10. 和解



 中央通を少し離れた裏路地。エリザを屋敷に帰らせて、二人は祭りとは縁遠い場所に来ていた。街の明かりが遠のいて、月の明かりがぼんやりと辺りを照らしている。
テリーの腕を乱暴に放し、ヒックスは掴みかかるように問い詰めた。

「なんで…豊穣祭に出たんだ?」

「お前には関係ないだろ?」

 そう吐き捨てるテリーに、ヒックスはついに掴みかかっていた。
テリーは軽くそれを受け流し、逆にヒックスの腕を掴む。
しかしヒックスは全く怯む事なく言葉を続けた。

「なんでエリザと踊ったんだよ?オレが分かってるくらいなんだ、エリザと踊ればユナが悲しむって事分かってるだろ?」

「昨日からずっとそればかりだな。あいつがどう思おうと、オレには関係ない」

「なんで分かってねえんだよ!お前の行動は周りの人間を傷付けてるだけなんだよ!お前は結婚の約束が出来るくらいエリザの事が好きなのか?だったらオレも何も言わねえ!
けど、そうじゃないんだろ!?」

 いつの間にかテリーは掴んでいた腕を放していた。
アメジストの瞳はその言葉を聞いてもなお、冷たい光を湛えていた。

「……エリザの望んだ事だ…」

 鮮やかな服に縫い付けられた鏡片が月の光を反射して鈍く光っている。

「エリザには…返しても返しきれない、”借り”があるからな…」

 ヒックスは眉をしかめて問い返した。

「借りって…何の事だよ?貸しはあっても、借りを作る事なんてないだろ?」

 今度は逆にテリーが眉をしかめる。

「怪我してるオレを宿まで運んだお前なら分かってるだろ?エリザはオレの怪我を治してくれた。あいつが居なかったら、正直オレでも、どうなっていたか分からない」

「――――…っ!」

 ここ数日の違和感の正体をヒックスは一瞬で理解した。

ああ そうか だから

「お前も、ユナも、そういう事だったのかよ…」

 訝しげに見つめ返すテリーに、答えを言おうかどうか迷ってしまった。
ユナの姿がちらついて。
どうしてユナはこいつに本当の事を話さなかったのか。
そこには、彼女の決意のような物があるんじゃないのか…?

だが、必死でテリーを看病しているユナの姿を思い出し、言葉が口をついて出てしまった。

「……エリザじゃねーよ…」

 まだ理解出来ないのか、テリーの瞳はまだ疑問を含んだままで

「お前の看病をしたのは、エリザじゃねーよ!」

 その言葉を聞いて、ようやくテリーの瞳が揺れた。
冷たい光は消え、逆に困惑の色が見える。
ようやく人間らしい表情になるテリーを見て、ヒックスは積を切ったかのように言葉を続けた。

「本当に気付いてなかったのか?お前の為にホイミして、危険な山に登って薬草取ってきて、寝る事も食べる事も忘れて看病して…ずっとお前の、側に居たのは……っ」

 ヒックスの胸が詰まる。
テリーが目を覚ませば彼女の苦労は報われて、きっと笑顔で報告に来てくれると思っていた。
だがその想像は現実になる事は無かった。
その悲しみや落胆を、テリーにぶつけずにはいられなかった。

「お前が倒れてから目が覚めるまで、ずっと必死だったんだ…ユナは……」

 じっと話を聞いていたテリーは、今まで見た中で一番感情を表に出しているように見えた。
いつもは鋭く冷たい瞳が、ただただ見開かれている。

「嘘だろ…」

 ようやく口をついて出た言葉。

「…あいつは…何も……」

 テリーの視線は何を捕らえるでもなく、ゆらゆら揺れた。

あいつは何も言わなかった。
1日目祭りが終わってあいつをきつい言葉で問い詰めた時もあいつはそんな事一言も口にしなかった。何故か気持ちが酷く苛立って、その苛立ちをあいつにぶつけて

