▼暗黒の支配者...


「・・・そうでしたか・・・ウィルさんはやっぱりレイドックのウィル王子だったんですね・・・」

 お互い今までの経緯を伝えると、トムは感極まった目でウィルを見つめた。

「トム兵士長も・・・いや、トムも協力してくれ。クリムト様を助け出してアクバーを倒す為に・・・」

 レイドックの王子だった現実のウィル。
剣術を教えて貰っていた懐かしい昔を思い出して、自然と昔のような言葉遣いが出る。

「・・・・・・」

 皆の期待を一心に受け、トムはそのまま無言でうつむいた。そして顔を上げ

「無理を言わないで下さいよ王子・・・アクバーはとてつもなく強いんですよ、まさか・・・倒せるわけがないじゃないですか。こんな事は言いたくないのですが、無駄死にするだけです。どうか、このまま逃げて下さい」

「なっ!?トム!?」

 ウィルの声と同時に、ハッサンがトムの襟元を掴んだ。

「ソルディ・・・いや、トム兵士長!あんた本気で言ってるのかよ!」

「本気も何も・・・答えずとも分かるでしょう・・・?もう・・・私は生きていく希望を失った・・・
今さらこの世がどうなろうが・・・知ったことではないんです」

「・・・・・・!」

 ハッサンは眉にシワを寄せ、唇を強く噛んだ。
ボスン!
掴んでいた手を離すと、トムはそのまま尻餅をついて脱力した。

ハッサンの拳は震えていた、行き所のない怒りと悲しみに。
レイドックの兵士になりたかったのは、このトムに憧れていたからだった。
昔から憧れだったトムの、こんな姿見たくはなかった。

その場の空気がぎこちなく流れる。
トムは壁にもたれ掛かったまま再び立ち上がり、
そのたくましい体から言ったとは思えないほどの細い声を出した。

「・・・子供たちを失って・・・ハスミはもう寝込んでしまっているに違いないんだ・・・もう私には・・・
守る者など何もない・・・」

 小さな声で繰り返す。
聞き覚えのある名前が聞こえた気がして、ユナは弾かれたようにトムを見た。
その顔は憔悴していたが金髪とその青い目。いつかどこかで見覚えがあった。

『夫はレイドックに仕える兵士長なんです』

 そう、あのトルッカの街外れに住んでた親子。その母親の名前がハスミだった。

「トムさんっ!」

 直感的に感じ、ユナは思わず声をあげた。その場に似合わない明るい笑顔。

「サスケとキッカは死んでなんかいませんよ!ハスミさんもきっと元気です」

 突然の言葉にトムは仰天してユナを見た。テリーもその言葉に反応してしまう。

「あ・・・あなた・・・何故それを・・・・・・!」

 ユナは白い歯を見せて、ハスミたち親子と出会った時の事を話し出した。





「そんな・・・事が・・・」

 その話を聞き終わった所で、トムの瞳に光が戻っていた。
ハッサンやウィルが懐かしく感じる、あの強くて優しい瞳だった。

「トムさん、クリムト様や街の人を助け出す手助けをしてくれますね?」

 ユナがまだ放心状態のトムにそう告げた。
トムはやっと我に返るとゆっくりと頷き、目頭を押さえながら頭を下げた。




 ピチャ、ピチャ・・・どこかで水の流れる音がする。

まるで何十年も何者も通っていないような不気味な階段。
苔がびっしりと張り付いていて、暗闇の中下りる事も容易ではない。
ランタンを掲げ注意深く降りたその場所には朽ちた鉄格子と暗闇しか見えなかった。

「・・・・・・・・・クリムト様・・・?」

 鉄格子をこじ開け中に入る。ランタンの光に照らされた”何か”が目に入った。

「・・・その名を聞くのは何十年ぶりだろうか・・・」

 その”何か”は近付くに連れ、形のある物になっていった。
伸びきった髪、やせ細った体は惨い事に、鎖で壁に貼り付けられている。
ランタンが手から滑り落ちた事も気にせずにウィルはその人物に駆け寄った。

