▼天翔る城...


 ウィルは興奮を隠せないでいた。

ウィルの本当の故郷レイドックで貰ったセバスの兜、
錯綜する情報を得て苦労の末やっと手に入れたスフィーダの盾
現実の世界と夢の世界を行き来して手に入れたオルゴーの鎧
そして、剣職人サリィに託したラミアスの剣・・・・・・。

全ての伝説の武具を集めたものは神の城に行けると言う噂だ。
ぶるっと思わず身震いをした。
ユナもまた。
いや、ユナはもっと心期待に胸を膨らませているかもしれない。
記憶が無い中で唯一覚えていた伝説の武具の事。神の城へ行く事。
探し求めていた記憶が戻るかもしれないからだ。
高ぶる興奮を抑え、一行はロンガデセオへと向かった。





「サリィさん!」

 脇目も振らずウィルたちはサリィの仕事場に駆け込んだ。

「なっなんだい!いきなり!ったく、人ん家あがる時は呼び鈴ぐらいならすもんだよっ!
ま、それ所じゃなかったとは思うけどね・・・剣が欲しいんなら持っていきな。
昨日打ち終わったばかりだよ」

「あっ、ありがとうございます!」

 サリィのすぐ後ろのテーブルの上に、光沢に光る美しい剣が置いてあった。
あの錆ついた剣と同じ物だとは到底思えない、サリィの腕前に皆は感動にも似た感情を覚えた。

「これは・・・この輝きは・・・」

 眩い光りを放つ刀身にハッサンが息を飲んだ。

「この輝きと魔力・・・間違いなく伝説の剣だわ」

「やったー!!これで全部揃ったのねーー!」

 ミレーユとバーバラは喜びをそれぞれの言葉で表現する。
ユナは勿論の事、ハッサン、チャモロも心に沸き上がる高揚を感じていた。
ウィルはそっと柄に触れ、剣を手にする。心に不思議な懐かしさを感じた。

「これからよろしく。ラミアスの剣・・・」

 そのウィルの言葉に、皆微笑ましくなる。
そして、彼の為にここまで頑張って良かったと、心からそう思った。

「すごいっ!何だかウィルじゃないみたいだわっ」

「一言余計だよ、お前は・・・。本当はウィルに見とれてたんだろ〜?」

 バーバラの言葉にいつものようにユナが突っ込む。

「なっ!何よー!アタシは、ただウィルがこんなにたくましくなってくれて嬉しいだけよっ!
だって、だって、そうでしょっ!?」

 バーバラの言うことも最もだった。
伝説の武具を身につけたウィルは、ちょっとおっちょこちょいでお人好しのウィルではもう無くなっていた。
伝説の勇者。
その肩書きが似合う若者に成長していた。

「そうだ、その剣の柄にある石を見てみな」

 ウィルは柄の部分にはめ込まれた宝石に視線を落とした。
紫に光る宝石の中に稲妻のような模様が刻み込まれていた。

「・・・これは?」

「鍛え直していたら、そこに埋め込まれてある宝石の模様が急に光り出してね
何なのかは分からないけど、妙に気になるんだよ」

 ウィルは無言で稲妻の模様を見つめる。皆も不審な目で剣を覗き込んだ。

「あっ、これ・・・。オレ、最近どっかで見たことがあるんだけどなぁ・・・」

「あっ、アタシもあるよっ!」

 ハッサンの言葉にバーバラが元気良く手を上げる。

「ああ、それならここに・・・」

 チャモロはウィルが背負っているスフィーダの盾に手を当てて

「ほら、ここにも何か印のような物が・・・」

 盾の中心に埋め込まれている宝石、その奥には十字架のような模様。
まさかと思い、ウィルは鎧にはめ込まれている宝石を確かめた。
思った通りハートのような模様が刻まれている。
そしてセバスの兜には太陽のような模様。4つ全てに金色の模様が刻まれていた。

「これは・・・どういう事なんだ?」

 握りしめていた剣の模様をもう一度見つめた。稲妻の模様からは微かに魔力を感じる。

「伝説の武具なだけあって、凝ってるねぇ」

 うんうんと感心するハッサンに拍子抜けして、ウィルはミレーユへと視線を移した。

「ごめんなさい・・・私にも分からないの。分かっている事と言えば、伝説の武具を集めた者だけが
神の城に行けるっていう事だけ。でも、これもある意味不確かな事なのかもしれないわね。
抽象的な言葉だけで、詳しい事は何一つ分からないんだもの」

