▼銀髪の悪魔...


マウントスノー山脈からの冷たい風が吹き込む港町。
そこの酒場で、一人の旅商人が青い顔で同僚に話を切り出した。

「オレ、昨日とんでもないモンをみちまったんだよ!」

 暖められた酒をガタガタ震える手で口に運ぶ。
隣に座っていた酔った男が大笑いしながら、丸まった商人の肩を叩いた。

「なんだぁ?雪女でもみたか?」

「雪女か・・・寧ろそっちの方が良かったのかもしれねぇ・・・」

 まだ真っ青な顔の商人に初めは冗談交じりだった同僚たちも
神妙な顔付きに変わっていく。

「昨日の夜、荷馬車の様子が気になって馬小屋へ見に行った時の事なんだけどよ・・・
イーブルフライの大群が街道を横切って行ったんだ」

「うっひゃぁ!みつかんなくて良かったなぁ!夜のあいつらは気が立ってるからな
見つかったら間違いなく襲われてあの世行きだったぜ!」

 商人はゴクリと息を飲んで頷くと話を続けた。

「慌てて逃げようとした時だった。イーブルフライの大群が悲鳴や血しぶきを上げて
倒れ出したんだ。ほんの一瞬だった。数十匹いたハズの魔物が全て絶命したのは。
魔物の代わりに目の前に現れたのは真っ赤な返り血を浴びた男と、血を吸った赤い剣。
人形みてぇに気味がワリィほど綺麗な顔に、魔物みてぇに光る紫の瞳・・・
髪は真っ白な銀髪で・・・人間なのかも疑った。殺されるかと思って腰が抜けた・・・。
ありゃあ・・・ありゃあ一体なんだったんだ・・・!?」

 頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
ターバンを纏った別の商人が、パイプの煙を吐きながら

「銀髪に紫の瞳か・・・もしかするとそいつは”青い閃光”かもしれねぇな」

 思い出して呟いた。頭を抱えていた商人が怪訝に顔を上げる。

「”青い閃光”?なんだいそりゃあ」

「最強の剣について嗅ぎ回ってる流浪剣士の通り名だよ。誰もそいつの本当の名前はしらねえ。
噂によると、恐ろしく腕の立つ剣士だって聞くぜ。早すぎる剣筋が青い閃光のように見える事から
その名がついたらしい。オレも一度だけ会った事が有るが、口も態度も悪い
いけ好かない男だったぜ」

 顔を上げた商人はまだ頭を抱え込んだまま、ブンブン頭を振った。

「青い閃光か・・・そんな生やさしいもんじゃなかった・・・。あれは・・・そう、悪魔・・・
銀髪の悪魔だ・・・・・・」




 カルベローナでラミアスの剣が氷の山の洞窟に眠っていると言う話を聞いて
ウィルたちは思い当たるマウントスノーへと赴いた。
相変わらず寂しくて活気のない港町。
ユナは木枯らしの吹く寂しい街並みを見つめながら懐かしい思いに駆られていた。

テリーと最後に旅した地、マウントスノー。
あれからもう、1年も経つんだな・・・・・・。

アモスとの出会い、ウィルたちとの冒険
1年で自分の周りに色んな事が巡っていったが、テリーの姿は全く色褪せる事は無かった。
ハァっと白い息が口から漏れる。

テリー・・・元気で居るかな・・・・・・




「いやぁっ!お客さん危なかったですねぇー!いや、じつはねえ、前から宿屋を潰して
別の店にしようって事だったんだけど、まだ改装の途中なんですよ。
だけど、お客さんたちが泊まる分の部屋ならギリギリであいてますから、ご心配なく」