「クリムト様ですね!!オレたちは貴方と欲望の街を助け出す為に来ました!
アクバーを倒して、一緒に逃げましょう!!」

 ウィルの言葉にゆっくりと顔を上げた。
顔には深いシワとぐしゃぐしゃに伸びきった髭、クリムトで有るはずの初老の男は

「何を言っておる若いの、アクバーを倒すなど・・・馬鹿げておる」

 久しぶりに声を上げたのかゲホゲホ咳き込んだ。

「魔王を倒すにはクリムト様のチカラが必要なんです!!」

 ランタンを掲げてミレーユが叫ぶ。クリムトはようやく反応した。

「・・・・・・魔王・・・?」

 コクンとウィルが頷く。クリムトは訝しげにその青年の瞳をのぞき込んだ。
その瞳の奥には力強い一筋の光が見える、その光は長年待ち望んでいた光そのものだった。

「そうか・・・お前が・・・勇者か・・・!神々が封印され、もう為す術は無いと思っていたのだが・・・・・・」

 生気の無かった青い瞳が見開いて、ウィルとその仲間達の姿を捕らえた。
クリムトは鎖でつながれた手足を外そうと藻掻きながら

「明日の満月の夜。アクバーはこの街の人間の命を捧げ、魔王の魔力を増大させると言っていた。
倒すなら・・・今しかない!」

「クリムト様・・・!」

 毛むくじゃらな顔が微笑んでいる。ハッサンは壁に繋がれている鎖を外してやるとよろよろと
歩き出した。

「わしについてこい」

 皆はなるべく目立たないよう、クリムトを支えながら歩き出した。




「・・・アクバーは強いぞ」

 トラップや魔物を警戒しながら進んだ所でクリムトは誰ともなく呟いた。

「分かってます・・・でも、オレたちは魔王を倒すためにここまで来たんです。
こんな所で立ち止まっているわけにはいきません」

「・・・・・・そうか・・・」

 ウィルの言葉にそれ以上何も言わなくなると、ピタっと足を止めた。

「この扉の向こうにアクバーがいる」

 大きな口を開けた竜が施されている悪趣味な扉。
その脇には邪神のような彫像が翼を広げている。
強固な石造りの扉を通しても分かるほど、邪悪な魔力が伝わってきていた。

「クリムト様は街の人々を非難させる準備をしてて下さい!アクバーはオレたちが倒して見せます!」

 クリムトは強い瞳でウムと頷くと、ウィルたちの体力を回復して強化呪文を施してくれた。

「わしの命も、この街の人間の命もお主達に託そう。頼むぞ」

 クリムトの言葉に皆は顔を見合わせ息を飲んで頷く。
力を込めて扉を押し出すと、地響きを立てながら扉は開いた。

「明日は美しく怪しい満月だ、魔王様がより強力な力を得る為の前夜祭に相応しいと思わないか?
なぁ、人間どもよ!」

 扉の先、どす黒い血の色をした魔物が月をバックに高笑いしながら見下ろしていた。
巨大な暴れ馬のような体で仁王立ちして純白の外衣を翻している。

「私がこの街の主、闇の帝王アクバーだ。お初にお目にかかる」

 アクバーは胸に手を当てて紳士のように振る舞う。
長い三本の指でウィルたちを差しながら

「イケニエにする魂・・・人間が1匹2匹・・・七匹も・・・」

 ベロリと舌なめずりをした。

「それはオレたちを倒してからにするんだな!」

 ハッサンとテリーは目にも止まらぬ早さで剣を引き抜き、同時に斬りつけた。

「こざかしい!」

 アクバーは両手を一振りしただけで、二人を壁に叩き付ける。

「ハッサン!テリー!」

「このやろーっ!!」

「ピッキキィ!」

 ユナとスラリンが声と共にベギラマと炎の息を浴びせる。
その後ろからウィルが斬りつけた。

「人間どもが・・・!!」

 真っ赤に裂けた口を開け、アクバーは純白のマントを剥ぎ取った。
翼を広げて飛び上がり咆哮する、それは戦いの合図だった。




 アクバーはその大きな口から灼熱の炎を吐き、巨大な体で猛突進して
回復呪文まで使いこなすやっかいな相手だった。
翼を広げて空に飛び上がり、気を抜けば急降下して襲ってくる。

