▼再会2...
デュランの治めていた天翔る城ヘル・クラウド。 主を失った事によって異様な魔力から解放された事にチャモロが気付いて馬車の外に出る。 ハッサンもつられるように外へ出てみんなを迎えた。 「遅かったじゃねーか!ミレーユ・・・!」 ハッサンはホっと安堵の表情を浮かべたのも束の間、ミレーユの隣にいるスラっとした男に ぎょっとした。 「おっ!お前はぁ、あん時の・・・剣士!なんでお前がこんな所に・・・!」 「ハッサン、ごめんなさい。この子、私の生き別れだった弟なの」 「!!んーだってぇぇ!!ミレーユの・・・う・・・うぉおとぉうとぉ!!」 ハッサンにとってはまさに寝耳に水。 頼にもよって自分の大嫌いな男が 頼にもよって自分が好意を抱いているミレーユの弟だったなんて。 「いちいちうるさい男だ」 暴言と憎らしい顔に、一瞬くらりと目眩がする。こいつが・・・こんな奴がミレーユの弟・・・。 「やや、ミレーユさんの弟さんだったのですか!私はチャモロと申します。 どうぞよろしくお願いいたします」 チャモロが親しげに右手を差し出したちょうどその時、バーバラ、ウィルが竜の祠から帰ってきた。 「テリー、もう仲間とうち解けてるんだ!やっるぅ!」 バーバラが息を切らしながら駆けつける。 テリーは、まだ右手を差し出しているチャモロを無視してフンと不機嫌そうに鼻で笑った。 「勘違いするなよ、オレはお前たちの仲間になったわけじゃない。姉さんが力を貸してくれと 言ったから、旅に同行してやってるだけだ」 「・・・・・・・・・んなっ・・・!」 とたん、ハッサンの怒りが急に目覚めた。 「てめぇ!!ミレーユの弟だからっていい気になりやがって!オレだってお前みたいな奴 仲間だなんてぜってぇ認めねぇぞ!」 「ちょっと、ハッサン!テリー!」 ミレーユが二人の間に仲裁に入ったが無言のにらみ合いは続いた。 「・・・・・・・・・何処に行くの?テリー」 険悪なムードを残して、テリーは踵を返した。 「帽子を城に忘れてきたみたいなんだ。探してくる」 「そんなの、私がまた縫ってあげるわよ」 「そういう訳には・・・いかないんだ」 心配そうなミレーユの横をすり抜け、先ほどの城へさっさと引き返していった。 テリーがやっと見えなくなった所で 「何なんだよ、あの男は!」 ハッサンがぺっと唾を吐く。チャモロは困ったように微笑み 「きっと初めての事で照れてらっしゃるのでしょう」 「はぁ!?どう見ても照れてる素振りなんてなかったぜ!?」 腕組みをして頭から湯気が出ているかのような怒りっぷり。 「あんな奴が仲間になるなんて、オレはまっぴらゴメンだからな!」 バーバラとチャモロは大人げないよ、とハッサンの肩を叩き、ウィルは困った顔でいる。 「ハッサン・・・本当にごめんなさい・・・」 ミレーユには弱いハッサン。 行き所を失った怒りを抑えるため、ハッサンはふぅと息を吐いた。 「・・・・・・・・・」 昔は天空人が住んでいたと言う天翔る城。 今やその城は地上に落ち、窓からの景色はくぐもっている。 ユナはまだ、あの大広間から動けないでいた。 霧のかかる自分の記憶。 そして、想い人との切ない記憶。 美しい壁画を見ながら、巡る想いを未だ整理しきれないでいた。 「・・・・・・どこに落としたんだ・・・あの帽子は・・・」 あの帽子は・・・ 城の長い回廊を歩きながら、不意にテリーは立ち止まった。 今までこの事は考えないようにしてきた しかし思考は止まらず、次々と頭の中に見たくない映像が流れる。 テリーは無理矢理頭を振り、無理矢理頭を切り替える。 そしてデュランのいた大広間の扉に手をかけた。 「・・・あれ・・・?」 テリーの帽子・・・? やっと壁画から目を外すと見覚えのある青い物体が目に飛び込んできて、心の中を騒がせる。 切ない想いが言葉をなくす。 ずっと・・・持っててくれたんだ・・・・・・ その想いがユナの手に、その帽子を触れ合わせた。 「・・・ユ・・・」 射抜かれたような衝撃がテリーを貫いた。 金に近いイエローブラウンの、短く切った髪。 スッキリした髪型から覗かせる髪と同じ色の眉。 ぱっちりと開いている大きな、薄い金の瞳。整った鼻と唇。 