「…何でなんだよ……」

 右腕に巻かれている、やけに不格好な包帯。
これはエリザじゃなくて、あいつが―――――

「―――――っ」

 頭にそのシーンが浮かんで、ぼろぼろと零れる涙を思い出して。
テリーは心臓が、ぎゅっと何かに掴まれたような感覚に陥った。

「……あいつ……どこに行ったか知らないか?」

 絞り出したような声で問いただす、しかしヒックスは首を振った。

「…オレも、朝から街中探してるんだけど見当たらねー…まだ街に居るとは思うんだけどよ」

 テリーは何を思ったか、着ていた鮮やかなベストを脱いでヒックスに渡した。

「悪い!エリザに伝えておいてくれ!今日はもう帰る と―――」

「お、おいっ!!」

 呼び止められる言葉に振り向きもせずテリーは夜の街へ駆けて行った。




 街を歩きながら、テリーは思いを巡らせずにはいられなかった。
エリザの気持ちに応えてやりたいと思っていたのは嘘じゃない。
エリザの願いを叶えてやりたかったのは嘘じゃない。
一緒に踊りたいと言えば、オレで良ければ力になりたいと思った。
そんな事を思えたのは確かにこれが初めてで、その理由はエリザの看病に感謝していたからだろうか?それとも、エリザが自分の心を支えている女性と似ていたからなのだろうか?

自分の心の中があやふやで分からない。

その答えを見つけるべく歩き出したが、ふいに聞こえてきた不思議な音がテリーを呼び止めた。何処かで聞いた事のある音だ。

いつのまにか足は音のする方へ向かって歩いている。それは街の外れで聞こえてきた。
近付くに連れそのメロディーははっきりしてきて、テリーの心を掴んで放さない。
辿りついた先はトルッカの北門。
人々が行き交う賑やかなお祭りとは正反対の、静かで寂しい場所だった。

門の前に掲げられた松明の明かりと燃える火の音。
そこにただひとり佇んで、深くフードを被って重そうな鉄の鎧を着込んだ人物が、美しい音色を奏でている。その恰好がやけにちぐはぐに見えた。

「………こんなところに居たのかよ?」

「―――――っ!」

 音色が途切れる。ようやく見つけた人物は慌てて横笛をしまって顔を背けた。
テリーは、その人物と同じように同じように門に寄りかかって

「何やってたんだよ?その調子じゃ、宿にも帰ってないんだろ?」

「……みっ、見りゃわかる…だろ…仕事だよ…門の警備…の…」

 久しぶりに聞いたような声が、ようやくそれだけを伝えてくれた。

「……こんな時にか?」

 騒ぐ胸の内を悟られないよう、テリーはいつもと変わらないように振る舞った。

「こんな時だからだよ、門番だって祭りに行きたいだろ?だから、門番の代わりにオレが
警備するんだ。すっげー良い稼ぎになるんだぜ?」

 ようやく渇いた笑い声が聞こえたが、相変わらずフードを深く被ってこっちを向いてくれない。

「……オレの火傷治してくれたの、お前なんだってな…」

「………」

「あの男が教えてくれた」

「………」

「…どうして黙ってたんだよ?」

「………」

「……ユナ!」

 いつまでも何も言おうとしないユナに耐え切れず、肩を掴んでこちらを向かせた。
フードが外れて、顔が露わになる。
その瞳はテリーの記憶の中と同じで今も潤んだままだった。

「は…なせよ…」

 ユナは拒絶の言葉を吐くも、抵抗できず視線だけを地面に落とした。

「看病の事は…テリーがオレを庇ってくれたから、だから、やっただけだし……。オレが悪かったから、ちゃんとテリーの言う事を聞いてればこんな事にはならなかった…あんな目に遭わせて……ごめん…」