 申し訳無さそうに首を振った。そんな折

「ピッキー!」

 ユナの外衣から青い物体が飛び出した。ユナの肩に飛び移り、なにやら話し出した。

「本当か?スラリン?」

「ピッキー」

 周りの皆はスライムの言葉が分からない。スラリンと話し終わったユナの言葉を待った。

「あのさ、スラリンの話だとこの世界の何処かに竜の祠って言う所があって
そこが神の城へ通じる場所なんだって。伝説の武具を集めてそこへ向かえば神の城へ
導かれる、そういう言い伝えが魔物の間にもあるらしいよ。」

「・・・竜の祠か・・・聞いた事が無いな」

 皆が旅の記憶を辿る中、サリィが

「あのさ・・・アタイは伝説とか神の城とかって良く分かんないんだけどさ。
ここから南西の、ガンディーノから西に船を走らせた場所に
竜の神様を祭る祠があるらしいんだ。試しに行ってみたらどうだい?」

「竜の神様か、なんとなく怪しい気するな、スラリン」

「ピッキィ!」

 ユナとスラリンがサリィの言葉に同意する。皆同様に頷いた。

「サリィさん。何から何まで、本当にどうもありがとうございます」

「よせよ。恩着せがましくなるだろ?」

 両手で思い切り握られたウィルの手を、サリィは恥ずかしげに振り払う。

「その変わり・・・」

 後ろを向いて背を向けた後、こちらを振り向いた。

「約束は守ってくれるよな?」

 約束とは、平和のために剣を振るうと言うこと。

任せてくれよと言わんばかりにハッサンがウィルの肩に腕を回す。
ウィルも、もう一度しっかり頷いた。





 サリィの言葉を頼りに、人々の情報も交えつつウィルたちは祠へ向かった。
昔は信仰深かった人々や神官がその祠を定期的に訪れていたらしいが
魔物の増えた最近では行き交う人々はほとんどいなくなってしまったと言う。
舗装されていたであろう荒れ放題の道を必死で馬車を進める。
朽ちた看板を目印にやっとの事で祠らしき所へとたどり着く事が出来た。
そこは伸びきった草の蔓が絡みついて、栄えていた頃の見る影もなくなっていた。

怪我をしたハッサンとチャモロを馬車に、仲間モンスターに見張りを頼んで
ウィル、ミレーユ、バーバラ、ユナはその祠へと足を踏み入れた。

固く錆び付いた扉を何とか押し開けると・・・そこはなにもない、空っぽの空間だった。
天井は無く、青い空が頭上に見える。
視線の先に、色とりどりのステンドグラスと今にも羽ばたきそうな竜の石像が祭られているだけ、
ミサで使われそうな祭壇も長椅子も何も無い。

「やっほー!おーい!誰か居ませんかー?」

 ユナが条件反射で叫んでみる、声だけががらんとした空間に響いた。
拍子抜けしたと共に緊張感の切れた4人は散り散りに辺りを散策する。
と、ミレーユが何かに気付いた。

「あ・・・これ・・・!」

 屈んで、床を手で確かめる。声に反応してミレーユの元に駆けつけると
床には縦横一丈ほど有りそうな石版が埋め込まれ、そこには見覚えのある模様が彫られてあった。

「あーっ、この模様は・・・!」

「この太陽の模様って、あれじゃない!あの伝説の武具のやつ!!」

「それに!これの石版、重いけど動くぜ!良く見たらあっちにもこっちにも
同じような石版が有るみたいだ!」

 興奮気味に叫ぶ三人。

「そうね、この模様は伝説の武具の物と一致するわ。でも、気になるのはここ」

 ミレーユが指さした場所を見つめる。石版の有る床の上に、鎧の絵が彫られてある。

「この鎧の絵はオルゴーの鎧を意味してるんじゃないかしら?
ここにオルゴーの鎧と同じ模様の石版を刻めばいいのよ」

 洞察力鋭いミレーユはウィルの着ている鎧に目を向けた。
鎧の宝石にはハートの模様が刻まれてあった。

「じゃあ、ここはハートだな」

 ユナは祠内に置いてある石版からハートの模様を探した。
数ある石版の中からようやくハートを見つけると、ずるずる引っ張ってくる。
ウィルはそこにあった太陽の石版を外し、ユナの持ってきたハートの石版を埋め込んだ。

「・・・・・・」

 別段何も起こる気配はない。
気を取り直し、今度は剣の絵が彫られている場所に稲妻の石版を合わせ
盾の絵が書いてある場所には十字架の模様を合わせた。
淡々とそして着々と石版は正しい場所へと刻まれていく。