・・・・・・強い・・・!
皆が同時にそう思う。それほどまでに手強い相手だった。
長く苦しい戦いに体力も魔力も尽きかけようとしていた。

だがウィルの一振りがその流れを変えた。
ウィルの魔力をまとったラミアスの剣が、アクバーに致命的なダメージを与えたのだ。

「ぐあああああーーーっ!!」

 天界が作りしラミアスの剣とウィルの光の魔力。そのどちらもがアクバーの唯一の弱点だった。
アクバーの巨大な体が一歩二歩と後ずさり、そして、ドスンと地響きを立て倒れた。

「・・・やった・・・か・・・」

 倒れていたハッサンがよろめきながら立ち上がる。
身構えながらアクバーをのぞき込むと

「フ・・・フフフ・・・」

 気味の悪いアクバーの声に怯んで後ずさった。
アクバーは赤い体から青い血を流しながら、狂ったように笑い出した。

「もう遅いわ・・・既に愚衆らの魂は魔王様に献上された・・・・・・」

「ウィルさん!」

 アクバーの呻き声を、扉の開く音と共に何者かの声がかき消した。

「町の人は全員助け出しましたよ!」

 クリムトと、その後ろにはたくましく貫禄のある剣士が控えていた。
嬉々とした声をあげたのは剣士の方だった。

「・・・・・・な・・・にっ!まさか・・・魂の呪縛は・・・っ!」

 アクバーはクリムトを見つけて、ハっとした。

「わしを甘く見るな、腐っても賢者じゃ。呪縛は解かせてもらったぞ」

「クリムトさん!トム!」

 ウィルが駆け寄った。アクバーはギリギリと奥歯を噛み締める。

「トムめ・・・裏切ったな・・・」

「私は元々人間たちの味方だ」

 その頼りのある言葉に、皆も傷ついた体で続々と立ち上がった。

「ウィルよ、こやつは放って置いても死ぬ定めにある!今の内に呪文で脱出するぞ!」

 髭むくじゃらのしっかりとした指揮官が魔力を高めて手を差し出した。
皆は互いの手をつなぎあい、クリムトに身を任せる。

「皆いくぞ!・・・リレミト!!」

 ブン・・・!
大勢の傷ついた戦士たちは髭むくじゃらの老人と一緒に消えた。

ただ一人を残して・・・・・・





「ピキィ!ピキィ!」

 アクバーは無念の形相で息絶えていた。
生物が存在していないような静まりかえった城に、スラリンの叫び声だけがこだましていた。

暗い雲が月明かりを完全に隠す。
暗闇が歪んだかと思うと、そこには邪悪な魔力を持った何かが現れた。
小さな体に禍々しい翼を広げて宙に浮いている。
爬虫類のような体と目を持った三つ目の魔物だった。ケタケタと笑っている。

「つーかまーえたっ!」

 見えない力で体の自由を奪われ、その場に横倒しになる。
自分の力ではこの魔力からは逃れられない。
死を覚悟しつつも、ユナはその魔物をにらみ付けた。

「・・・お前誰だ・・・どういう・・・つもり・・・だ?」

 強気の言葉に、また気に障る笑い声を上げる。
ようやく見えだした月を背に、魔物は足を組んで浮遊した。

「血の匂いがして来てみれば、今噂になっている勇者一行と気に入らないアクバーが
つぶし合ってやがったんでな。暇つぶしに見物して、暇つぶしに勇者の仲間でも
いたぶって遊んでみようと思ったわけよ。ヒャーッハッハッハ!」

「く・・・そ・・・っ!」

 蜘蛛の糸のように細く強い魔力に囚われて、指の一本すら動かせない。
自分の無力を呪い、残忍に笑う魔物に観念した。逃げられない、確実に殺される。

「あん?つまんねえな、もう抵抗しねえのか?もっと叫べよ、喚けよ
助けて下さいって必死に命乞いすればオレの気も変わるかもしれないぜぇ?」

 ユナは目を伏せて何も言わなかった。
アクバーとの戦いで酷く消耗して、抵抗する魔力も体力も残っていない。

「フン、じゃあ命乞いするまで十分にいたぶってやるよ!指を一本一本切り落として
耳も鼻もそぎ落として、死なない程度に皮を引き剥がしてやろう!
命だけは助けて下さいって土下座して、野良犬みてえに従順に振る舞うまでな!
オレは優しいから意識だけは残しておいてやるよ!!」