 一言一言、声が地面に落ちる。それをテリーは聞き逃さず返した。

「……それは、もう良い。オレが言ってるのは、なんで、黙ってたかって事だ。ずっと、エリザが治してくれたって勘違いしてたんだからな」

「…………」

 沈黙が続いた。ユナは何かを決めかねていたが、視線を上げずまた言葉を地面に落とした。

「そっちの方が…いいと思った、から…」

「どういう意味だ?」

「そっちの方が、二人にとって、テリーにとって都合が良いって思ったから…。剣だって手に入るし、エリザも、テリーだって…幸せになれるだろ?」

「何の事だよ?」

「何の事って…だって、エリザが看病してた方が、二人の仲は上手く行くだろ?そうなった方が、テリーだっていいじゃん」

「……!お前が自分勝手に解釈するな!お陰でこっちは散々振り回されたんだからな!?」

「解釈するに決まってんだろ!だって、テリー、エリザの事好きなんだろ?見てれば分かるよ!」

「バカ!それが自分勝手な解釈だっていってるんだよ!」

「………っ!」

 ユナは驚いて顔を上げた。
目の前に映るテリーは白い膜がかかっていてゆらゆら揺れている。テリーはハァと息をついて持っていた紙袋から暖かいパンを取り出した。

「ほら」

「………」

「食えよ。ロースのサンドイッチだ」

  来る途中、店先で分けてもらった牛ロースのサンドイッチ。
別にこれで誤解の罪滅ぼしが出来るなんて思っていないが、ユナの事を考えるとついつい手が伸びてしまったのだ。

「ここで門番って事は祭りの御馳走、食えてないんだろ?」

 ソースの良い匂いが漂ってくる。
しかしユナはまた顔を俯かせて何も言わない。

「…意地張るなよ」

「…………」

「看病の事も、エリザの事だって…」

「…………」

 何も答えない。テリーはこっちを向かせようと再びユナの肩を掴んだ所で

ぐぅ

と、お腹の鳴る音が聞こえた。

 二人の間に先ほどとは違った意味の沈黙が流れる。
テリーはその場にそぐわない音の意味を知って、ついうっかり笑ってしまった。
先ほどの気まずかった空気が少しだけ軽くなったが、ユナはますます身を縮めた。

「………もう…嫌だ………」

 そして体ごと背を向けた。

「…オレ…こんなだから……!エリザみたいに綺麗でもないし…淑やかでもない……文字だってまともに読めないし……お金だって持ってない……こんな時ですらお腹減るし……オレだって…オレだって…看病されるんだったらエリザの方が良いよ!」

 右腕を上げて瞳を拭う仕草。
その後ろ姿はいつもと全く違ったように思えた。

そんな事を、考えていたのか。
そんな事で、ずっと悩んでいたのか。

看病を黙っていた理由がそれとなく垣間見える。
テリーは出会って初めて、ユナの本当の心に触れた気がした。

「………バカバカしい…」

 ようやく口から出てきたのは、いつも通りの悪態。
ユナは言い返せず、未だに背を向けていた。

「…だからなんだよ?お前がエリザと違っているからって、何か問題でもあるのかよ?」

 ユナの気持ちを知った上でテリーは言葉を続けた。
テリーにとっては、綺麗でなくても、淑やかでなくても、文字が読めなくても、お金を持っていなくてもどれも大した問題じゃなかった。
だがユナにとってはそうじゃないようで、流れる涙を拭う事も忘れて振り向いた。

