▼青い服の剣士2...


バタン・・・・・・・・・どさっ・・・・・・

部屋に戻るなりユナは思い切りベッドに寝転がった。
同時に深いため息が部屋に落ちる。

きっと会わない方が良い・・・。

テリーは最強の剣を求めて、強くなろうとしてる。
自分の目指す道を険しくても進んでる。

そんな所で水を差せない。
再会して一緒に旅をする事になったら、また足手まといになる。
あいつの為にも、もう・・・・・・

「・・・ちがう・・・」

 小さく呟いて枕に思い切り顔を押しつけた。

本当はあいつの為なんかじゃない、オレの為なんだ・・・

オレと会ってどう思うだろう。
もしかしたらオレの事なんて、とっくに忘れてるかもしれない・・・
オレはこんなに思っていても・・・

「ユーナちゃん」

 誰も居ないと思っていた背後から声が聞こえたため、
ユナは飛び上がってびっくりしてしまった。

「何よ、その驚きようは・・・」

「ミっ、ミレーユさんっ、い、いたんですか?」

「いたんですかって・・・ここはユナちゃんと私とバーバラの三人部屋でしょ?」

 ああ、そうだ。ミレーユが言った通り、ここは三人部屋。
洞窟に行かなかったミレーユがここにいるのは当然だ。
慌てて謝るユナにミレーユはくすくすと笑いながら

「まぁいいわ。許してあげる」

 ユナの頭にポンと手を当ててテーブルに戻っていく。
なんとなくだが、ユナもテーブルに備え付けてある椅子に座った。

「・・・どうしたの?神妙な顔しちゃって。それに、どうして北の洞窟に行かなかったの?」

「・・・いや、ちょっと気分が悪くて・・・」

 少し間が開いて

「私には本当の事を言ってくれてもいいんじゃないかしら?」

 思わず反応してしまった。深いエメラルドの瞳は挑戦的な光を称えている。

「本当のことって・・・オレ・・・別に・・・」

 ミレーユは息をついて鞄から道具袋を取り出した。

「いいわ。自分で占ってみるから」

 ミレーユは袋から取り出したタロットカードを慣れた手つきでテーブルに並べていく。
こういうものには興味の無いユナであったが何故か目が離せないでいた。
美しい模様の描かれたタロットカードは本格的な雰囲気を醸し出している。

「・・・・・・」

 カードのめくる音だけが部屋に響いた。
結果が出たのかミレーユは腕組みをして、表に返されてある三枚のカードを見つめている。
ユナにはそれが何を現すのか分からなかった。

「おかしな取り合わせね」

 占った本人が眉にしわを寄せる。

「どういう、意味なんですか?」

 ミレーユはその綺麗な指を一枚のカードに押しつけた。
3枚の中でも一番目立つ黄色い縁取りのされたカードだ。
かろうじてユナにはその絵が”太陽”を表すものだと分かった。

「これ・・・他のカードと周りの色が違うでしょ?トランプで言えばジョーカーみたいなもので
他とは違う、特別な意味を持つカードなのよ。世界・・・いや違うわね
この場合は運命を現すカードになるのかしら?」

 自分に言い聞かせるように呟く。
ユナの反応を待たないまま、左上のカードに指を滑らせた。

「逆さのカード。運命の隣・・・?」

 また一人、呟いて考え込んでしまった。
指先が指し示しているのは世界その物が逆に映し出されたカード。
不審な瞳のユナにようやく気付いて言葉を続けた。

「このカードね、女の子を占う時にたまに出るカードなのよ。
逆さの男。女の子に意中の男性が居るって暗示。
つまり・・・ユナちゃんに例えるとあの青い服を着た剣士の事かしら?」

「んなっ!」

 予想もしていなかったミレーユの言葉に、素っ頓狂な声を上げて立ち上がってしまった。

「なっ何言ってるんですか急に・・・!どうしてなんでどうしてそんな話に・・・!」

「まぁまぁ、これはアクマでも私の仮説、たとえばの話なんだから」

「・・・・・・うっ・・・」

 冷静に返すミレーユに、何も言えなくなる。
耳まで真っ赤になった顔を隠すよう手で頬を押さえ、座り直した。

ユナの反応に笑みを零した後すぐさま神妙な顔に戻り、もう一枚のカードに指を添えた。
これはユナでも分かる。人の躯を象った死神の絵だ。
なんとなく不吉な予感がしてしまう。

「死神のカードだからって悪い意味ばかりってワケじゃないのよ。
たとえば逆さの男と死神は相性が良かったりするの。
二つのカードが暗示するメッセージは
物事の好転、別れ人との再会、新しい事の始まり・・・」