 ようやく見つけた宿に入ると、人の良さそうな中年の男性が迎えてくれた。

あのオヤジだ・・・。ここは一年中改装してるのか・・・・。
1年前の出来事がユナの頭を過ぎる。

顔を見られないように通り過ぎようとすると

「あーっ!あなたはもしや、あの剣士・・・!」

「オヤジーっ!久しぶりーっ!」

 オヤジの手を掴んで、慌てて声を被せた。

「ユナの知り合いか?」

「うん、そう。懐かしくなってね。あ、先に行ってていいよ」

 やっとの事でウィルたちを追い出したユナは、宿のオヤジに目を向ける。

「私のこと・・・覚えててくれたんですねぇ」

「・・・あ・・・ま、まあね」

 ユナは人差し指を突き出して

「あの・・・お願いだからテリーとオレのことは秘密にしておいてくれないか?」

 真摯に頼むユナに、オヤジは不審な顔で

「何故です?・・・!!まっまさか貴方、連れの男達の誰かと浮気でもしてるんじゃ・・・っ!」

「オヤジ・・・・・・」

 ユナの目が違う意味でだんだん本気になっていく。

「ジョッジョーダンですよ!オヤジのお茶目なジョーダンにそんなに目くじら立てなくても
いいでしょうに・・・まったく最近の若者は・・・」

 さすがのオヤジは青くなってそそくさと戻っていった。





 港で旅の計画を練って次の日の朝。久々に晴れた青空にファルシオンを走らせた。
目指すは街道沿いにあるマウントスノー。
ファルシオンが頑張ってくれたお陰で予定より早くマウントスノーへ辿り着く事が来た。

マウントスノーに着くと、思った通り、一年前と変化は無かった。
止まる空気に、人っ子独り居ない街並み、そして独り街に住んでいる老人。

ウィルはユナが以前会った事のある老人ゴランに、不思議な街の現状を問いただした。
ゴランはもうろくしているのかユナの事は忘れているようだった。

何も言ってくれないゴランに仕方なく街の事は諦めて、馬車を街から北に走らせた。
そこで偶然奇妙な祠をみつけた。
そこには厳寒な雪山に相応しくない美しい女がいた、
訪ねてきたウィルたちに嫌悪の視線を向ける。

「ゴランから言われて来たのですか?」

「え・・・?」

 雪女はしつこく問いただしたが、ウィルたちはゴランから何も聞いてはいなかった。
しかし、その女ユリナがしつこく聞くものだから、ハッサンがついに怒り出してしまった。

聞いてもいないことには答えられないと。

その言葉を聞くとユリナは息をついて、奇妙な言葉を発した。

「ゴランは懲りたようね・・・。もう50年・・・彼も反省したでしょう。
マウントスノーの呪いは解いてあげるわ・・・」

「・・・え?」

「でもこれだけは覚えておいてとゴランに伝えて。今後誰かに私のことを話したりしたら・・・」

 これ以上無いくらい冷たい空気がその場を包み込む。
あまりの寒さに目を伏せた瞬間、女はそこにはいなかった。
声だけが響いている。

「永遠に氷付けにしますからねって」

 ポカーンと口を開けたまま、皆は言葉を無くす。
雪女・・・。と言う言葉が皆の脳裏に浮かぶが、それと同時に先ほどの女の台詞も浮かんで、
皆は引きつった苦笑いをすると無言で街へ戻った。





「ゴランさん」

 マウントスノーに戻ると早速ゴランの元を訪れた。
相変わらず、暖炉の側のチェアーに座って鋭い目でこっちを睨んでいる。

「・・・もうここには来るなと言ったはずじゃが?」

 パイプを吹かしながらゆっくりと立ち上がった。

「呪いは解けましたよ」

「・・・・・・・・・!?」

「50年間ご苦労様」

 ウィルの後ろでバーバラがピースした。

「何と・・・!あんたがたもしかしてユリ・・・」

 慌ててチャモロがゴランの口を塞いだ。

「気をつけて下さいよ」

 眼鏡を片手で整え直した。

「もう孤独な人生はこりごりでしょう?」




マウントスノーを包んでいた淀んだ空気は消え、風が街を吹き抜けた。
どことなく暖かいその風は、降り積もったマントスノーの雪を溶かしていく。
街の人々は何事も無かったかのように、家から出てきて普段の生活に戻っている。

そうだ、ここは確かに時間が凍っていたんだ。ゴランを除いては・・・。
涙目になってウィルたちにお礼を言うゴランに首を振る。
昔山賊が住処にしていた洞窟の場所と、封印を解く方法を教えて貰ったウィルたちは
急いでその洞窟へ馬車を走らせた。





「うおっ!寒!!」

 あまりの寒さに考えるより言葉が口を着く。
今まで馬車でぬくぬくとした毛布にくるまって寝こけていたから良かったものの
馬車から一歩外に出た途端、脳が寒さに驚いて目を覚ましてしまった。
ウィル、ハッサン、ミレーユ、ユナは伝説の剣が有ると言う噂の洞窟へと足を踏み入れた。