「あるよ…!だって、エリザは…テリーにとって特別で……だから…っ!」

「…さっきも言っただろう!お前がオレの気持ちを勝手に決めるなよ!オレの事なんて、何もわからない癖に――――」

「わかるよ!」

 言葉を遮るように、ユナはハッキリと言った。

「だって、エリザは……ミレーユって人に……似てるから……!その人はテリーの大切な人だから…!」

 ついに頬に涙が伝わる。

「………」

「だから……テリーは…エリザが気になるんだろ…」

「………」

「だって…だって…テリーは……」

「………」

 何も言い返さず、何も答えようともしないテリー。
それからの沈黙は、ようやくユナに考える時間を与えてくれた。

「…………ごめん…」

 ユナはしばらく押し黙った後、ぽつりとそう言った。

「…はは…はずかし……」

 両手でゴシゴシ顔をこする。前髪はぐしゃぐしゃになったが、またフードを深く被り直す。
それはいつものユナだった。

「…あ〜……何か変な事言っちゃったな!あの、忘れてくれ!あっ!あと、サンドイッチありがとな!牛ロースなんて久々に食うよ!」

 奪うようにテリーの手からサンドイッチを受け取ると、ユナは再び背を向けた。

「じゃ じゃあ オレ、そろそろ街に戻るな!もう、お祭りも終わった頃だろうし!」

 軽く右手を上げて、街に戻ろうとするユナを

「…待てよ」

 沈黙を破ってテリーが呼び止めた。ユナは立ち止まったが振り向かなかった。
また自分がおかしな事になってしまいそうで、それが怖かったから。

「なんだよ……サンドイッチのお金なら後で払うから……もう……」

「………ミレーユはオレの姉貴だよ!!」

「――――っ!」

 弾かれたようにユナは振り向いてしまった。

姉………!?

それだけを言い残すとテリーは顔を背けたまま、逃げるようにその場から立ち去った。
ユナは、呆然として遠ざかっていく後ろ姿を見送るしかなかった。

「え…?え……?」

『ミレーユはオレの姉貴だよ!』

「お姉さん……?」

 その言葉の意味を飲み込めた時には涙はすっかり乾いていた。
テリーのお姉さん……。

「なんだよそういう事だったのか〜」

 途端にお腹が空いてきて、サンドイッチを一口頬張る。
それは甘いソースと塩味が効いていて、混乱した頭でもとんでもなくおいしく感じた。

「ほんっとオレって、バカだな〜」

 女々しさを振り払うようにそう言うと、無理やりサンドイッチを口に押し込んだ。



 街に戻る途中テリーは先ほどの自分の言葉を何度も反芻した。
どうしてあんな事を言ってしまったのだろう――――。

「…何なんだ一体……」

 心の奥底に押し込んでいた物を無理やり引き剥がしてしまったようで。
その感じた事が無い奇妙な痛みは、しばらくテリーの胸にこびり付いて離れなかった。




 小さな小窓から眩しい朝日が差し込んできていた。
外からは小鳥の鳴く声と、卸商の行き交う声。顔を洗い鎧を着込んで深くフードを被った。
珍しく剣とナイフの手入れもして、稼いだお金で要り用の物も揃えた。
携帯食、魔力が尽きた時の薬草、毒消し草に満月草。ここ最近で一番準備の整った出発の朝だった。

 昨夜、テリーが部屋のドアをノックして伝えてくれた。
明日トルッカを発つ。
その前にルドマの屋敷に行く、とも。

「ピッキィィ?」

「うん、分かってるよ、スラリン」

 窓辺で眠っていたスラリンを起こすと、スラリンは声を上げた。
ユナが鞄を開けるとスラリンはいつものようにその中に入って行く。

「自分の気持ちはもう、分かってるよ」

 そういうと部屋を出て、宿の階段を下りる。
3階建ての大きな宿と言う事もあり、一階の食堂にはまあまあの人数が朝食を摂っている。
食堂は日替わりの食事という事でメニューは一つだけだったが、趣向の凝った料理にお客は毎回舌鼓を打っていた。

トレイに乗せられた日替わりの食事をお金と交換で受け取ると空いているテーブルを探す。
食堂のテーブルのひとつに、一際目立つ人物。ユナはぐっと気を引き締めて挨拶をした。

「おはよう」

「ああ」

 笑顔でちゃんと挨拶出来たのだろうか?向こうはいつもと同じように返してくれた。
同じテーブルに椅子一つ分開けて座る。
いただきます。と手を合わせて食べ始めた食事は重い空気を払しょくするほどおいしくて
宿の主人に心から感謝した。

「それを食べたらルドマの屋敷に行くぞ。お前と一緒に来るよう言われてるからな」

 テリーは恐らくもう食べ終えているのだろう。使い古された地図を見ながらユナに目を向ける事も無くそう言う。
朝食を終えると、宿代を精算して二人はルドマの屋敷に向かった。