 残忍な笑みを浮かべ、魔物は手の爪を鋭利な刃物のようにジャキリと伸ばした。
鈍い光がユナを照らす。

こんな魔物に捕まるなんて、最期まで最悪な人生だな・・・。
何故か、フっと笑ってしまう。自分の人生に。運と、男運の最悪さにも。

「笑ってんじゃねえよボケがぁぁぁぁぁっ!!」

「・・・・・・・っ!!」

 鋭い爪が急降下する。
痛みが全身を貫く感覚が先行する、が、その痛みはユナを貫かなかった。

「んだっ・・・!!てめえ・・・っ!!!」

 思いがけない人影がユナの目をかすめた。

「ユナ様!ご無事ですか!!?」

「ピエールっ!?」

 スライムナイトのピエールは持てる力と魔力の全てを注ぎ込み、魔物を食い止めている。
魔物の爪はピエールの体を貫いて、ユナの体にはピエールの青い血が滴り落ちてきていた。

「ピエール!!なんでこんな所に居るんだよ!!そいつは危険だっ!!
オレに構わず逃げてくれ!!!」

 ユナが叫ぶがピエールは振り向かなかった。
そして振り向かずに

「私の誓いを忘れたのですか?貴方を守るために、私は命を賭して戦うと。
騎士としてその誓いを果たさせて下さい」

「バカッ!誓いなんて良いから早く逃げろ!!」

「いいえ、逃げません!騎士の誓いは命より重いもの。
そして自分の主の命は、自分の命よりも重いのです」

 ピエールは引かない。ユナは首を振って必死に懇願した。

「頼むから・・・逃げてくれよ・・・っ!!オレだって、仲間の命は・・・自分の命より重い・・・だからっ!」

 バチィッと凄まじい魔力が弾ける。
三つ目の魔物とピエールの魔力が相殺しあった音だった。
生命を燃やした白い光、死ぬ覚悟のピエールにユナはどうする事も出来ず
ただただ涙が溢れた。

「・・・本当に、貴方は優しい人ですね・・・そんな貴方ですから私はこんなにも
酷く切なく
惹かれたのでしょうか・・・」

 ゆっくりと振り向くピエール。鉄仮面の奥の暗闇は出会った頃とは違い暖かい光が
差し込んでいるように思えた。

「オレをさしおいてゴチャゴチャしゃべってんじゃねー!!」

 三つ目の魔物は藻掻いてピエールを振り解こうとするが、束縛は解けない。
こんな格下に手こずる事は、その悪魔にとって最大の屈辱だった。

「てめえ・・・まさか、自爆するつもりか・・・?だったらやめときな
オレはお前ごとき3流の自爆なんかじゃ死なねえぜ
おとなしくご主人様が殺される所を見ていたらどうだ?」

 ピエールはにやりと笑って

「1匹じゃダメなら、3匹ならどうだ?」

「なに・・・っ!!」

 飛び出してきた2つの小さな影が魔物に飛びついた。

「・・・・・・っ!!メッキー・・・!ホイミン・・・っ!!お前たちまで・・・っ!」

 ユナは目を疑いった。疑いたかった。しかしキメイラとホイミスライムの幻影は
消える事無く、魔物に食い下がっている。体からは生命を燃やした白い光を放って。

「ユナちゃん、早く逃げて!巻き込まれたら危険だよ!」

「ホイミンの言うとおりですよご主人様!ここは私たちに任せて早く逃げて下さい!」

 ホイミンとメッキーは魔物の体に張り付いてそう叫んだ。

「バカッ!!お前たちを見捨てて逃げられるわけないだろ!!頼むから
オレを困らせないでくれ・・・!!」

 主の言葉に二人は初めて応えなかった。皆の思いをピエールが代弁する。

「ユナ様、私の・・・いえ、私たちの使命を全うさせて下さい。そうしないと私たちは
一生後悔して生きる事になってしまいます。主を捨てて逃げる事は、私たちにとって死ぬよりも
辛い事なのです」

 ピエール、ホイミン、メッキーは同じ瞳でユナを見つめた。
悲しみと決意に満ちた眼差しにユナの言葉が止まる。
耐え難い恐怖を受け入れることが出来ず、ユナは耳を塞いで俯いた。