「オイ、あれ」

 誰ともなくハッサンが呟く。

「テリーって奴じゃないか?」

「・・・・・・・・・っ!」

 その言葉にユナは一気に寒さが吹き飛んだ。
同じように毛皮のコートを羽織っているが、見覚えの有る不格好なあの帽子は。
紛れもない、テリーだった。

テリーは封印を解いて洞窟に入っていく。
そう、テリーは封印の解き方を知っている。
昔、ユナと一緒にここに来たことがあるから・・・。

「なんであいつあんな事知ってるんだよ、先を越されちまったな」

 ウィル、ハッサンが慌てて剣士の後を追った。
固まっているユナにミレーユが心配そうに声を掛けた。

「大丈夫?ユナちゃん。今回も馬車に戻って休んでた方がいいんじゃない?」

「大丈夫。ここまで来て戻るわけにはいかないよ。皆にも迷惑かけることになるし・・・」

 フードを取ってはにかんだ。ユナの瞳は暗闇に消えたテリーの後ろ姿をずっと追っていた。
ミレーユはポンポンと肩を叩くと、ウィルたちの後を追った。





「ウワァッ!ギャァァァ!避けてくれー!!ハッサン!!」

「バッバカ!んな急に避けられるか!!」

 滑る氷の床にすっかり翻弄され、ユナの意に反して足が滑る。
目の前に居たハッサンを道連れにして二人、壁に激突した。

「いったたたた・・・」

「何回目だよ、ユナ」

 ウィルが苦笑して駆け寄った。

「いつ剣がみつかるんだよ・・・もう体もたねえよ・・・」

「もうすぐよ、きっと」

 ハッサンの手をとってミレーユは微笑んだ。
ようやく氷の床を抜けて、奥へ奥へと進むと大きな部屋へ出た。

ここは・・・剣の有った部屋・・・
1年前を思いだして、ユナの足が止まった。
部屋の中央に有る台座には、1年前と同じように剣が安置されていた。
皆は喜々として駆け寄ろうとすると

「どけ」

 背後から聞こえた低い声に、足がすくんだ。女二人がほとんど同時に。
ユナは振り向けなかった。フードをめいっぱい深くかぶって、金縛りにあったようにぴくりとも動けない。

「おっ、お前は・・・アークボルトの・・・!!」

 突然現れた声の主にハッサンが叫んだ。
コートを羽織ったテリーはこちらを振り向きもせずに台座の剣を手に取った。
一年前、見張りがいたはずの剣だったが、今はもう誰もいない。
テリーは剣先に指を滑らせると、顔を強ばらせて

「なんて事だ・・・これは・・・そうか・・・魔物の仕業なのか・・・」

 額を押さえて首を項垂れさせる。
ウィルたちからも見えるその剣は、形だけがようやく分かるほどに錆び付いていた。

「こんな剣の為にオレは・・・・・・」

 錆びだらけの剣をその場に投げ捨て、愕然としたまま踵を返した。

「ちょっと・・・君」

 呼び止められ無言のまま振り向いた。鋭い瞳に言葉が止まるがウィルは手を差し出した。

「腕・・・怪我してるだろ?良かったら見せてくれないか?」

「オレに触るな!!」

 バシッ!ウィルの手を乱暴に弾いた。
冷たい空気がもっと張りつめる。テリーはウィルたちを見回して

「その錆び付いた剣はお前らにやるよ。仲良く洞窟探検してるようなお前たちには
似合いのシロモノだろう」

 錆びた剣に目線を落とすと、首でそう促した。

「なっ・・・んだってぇ・・・!」

 ハッサンの顔が怒りで真っ赤に蒸気していく。ウィルは制止するように右腕を
ハッサンの前に伸ばした。

「君は確かに強い。でも、独りで居るとどうしても見えない物が出てくる。
それを、仲間たちは教えてくれる。だから、オレの仲間を悪く言うのはやめてくれないか」

 テリーを見つめたまま真剣に言った。テリーはバカにしたような笑いを含ませて

「ハっ、それは教会かどこかの受け売りか?見えない物が出てくる?一体何を言ってるのか
さっぱり分からないな。独りで過ごせば緊張感が高まる、その緊張感の中で剣を振れば
集中力も増す。騒がしい仲間なんて、邪魔になるだけだ。」