「・・・・・・ユ・・・ナ・・・?」 ゆっくりと、だんだんと大きくなっていく心臓の音。 震える指先、揺れ動く心。 「・・・・・・・・・・・・・っ!!」 少し伸びた銀髪は瞳の下まで伸びており、 前髪の間から、なんとかアメシストの瞳が見え隠れしていた。 相変わらずの綺麗な瞳、長いマツゲ、スラっと筋の通った鼻、唇・・・。 どのくらい時間が過ぎたのだろう・・・・・・。 その時間は、二人が状況を認識するのには少し短かったのかもしれない。 特に、テリーにとっては。 「・・・・・・ユナ・・・なの・・・か?」 先に動いたのは、テリーの方だった。 ユナから視線を離さず、目の前まで歩み寄る。 ドクン、ドクン。 それだけでユナの心臓は破裂しそうに激しく強く脈打っていた。 「どうして・・・こんな所に・・・お前が・・・?」 ユナは必死に視線を外して真っ赤な顔でうつむいた。 「まさか・・・ミレーユ姉さんと・・・ずっと一緒にいたのか!?」 「・・・・・・・・・・・・」 心臓が激しく脈打つ中で、ゆっくりと頷いた。 テリーはたまらずユナの肩に手をかけて 「じゃあ、なぜ声を掛けなかった!?何度も会っていたはずだろう!?」 何を言ってるのか、自分でも分からず叫ぶ。 「オレは・・・オレはずっと・・・・・・・・・!」 テリーは言いかけてハっと口を押さえた。 ずっと・・・・・・? 何を言おうとしているんだ・・・・・・ 「ちが・・・」 やっとユナは瞳を手で押さえ、テリーと視線を交わらせる。 「ちがう・・・」 泣きたくなんかない・・・・・・! しかし、自分の意志とは反対に、今まで会えなかった辛さと悲しみが涙となって 目に見えるユナの気持ちとなってボロボロと頬を伝わる。 「・・・会いたかった・・・」 少しだけテリーの胸に倒れ込んだ。 テリーはユナの肩に置いていた右手を、仕方がなしにユナの背へ回した。 「本当は・・・会いたかったんだ・・・」 今まで嘘をついていた自分をやっと認めて、涙目のまま訴えている。 「・・・ユナ・・・」 再びテリーは呟いた。 自分の気持ちを確かめるように。 「ユナ・・・・・・オレは・・・・・・」 しかし、まだ前のミレーユより泣いているユナに息をつくと それから何も言わなかった。 「・・・ごめ・・・ごめ・・・ん」 ユナは涙を無理矢理に喉の奥に押し込んだ。 テリーは静かに首を振って 「謝るのはオレの方だ、悪かったな・・・あの時・・・守れなくて・・・・・・」 ユナは何も言わず、何も言えずに同じように首を振った。 涙を押しとどめているせいか、喉が焼けるように熱い。 そしてようやくテリーの胸から距離をとった。 テリーの瞳に懐かしい少女が映ると、 「・・・生きていてくれて・・・良かった・・・」 自分でも気付かなかった本音がポロリと出た。 だが今のテリーはその事に気付く余裕すら無かった。 そんなテリーに、ユナも気付くことが出来ずにぎこちなく頷いた。 胸も喉も顔も体も、これ以上無いくらい熱い。 これ以上言葉を交わすと 目を合わせると 本当に心臓が破裂するかもしれない・・・・・・。 聞きたいことが山ほどあるのに、それさえも言葉にならない。 テリーもユナに対して、同じ気持ちでいた。 「あの、さ この帽子・・・・・・・・・」 やっと出した第一声。 「また、新しいの作っていいか?オレさ、ミレーユさんに教えてもらったんだ、あの・・・裁縫。だから・・・」 とぎれとぎれの言葉はユナの今の気持ちを匂わせている。 テリーはやっと少しだけ笑うと 「こんな短期間に上手くなったとは思えないが、もう一度作ってくれるんなら作ってくれ」 その言葉にがばっとテリーを見上げた。 「う・・・うん!」 ようやくぎこちないながらも笑顔を返す事が出来た。しかし、いつもより余計に腫れた瞳。 やっと自分の気持ちの整理がつくと慌てて立ち上がった。 「ほら、さっさと行くぞ」 いつもと同じような台詞を残しテリーは歩き出した。 ユナはテリーの帽子をぎゅうっと握りしめ、たまらなく愛しい気持ちに陥っていた。 テリーの後ろ姿を目で追いながら・・・・・・。
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