を固めてるオレに一緒に行かないかって言ってくれて。
それなのに、女ってだけで嫌味を言われて、そうだ、なんで女ってだけでここまで
言われなきゃいけないんだ。たいした探し物じゃない??
聞いても無いのにどうして分かるんだ。
だんだんと腹が立って、塞き止められていた怒りが鉄砲水のように噴出した。

「ハッ!もういいよ!一緒に行ってくれなくてもよ!!こう見えてもオレは逃げ足だけは速いんだ
お前より先にサンマリーノへ付いてやるぜ!なんだよバーカ!!」

 感情のまま勢いで言葉を発すると
スラリンを連れユナはすぐさまテリーの前から走り去ってしまった。




「・・・・・・ホントに何だってんだよあの気障ヤローは!!
隠してたオレもオレだったけど、あんなに言い方ってないじゃないか!
なぁ?勘違いしたのは、テメーの方だろって!」

 広大な砂漠を一人で歩くユナの姿。
強い歩調に巻き上げられた熱砂が顔にまとわりつき、不快感に更に追い打ちを掛けた。

「あ〜〜〜っ腹立たしい!!なっ!なっ!スラリンもそう思うだろ!?」

「・・・・・・フル・・・・・・フル・・・・・・」

「・・・・・・・・・スラリン?」

「ピキイィッ!!」

 叫び声と共にスラリンはユナを押し飛ばした。

「・・・うわっ!!」

 砂埃が舞い上がって、地中から現れたのは尾に強い毒を持つ大さそり。
大きな牙のある口は、ユナの代わりに砂を食らっている。
間一髪、スラリンのおかげでユナは奇襲を免れた。

「あっぶねえ〜!サンキュー、スラリン。お陰で助かったよ!!」

 首を振って砂を払うと体制を立て直す。
大さそりはユナを見つけると再び鋭い牙で襲い掛かった。
ユナは背負っていた大きな剣を引き抜くと、そのまま目の前に身構えた。
勢い良く飛び掛ってきた大さそりは身構えた剣を横になぎ払う。
剣が宙に飛んだ。

「ピッキィ!」

 丸腰のユナに容赦なく牙が襲いかかる。
ユナの身を案じたスラリンが声を上げたが、その瞬間、大さそりから炎が上がった。
ユナの手から放たれたギラが、至近距離で大さそりを捕らえたのだ。

「ざまーみろぃ!!さっ、スラリン、今のうちに逃げるぞ!」

 地中に逃げ帰った大さそりを見届けて、ユナは剣を拾い走り出した。
自分のレベルじゃまともにやり合える相手じゃない。
一目散に逃げるが、目の前に轟音と共に砂埃が上がって何かが姿を現した。
炎はすっかり消えてしまっていて、ブスブスと焦げた甲殻だけがギラの痕跡を残している。
逃げ帰ったと思っていた大さそりだった。

「やっやべぇ!」

「ガァァァァッ!」

 砂と共に大きな尾を振る。フイを突かれたユナはその攻撃を避ける事も出来ずに、なぎ払われた。

「ぐっ・・・あ・・・」

 柔らかい砂がクッションになってダメージを和らげるが、打ち付けられた衝撃はすぐさま
立ち上がれないほど重い。
逃げる暇も無く大さそりは真っ赤な瞳で襲いかかってくる。
慌てて持っていた剣を身構えるが先程のダメージで体に力が入らない。

やられる・・・!

・・・その瞬間、強い突風がユナの横を駆け抜けた。
閃光が大さそりの体を突き抜けたかと思うと、紫の血が噴き出した。
大さそりはけたたましい叫び声をあげてそのまま地中へと潜っていった。

「・・・・・・あれ・・・?」

 逃げたのか?何が起こったんだ?なんか、一瞬風が吹いたみたいだったけど

「これだから女は嫌いなんだ」

 はきすてる様に言った。
振り向くと、青い帽子に青い服、体と良く似た細身の剣。
・・・・・・・・・テリーだった。
一瞬、自分の目を疑ったが、すぐに先程のやりとりを思い出して

「オメーかよ!!何でオレなんか助けんだ!!」

「見捨てて死なれたんじゃ後味悪いからな・・・それだけだ」

「余計なお世話なんだよ!誰も頼んでねーだろ!」

 一言お礼が言いたかったのに、気がついたらやはり違う言葉が出ている。

「オレに文句を言うのは勝手だが・・・そんな剣の腕じゃすぐに食い殺されるぞ。
キャラバンに頼るのが嫌ならオレが一緒に行ってやってもいいが」

「ああ!?んだよそのいい方!余計なお世話だって言ってるだろ!
そんなにオレに貸しが作りたいのか!?」

 普段なら喜んで付いていく所だが、先ほどの事が有った手前引くに引けない。

「・・・死んでも知らないからな」

 テリーはそう言ってサンマリーノに向かって歩き出した。

「ピキィ・・・?」

「だーいじょうぶだってスラリン、こんな砂漠なんか。魔物に出くわしたら逃げりゃいんだから」

 テリーが見えなくなるとユナたちは再び出発した。




 ずいぶん歩いた。日もだんだんと暮れてきていたが幸運な事に魔物には一度も遭遇しなかった。
砂漠地帯を抜け、ようやく安全な街道に出る。ちょうど砂漠を迂回してきたキャラバンとすれ違った。