「仲間を思う心は時には、何物にも負けない刃になる。君が探してる最強の剣よりもね」

 テリーはふっと鼻で笑った。

「・・・奇弁だな。心なんかで魔物は殺せない」

 そうだ、思うだけじゃ助けられない。
現実は残酷だ。それをテリーは痛いほど理解していた。

「思うだけじゃどうにもならない!力がなければどうにもならないんだ!お前だって
それぐらい分かってるはずだろ!?仲間を助ける為には本当は力が必要だって・・・!」

 いつしか沸き上がる葛藤にハっとして、テリーは背を向けた。
過去の過ちが知らない内に蘇り、テリーを支配していた。
チッと舌打ちすると

「・・・・・・あばよ」

 そう吐き捨て、闇へと消えていった。

「・・・・・・・・・」

 思い詰めた瞳でテリーを見送る3人に対し、ハッサンだけが怒りでわなわなと震えていた。

「どっどっどっどっ・・・!」

 プッチン。

「どーしてやろうかあのクソガキィィィ!!」

「うっわ!ハッサン!ちょっと落ち着けよ!!」

 洞窟内が一瞬揺れた。

「これが落ち着いて居られるか!むなクソわりぃぃぃぃ!!!なんなんだ、なんであんな奴が
この世に存在してるんだ!?」

 ハッサンの言う事も分からなくはなかった。
ユナやミレーユは仕方ないにしても、ウィルの心も広すぎて。
ハッサンだけが素直に怒りを露わにする。

「・・・・・・」

 そんなハッサンとは対照的なユナ。イエローブラウンの瞳が黒く濁っていた。
テリーの去った黒い闇をずっと見続けていたせいだろうか。

出会った頃と同じように鋭く冷たい瞳。
『騒がしい仲間なんて邪魔になるだけだ』
その言葉が自分に向けられた言葉のような気がして、ますますテリーが遠くなった。
心にしんしんと辛さや切なさが降り積もる。

そんなユナを見かねてからかミレーユが

「ねぇ、そう言えば・・・ロンガデセオに腕利きの剣職人がいるらしいのよ。そこへ行ってみない?」

「ロンガデセオ・・・?聞いたことないな」

 錆び付いた剣を力無い瞳で見つめながらウィルが言った。
ユナもハッサンもようやく我に返ってミレーユの言葉を待っている。

「マウントスノーから西に行った大陸にある街なのよ」

 ロンガデセオ。
そう、ミレーユが昔とある事情で世話になった街だった。

「それは良い考えかもな。もしかしたらこの剣を元通りにしてくれるかもしれないし・・・」

 錆びた剣を鞄の中に押し込んで、ウィルはミレーユの言葉に同意した。




 マウントスノーから南へ下った小さな宿場。
冷え切った宿の屋上でユナは一人空を眺めていた。
澄んだ空気がいつもより星を綺麗にする。遠い記憶の中でいつの日か見たオーロラが蘇っていた。

「・・・・・・・・・」

 かじかむ指先でユナは笛を奏でた。
テリーへの想いを音色に込める事で胸の苦しみが和らいでいくように感じた。

ユナの想いが強くなる度、旋律はもの悲しさを増していくようだった。




ひんやりと冷たい空気が体を突き刺す中で、テリーは独り野宿をした。
すこし歩けば小さいながらも宿場があったが、敢えて野宿を選んだのは不甲斐ない自分に対しての
贖罪だったのかもしれない。

シン・・・風の音も無い静かすぎる夜。
自分以外の生物が全く居ない、世界でたった独り取り残されたような錯覚。

ゆらめく炎に銀髪と、テリーの辛そうな顔が照らされた。

・・・苦労してようやく手に入れたと思った剣が、錆び付いてどうにもならないシロモノ
だったなんて・・・・・・
あいつをあんな目にまで遭わせたって言うのに・・・

パチパチと燃える炎の先に、かつての仲間の姿はもう、無い。

「・・・・・・・・・!」

 ふと、遠くから懐かしい音色が聞こえた気がして
テリーは思わず立ち上がってしまった。
しかし、耳を澄ませど懐かしい音色は聞こえない。アークボルトの時と同じ空耳だったのか・・・