「いや・・・だ・・・いやだよ・・・こんなの・・・こんなのいやだ・・・っ!!」

 ユナを捕らえていたキラーバットの魔力が途切れ、ユナの体に別の何かが弾ける。
衝撃で一瞬にして飛ばされた。
力を振り絞って立ち上がり、皆に駆け寄ろうとするが魔力の壁で弾かれる。
なにひとつ、止める術は残されていなかった。

「ばかやろう!!てめえら!!魔物の分際で人間の見方をしようってのか!?
人間ごときの為に自分の命を捨てるっていうのか!?」

 命を燃やした魔力に抗えず、三つ目の魔物は暴言を吐く事でしか抵抗出来なかった。

「ごときなどでは無い!」

 ピエールの魔力が強まって魔物を締め付けた。

「私は本当に人間に・・・ユナ様に出逢えて良かったと思っている。魔物として生きた
数百年より、ユナ様と出会って人間と共に生きた数ヶ月の方がよっぽど素晴らしい日々だった・・・」

「ハハッ、右に同じだぜ、ピエール。オレも・・・ご主人様やウィル・・・そしてバーバラさんと
一緒に旅が出来て楽しかった・・・・・・皆を好きになってたんだなきっと・・・。
いつの間にかオレは人間に憧れていた・・・生まれ変わる事が出来るなら人間として
生きてみたいって・・・」

「ピエール・・・メッキー・・・もう・・・やめ・・・て・・・」

 ピエールとメッキーの言葉に走馬燈のように日々の思い出が蘇る。
襲ってくる悲しみが涙となってユナの頬を流れていた。

「ユナちゃん」

 ホイミンの優しい声に、ユナは恐る恐る顔をあげた。
ポロリ。ゼリー状の体に水色の涙が流れている。

「僕も皆もユナちゃんが大好きだった。だからそんなユナちゃんを命をかけてでも守りたい!
そしてどうか幸せになって欲しい・・・だって僕、ユナちゃんの笑顔が大好きなんだもん!」

 ホイミンの言葉にメッキーがいつものようにニヤリと嘴を持ち上げ頷く。
ピエールも同様に

「うむ、それこそが私たちの唯一のそして最大の願い。だからもう、こんな私たちの為に
涙を流す事などおやめ下さい。私たちはユナ様の幸せの為に居るのですから・・・。
そう・・・・・・おこがましい事なのですが、出来れば私の力でユナ様を幸せにしたかった・・・・・・」

 鉄仮面の奥でピエールは暖かい物が瞳に流れ出ている事を感じた。

「小賢しい!!低レベルの魔物の分際で・・・!!」

 邪悪な魔力より生命を燃やした魔力が勝って、三つ目の魔物は逃げる事も
藻掻くことすらも敵わない。

「さよなら、ユナちゃん・・・そして・・・ありがとう」

「ご主人様と逢えてオレは魔物の中でも幸せ者でした・・・皆に・・・バーバラさんに
宜しく伝えておいて下さい・・・!」

「スラリン、ユナ様を頼むぞ・・・」

 ユナの肩でブルブル震えているスライム。
皆は、思い思いの最期の別れを告げた。

魔力が最大限に高められ、魔物がもがき苦しむ。
振り向いた3匹の顔がユナの瞳に映った刹那、白い炎が爆発した。

「いやああああっ!!」

 ・・・・・・・・・ドオオォォンッ!!!
爆風が魔力の壁に弾かれユナを避けていく。
耳を塞いで目を伏せた。真実を確かめる勇気すら残ってない。

「メッキー・・・ホイミン・・・ピエール・・・!」

 皆・・・・・・・どうして・・・オレなんかのために・・・
どうして・・・・・・・・・

「ピキ・・・ピキ・・・」

 瞳には先ほどの出来事が夢だったかのように
三つ目の魔物も・・・メッキーも、ホイミンも、ピエールも影も形も無くなっていた。

その光景を見つめて再び涙が溢れていた。

再び静寂が訪れたかと思ったが地鳴りのような音が遠くで聞こえ
地面がドンっと揺れた。地響きを立てながら床や天井が崩れだしていく。

「ピキィ・・・ピキキィ!」

「み・・・ん・・・な・・・」

「ピキキキィ!!」


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