最後の稲妻の石版を合わせている途中、ユナは心の中に黒い影が通り過ぎるのを感じた。

「・・・・・・・・・どうしたの?」

 気分の悪そうなユナに気付いて、バーバラが声をかけた。

「・・・なんか・・・嫌な予感がするんだ・・・」

「・・・嫌な予感?」

 漠然とした恐怖は突然と胸の中を蝕む。

神の城。
そこへ行けば自分の記憶が戻るハズ。
それなのに、なんなんだこの気持ちは・・・。
神の城へは行っちゃいけない・・・!心の奥がそうユナに呼びかけていた。

しかし、時は待ってくれない。
全ての石版を合わせると、祠全体が音を立てて揺れ始めた。

「うわあっ!なんだこれっ!?」

 床全体から放たれた光は空を突き抜けた。
吹き抜けの空のもっと遙かまで光は進み、分厚い雲までもを貫く。
空を覆っていた雲がその光で晴れ渡ってしまうと・・・。そこには・・・

「・・・!天かける・・・城・・・」

 ぽかんと開いたウィルの口から信じられないような言葉が出た。
皆は一旦祠から出て、遠くから見上げると空に浮かぶソレを確認した。
晴れた空にポツンと浮かぶ巨大な古城。
それは昔、伝記の挿絵で描かれてあった天翔る城そのものだった。

「古代の文献で読んだ事があるわ・・・」

「そっ、そんな事言ってる場合じゃないよー!」

 ミレーユがいつもの話を切り出した所でバーバラが水を差した。
空に浮かぶ城は皆が一斉に目を向けた刹那、皆を迎え入れるようにゆっくりと地上に降りてきた。
その祠にちょうど収まる。まるでその祠は、城が降りてくる為に用意されていたかのようだった。

「・・・行ってみるしか・・・なさそうだな・・・」

 ウィルの言葉に皆は恐る恐る頷き、祠の扉を抜け、城へと繋がる巨大な階段を上っていった。
強固そうな城の扉はウィルたちを歓迎するかのように開いていた。





 城と言うよりは宮殿と言った方がしっくり来る荘厳にして豪華な造り。
エントランスを抜け、大理石の階段を上ると

『ニンゲン!!ニンゲンだぁ!!』

 魔物が驚きの形相でこちらを見つめていた。

「・・・魔物!?」

 ウィルの言葉と共に皆が身構えると、おぞましい声が響いてきた。

『止めろ・・・お前たちのかなう相手ではない・・・』

 恐らく、そう言ったのだろう。
余りに低く渇いた声のため、良く聞く取ることが出来なかった。

『シカシ・・・デュラン様・・・』

『その者たちは私の客人だ、快く迎え入れろ』

 おそらくこの城の城主、そして第4の封印を守護する倒すべき相手。
4人はとっさにそう感じる。
魔物たちはおずおずと引き下がると、ぺっと唾を吐いて何処かへ消え去った。

「いよいよ、最後の封印ね・・・」

「ああ、きっとそのデュランって奴を倒せば封印は解けて神の城も解放される」

 皆の脳裏に封印を守護する魔物との激しい戦いが思い出される。
ごくりと息を飲んで、風の吹き抜ける回廊を進んだ。




 美しい壁画に目を奪われながら回廊を通り抜け、澄んだ噴水を取り囲む庭園に目を奪われながら扉をくぐると、ようやく大広間に辿り着いた。

玉座には王に代わり、人間と同じような姿をした魔物が堂々と座っていた。

尖った耳に、緑色の肌、爬虫類のように黄金に光る瞳は魔族の証。
反射的にウィルたちは身構えた。

「待ちくたびれたな・・・だが、せっかくここまで着て頂けたのだ
挨拶代わりの持てなしをさせて頂こう」

 パチンと指を鳴らすと、柱の影に隠れていたのか横から
格闘パンサーと切り裂きピエロが不意を突いて襲いかかってきた。

ユナは一瞬驚いたが、相手の勢いを利用して格闘パンサーを投げ飛ばす。
ウィルはカウンターで相手よりも先に隼切りをお見舞いした。

「ほう、さすがは伝説の武具を集めてここまで来た者たち・・・と言ったところか」

「ずいぶんと手荒い歓迎だな」

 パンパンと手を払い、ユナはその魔物を睨んだ。
デュランと言ったその魔物は、肩をすくめて頬を不気味に躍動させる。

「これは失敬マドモアゼル。次のお持てなしは喜んでくれるといいのだが」

 また指を、今度は続けて二回鳴らす。
趣味の悪い玉座の後ろから、思いがけない人影が姿を現した。

ドクン・・・!

ユナとミレーユの心に、青い閃光が走り抜ける。

「・・・・・・テリー・・・?」







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