「・・・・・・チッ!」

 行き場のない虚しさと憤りが募る。
もうあいつはどこにも居ないんだ
そうだ、オレに力が足りなかったせいであいつは・・・・・・

「・・・くそっ・・・!!」

 バチィッ!
手元にあった小石を焚き火に投げ入れると、音を立てて弾けた。

最強の剣・・・
力が欲しい・・・
それを得るためならなんだってやる、どんな事だってやるのに

「どこに有るんだ・・・最強の剣・・・最強の証・・・」

 羊皮紙の世界地図を広げると、マウントスノーと書かれた場所に
燃えかすの炭で×と大きく記した。
見るとマウントスノー以外にも、色んな地名に×と記されている。
それは世界地図の殆どを埋め尽くしていた。

最後の希望だと言っても過言じゃなかった。
力をつけて挑んだ氷の洞窟。だがそこに合ったのは錆びて朽ち果てた剣。
強くなる旅はここで終わりだと言われている気がした。
最強の剣なんて、何処にも無い、夢物語なんだと・・・・・・。

お前はもう、強くなんてなれないんだと。




『最強の剣士になりたいんだろう』

 ああ、またこの夢だ・・・。夢の中でテリーはそう悟った。
いつの間にか眠ってしまったらしい、いつも見る悪夢に迷い込んでいる事に気付いた。
もう、あの時以来見ないと思っていたこの夢は、ここ最近毎夜テリーを苦しめる。
気味の悪い黒い影は、テリーの剣を弾いて逆に自分の剣をテリーの鼻先に突きつけた。

『我が元に来い。さすればお前は最強の剣士になれる。魔族の王が誓って言う。
素晴らしい素質、尽きる事の無い欲望、闇の力。それら全てをお前は持っている
美しい剣士、テリーよ・・・』

 黒い手が無数に迫ってくる。
気持ちの悪い黒い影。夢の中のテリーはいつもそれに怯えて、ただただそこから
逃げようとするだけだったが何故か今日は違っていた。

『テリーよ・・・もう分かっているんだろう。
お前は強くなどなっていない。誰も救えずに、最強の剣も見つからなかった。
それがお前の現実だ』

「・・・・・・・・・っ!」

 いつもと違う影の台詞にテリーは胸を貫かれた。
跪いたまま拳を握りしめる。虚しさ、悔しさ、絶望、それら全てが駆け抜けていく。
差し出された黒い手。この手をとれば本当に強くなれるのか
身を任せれば本当に強くなれるのか。

強くなるためにはどんな事をしてもいとわない。

今のテリーは悪夢にさえ、すがりつきたい気持ちだった。

「・・・本当に、お前の言う通りにすればオレは強くなれるのか・・・?」

 何も考えられずに言葉だけが口から漏れた。
影はその言葉を聞いて一瞬笑った気がした。

『勿論だとも・・・』

 言葉と共にパチンと指を鳴らした。
暗闇の中、フっとテリーの前に姿を現したのは

「・・・・・・・・・!!」

 目に見える程強い魔力を放っている柄も刃も真っ赤な剣。
見た事もない強い力を放つ剣に、全てが奪われた。我を忘れて剣に駆け寄るが
強い魔力で弾かれる。

『しがみつくか?最強の剣に?』

 探し求めていた剣が今、目の前にある。
影の言葉は耳に入らなかった。

『よかろう、くれてやろう。
お前にはもうその剣にしがみつく以外に道は残されていないからな・・・』

 真っ赤に裂けた口と鋭い牙。ニヤリと笑って指を鳴らすと制御されていた剣の力は
より一層高まった。
剣を取り巻く凄まじい闇の力。
テリーは無我夢中で剣を手にとって引き抜いた。
体から力が溢れてくる、これだ、これこそオレがずっと求めてきた・・・

「最強の剣・・・!!」

 悪夢だろうが闇の力だろうがどうでも良かった。
最強の剣が手に入った。最強の強さを得た。

辛くても苦しくても耐えてきた日々は無駄じゃなかった。
これでようやく・・・・・・ようやくオレは・・・

「ハハ・・・ハハハ・・・」

 剣から伝わるは込み上げる闇の力。
それは体に伝わって今にも溢れそうだった。誰にも負ける気がしなかった。

「アーハッハッハッハ!!」

 力と共に笑いまでも込み上げる。
闇の力がこんなに強大で心地良い物だったなんて。

放たれた力はテリーを包み込み、一気に弾けた。

そしてテリーは、闇に飲まれた。





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