 ユナの胸中を読み取ったのかミレーユが付け加える。
再会・・・。その言葉がユナの胸を締め付けた。
ドクロの謎めいた黒い瞳を見つめるがこの胸のもやもやの答えを出してくれそうにない。

「凄いんだねミレーユさん・・・色々分かるもんなんだ」

「そう?お褒めに与り光栄です。なんて、ふふ。
実は昔、これで生計を立ててた事もあるのよ」

 おどけて返した。が、表情とは裏腹にミレーユはカードの結果が気になっていた。

ユナの手前、死神には良い意味も有ると言ったが
「破滅」「終わり」を示す事が殆どだった。
そして死神と最も取り合わせの悪い、運命や世界を表すカード。
抽象的に考えればユナの世界の破滅、終わり・・・。

旅をしていれば危険と隣り合わせなのも分かる。
分かるが、これほど決定的に不吉な事を現す結果が出るのも珍しい。
唯一の救いがその中に混じる逆さのカード。
運命の逆転。
先ほどユナに話した物事の好転に当てはまる暗示。
だが逆さの男は世界とは比べ物にならないほど弱い・・・。

・・・ミレーユは考えないよう、首を振り
並べていたカードをぐしゃぐしゃとまさぐった。





「・・・・・・で、ユナちゃんが北の洞窟に行きたくない理由だけど・・・逆さの男・・・
一足先に向かった青い服の剣士と関係があるのね?」

 血相を変えて否定する姿が思い浮かぶが、何も反応しない彼女に思わず拍子抜けする。
待ちきれず、ミレーユは再び問いかけた。

「・・・会いたくない理由でもあるの?」

 相手はしばらくして静かに椅子から立ち上がった。

「・・・良く分からない。会いたかったはずなのに、いざ目の前にするとどうしても言葉が出なくて、
体も動かなくて。
会っちゃったら・・・言葉を交わしたら・・・自分がどうにかなりそうで・・・怖い・・・」

 窓の側に立って、外の景色を見つめる。
ミレーユは初めて知ったユナの切ない思いとその心の脆さに
自分までも悲しい気持ちになったのを覚えている。

「その剣士とは・・・どういう関係なの?」

 人に干渉する事は好きでは無かったが、どうしても気になって尋ねた。
その言葉を最後にしばらく沈黙が続く。
ミレーユが切り出そうとしたより一瞬早く、ユナが話し始めた。

「テリーとは・・・仲間だったんだ。目的が似たようなものだったから一緒に旅をしてた。
テリーは昔から凄く強くって・・・いつも助けてもらってばっかりで・・・。
オレはホイミしか出来なかったけど、それでも一緒に旅出来て嬉しかった。
でも戦いの中で離ればなれになっちゃって・・・それっきりなんだ」

「それじゃ別に、会いたくない理由なんてないんじゃない?」

 ユナは少し考えて振りむいた。

「色々とあったりなんかするんですよ」

 彼女なりにいつも通りの笑顔を返したつもりだが、それはいつもとは少し違っていて。
ユナがベッドに戻っていく途中で、ミレーユが尋ねた。

「好きなのね、テリーって剣士のこと」

 ピタっと足が止まる。こちら側からは表情は読みとれない。ユナは少し顔を上にあげて

「・・・・・・・・・もう、ミレーユさんにはなんでもわかっちゃうんだなぁ」

 肯定の意味を持った言葉を返す。
少しだけ時間が止まったような錯覚に陥ると、ユナは思い切りベッドに倒れ込んだ。

「・・・本当は会いたいんでしょ?」

「・・・・・・・・・」

 ミレーユの問いかけに肯定も否定も出来なかった。

「大丈夫よユナちゃん!私のタロット占いによれば、あなたと剣士さんの相性はとっても良いわよ!」

 ユナを元気づかせようと言った事だったが、決して嘘ではなかった。

「・・・ありがと、ミレーユさん」

 ベッドに座る形で上半身を起こす。
優しげな笑顔を返してタロットを道具袋に直し込むミレーユ。
ユナは、出逢った頃からずっと思っていた事を言おうか迷っていた。

「どうしたの?まだ何か悩んでる事でも有るの?」

 ユナの視線に気付いて向こうから尋ねてくれる。

「いっ、いえっ、なんでもないんです」

 やっぱりオレが言う事じゃない。
心の中のミレーユと今のミレーユが重なった。
そうだ、テリーが本当に探してるのはミレーユさんなんだよな・・・。

考えながら再びベッドに身を寄せる。
久々の暖かいベッドは長旅の疲れを誘うには十分でいつの間にかユナはうとうとしたまま
眠りに就いてしまった。

そんなユナを見つめながらミレーユは呟いた。

「・・・テリー・・・か・・・」


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