 生誕祭を終えたトルッカの街は、いつもと違う一面を見せていた。
道の脇に酒瓶を抱えた男たちがぽつぽつと寝転がっている。
祭りの余韻冷めやらず、朝まで飲んでいたのだろうか。
アルコールの匂いが鼻を突く中、早歩きでやり過ごそうとしたユナの心を見透かすよう二人組の男たちが道を塞ぐように現れた。

「よお、あんた、昨日の豊穣祭でエリザと踊った噂の剣士だろ?」

「間違いないぜ、銀髪に女みてーに綺麗な顔。この街じゃ銀髪なんて見掛けねえからな」

 テリーは言葉を発さない代わりに鋭い視線を男たちに向けた。
その視線に気圧され、男たちは悔しそうに道を開ける。が、ユナの右手が乱暴に引っ張られた。その勢いでフードが捲れ、顔が露わになる。

「ひゅう、女じゃん」

 慌ててフードを被り直すも、男のたくましい腕が肩に回った。

「エリザ様と婚約したらよ、この女どーすんだよ?捨てるのか?かわいそうになぁ」

 首に絡む男の腕に、ユナは一瞬血の気が引いた。

「そりゃあ、エリザ様に比べたら大した事ない女かもしれねーけどよ。女は女だ。オレたちが面倒見てやってもいいぜ」

 アルコール臭い口を近付ける男、固まって動けないユナに代わってスラリンが鞄から飛び出すも、その前に男は数メートル離れた噴水の所まで飛ばされていた。
白目をむいて伸びた顔に水しぶきが容赦なく襲っている。
ユナは驚いて隣を向いた。テリーは殴った拳をおさめて

「少しは頭を冷やすんだな」

 低い声で呟く。その捨て台詞に男たちは青くなり、こぞって皆散らばってしまった。
残っているものは空の酒瓶だけだった。

「……気にするな…あんな奴らの言う事」

 そう吐き捨てると再び歩き出した。
珍しいその気遣いが嬉しくて、それ故に婚約という言葉がユナの胸を締め付けた。
昨日のテリーの服装は、豊穣祭でエリザと踊った後だったのだろう。
エリザと婚約すればあの剣が手に入る事は確かなのに、分からないのはテリーの気持ちだけだった。




 ルドマの屋敷は初めて来た時と何も変わらず二人を出迎えてくれた。
朝露に濡れて光るバラ園が青空に映えていつも以上に綺麗に見えた。
門を潜ると、家の扉の前に居たのだろう、エリザが二人を見つけて駆け寄ってきてくれた。

「テリーさん、ユナさん、待ってました。さあ、お入りください」

 エリザはいつもより少し寂しげな笑顔で迎えると、二人を屋敷の中へ案内する。
初めての時と同じように広すぎる客室に通され、テーブルを挟んだふわふわの豪華なソファに二人は腰を下ろした。
そしてその後、ルドマが客室に入ってくる。指には大きなエメラルドの指輪、そして細かい刺繍の施された品の良い服を着ていた。
ルドマはオホンと大げさな咳払いをすると、ソファに腰を下ろした。

「まずは、お礼を言わせて下さい。テリーさん、ユナさん、エリザを救ってくれてありがとうございます!このご恩は忘れません。商人の魂にかけて」

 深々と頭を下げる。ユナは慌てて手を振り、同じように頭を下げ返した。
丁寧に二人にお礼を述べたのち、今度は神妙な面持ちになりルドマはテリーに目を向けた。

「そして…テリー君、あの話考えてくれましたかな?」

 弾かれたようにユナとエリザはルドマを見た。ルドマは身を乗り出すように言葉を付け足した。

「もし、話を受けてくれるのでしたら、プラチナソードをお渡しします。この剣とその力で末永くエリザを守って下さい」

「お父様!」

 割って入るエリザを手で制す。

「エリザ、私がテリー君に聞いてるんだ」

 数多の交渉をしてきたであろう、本心を見透かすようなルドマの瞳。
ルドマが立ち上がると同時に、テリーも同じようにソファから立ち上がる。

「オレは…」

 その顔は何を思っているのか、誰を見ているのかは分からなかった。

「…オレは…」



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