街道は小高い丘を通り、森を避けるように蛇行しながらサンマリーノへと続いていた。
丘からは真っ赤に染まった海を見下ろす事が出来る。

「・・・・・・・・・」

 大海原に張り出した賑やかな港町サンマリーノ。
サンマリーノに行くのは初めてで、少し前までウキウキしていたはずなのに
何故か心が晴れない。

そんな妙な気分のままサンマリーノに辿り着く。ユナは街門を守っている自警団に

「あの・・・ちょっと聞きたいことがあるんですけど・・・
ここ数時間の間で青い服を着た小柄な剣士って通りました?」

「青い服を着た小柄な剣士?う〜ん・・・昼からずっとここに居るけど
オレの記憶にはないなぁ」

「ええ!来てるハズですけど!」

「いや、見なかったよ」

 もう一人の門番も同じような言葉を返す。

もうそろそろ夜になる。
オレより先に歩いてたくせになんでまだサンマリーノに着いてないんだ。
ユナは門番に頭だけ下げて街道を逆走してしまっていた。

「ピキィィ!ピキィ!?」

 驚いたスラリンが慌てて問いかける。
ユナはその問いかけに止まる事もなく、同じ道を駆けていた。

「どっちでもいい!生きてようが、死んでいようがオレには関係ない!
けど、けどな、借りはかえさねーと、やっぱ、・・・だよな!?」

 そうだ。さっき助けられた借りだけは返さないと・・・!
確かに見捨てて死なれたんじゃ後味悪いし・・・。
・・・いや・・・でも・・・まさか本当に死んでないだろうな・・・。

考えれば考えるほど足取りは速くなった。
もう二度と行かないハズだった砂漠に再び足を踏み入れる。
夜の砂漠は月明かりだけが頼りで心許ない。魔物に襲われてもこう暗いんじゃ不利だ。
そう考えながら、青い服の剣士を捜した。
深い砂に足を取られながらも、気障な台詞が耳につく剣士を探しまくった。

 ・・・・・・いつの間にか足元が見えないくらい、辺りは真っ暗になっていた。
しかしまだ目的のものは見つからない。

ああっ!もう!世話が妬ける・・・!
・・・見つからない憤りからなのか顔をブンブン振ると視線の先に人影らしきものが飛び込んできた。

「・・・テリー!」

 弾かれたようにユナは叫んだ。
・・・それもそのはず、テリーは膝をついた格好のまま動けないでいた。
彼の後ろにはここまでの道のりが分かる血痕が点々と残っている。
・・・・・・かなりの重傷だ。それでも歩こうとするテリーに、ユナは慌てて駆け寄った。

「・・・お前か・・・何しに来た・・・余計なお世話だ・・・」

「もういい、いいからしゃべるな!」

 ユナはそう言うと、テリーの傷口に両手をかざした。
何か呪文のようなものを呟くと白くて暖かい光がテリーを包み込んだ。
血は止まって傷がみるみる塞がっていく。

「・・・・・・これは・・・」

「ホイミだ。でも深い傷はホイミじゃなかなか治らねーから、もうちょっとここに居た方がいい」

 そう言って、今度は違う傷に手を当てる。

「・・・・・・お前、オレを探しに来てくれたのか?」

「バッバカヤロウ!何を勘違いしてんだよ!たまたま通りかかっただけだ!」

 ユナの言っている事は明らかに矛盾していた。
通りかかったのならサンマリーノの方から来るわけがないし、こんなに遅くなるハズも無いのだから。

「あっ、いや、違うな!貸し・・・いいや、借りだ、さっき助けられた借りを返したまでの事だ。
まぁ、見捨てて死なれたんじゃ後味悪いもんな」

 自分の矛盾に気付いて、自分で無理矢理訂正する。

「・・・もたもたしているわけにはいかない・・・」

 そう言うとテリーはよろつく足でやっと立ち上がった。

「だめだって言ってんだろ!何なんだお前!?」

「・・・こんな時に魔物に襲われでもしたらおしまいだからな」

「そりゃそうだけどよ・・・」

 憮然とした顔でユナは呟く、がその後

「・・・それにしても・・・薬草もそんなに持ってないくせに、こんな砂漠を渡ろうとするなんて・・・」

 ニヤニヤして指摘した。

「いいだろう別に!オレにはオレの考えがあるんだ!」

「へぇー考えですか・・・考えねぇ・・・」

 まだニヤニヤしているユナに、今度はテリーが憮然とした顔。
傷ついた体で無理矢理立ち上がるとスタスタ歩き出した。

「うっわースッゲェタフな奴だなー。そんな傷で良く歩けるな。まぁ、サンマリーノに付いたら
またホイミしてやるよ。ハッハ、オレに感謝しな」

 無視するテリーの後に付いていく。
三つの影は明るい月に照らされて、いつのまにか一緒に歩き出していた。

幸いにも魔物に遭遇する事なく無事にサンマリーノに到着する。
月の光がもう随分長く夜の町を照らしていた。
二人は適当に見つけた宿屋で部屋をとった。
部屋に入る別れ際、ユナは一応笑顔を返したが向こうは一瞥した後
何も返さず部屋に入っていった。

「・・・・・・」

 テリーか・・・やっぱり無愛想な奴だぜ・・・。

ユナは宿のベットに倒れ込んでそう呟くと、安堵と疲れから深い眠りについた。


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